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#10. Tracking 再回収 [8][9]
酷い嵐の夜。
研究所の住居で過ごしていたヘンリーは、悪天候の影響で頭痛を起こしていた。
暇があれば目を通す本がある。
それもなかなかページが進まない。
それだけ集中できなかった。
ただでさえ考えねばならない事があるのに、進みが悪くなる。
もっと部下と話すべきなのか。
後からやって来た上に、若い。
彼等とは違い、不足している事や、分かっていない事が多いだろう。
取り入れようとしている案は、やはりチームを苦労させるだけだろうか。
ならば、彼等のストレス軽減の為にも全て取り下げ、リセットするべきか。
シャルの存在がチラつく。
結局は、彼女の言う通りなのか。
人の勉強についても、そうである。
脳から離れる事なく、今でも憑りつかれたように意識している。
ヘンリーは溜め息をつき、本を閉じるとベッドに倒れた。
窓ガラスを大きく伝う雫に目を向けながら、更に考え事は続く。
祖父は自分に、ここでやっていけると言った。
しかし、他の者はどう思っているのか。
また、彼は一体、シャルにどのように話をつけたのだろう。
彼女を見ていると、現状を受け入れ切れていないように思えてならない。
そこでふと、ビルに言われた事を思い出す。
彼が言う切り替えも、ずっと上手くできていない。
不安が後を絶たず、仕事や部下の事を考えずに過ごす余裕がなかった。
雨音も雷鳴も頭を刺激するばかり。
解決しない事ばかりに苛立ちも増す。
少し歩こうと、本を枕の方に軽く投げ、部屋を出た。
研究室ならまだ、静かに過ごせるかもしれない。
エレベーターでロビーに降りるなり、向かいの塔へ駆けた。
ゴミの焼却をしており、ダクトから煙が出ている。
雨量も多く、雨粒も大きいせいで、一瞬の移動でも服がかなり濡れた。
焼却炉の微かな音を感じながら、エレベーターで上に向かう。
行き着いた先は、祖父が最もよく使っていた実験室。
大量の資料や書物があり、ステンレス棚には数々の薬品サンプルも並んでいた。
統一感がなく、取り敢えずここに仕舞おうといった具合か。
以前はもう少し整っていたようにも思えるが、これではまるで倉庫になっている。
こうなってしまった理由は何なのか。
こんな事を問い質せばまた、煩いだのと言われるのか。
自問自答を繰り返す中、再び気になるのは、紙ベースでの保管が多過ぎる事。
頭を掻き、顔を険しくする。
(…OFF…か……)
どう考えても自分にとってのそれは、一時考える事を止めている事柄について、考える事である。
ゼロを作っている期間中、かなり精神が楽になっていた事を思い出した。
やりたい事をやるだけで、ストレスは解消される。
実に単純な事なのに、忘れていた。
ふと目についた分厚いバインダーを、中央のデスクに次々と出していく。
データ化する手段を考えようと、端に据えられたコンピューターデスクに向かい、その電源を入れた。
(そもそもこれ自体が古いよ……)
父の職場でも、もうこんなコンピューターは使っていない。
それだけ型が古かった。
データとして取り込むなら容量が要る。
結局買い替えが必要で、それが実現可能かをじっと考え始めた。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




