[1] 1800.
#08. Reboot 脱出 [7]
#11. Almost done 実行 [7]
#12. Complete 細胞の記憶 [5][8][15]
研究所では案の定、シャルの激怒が轟いた。
面白がる部下もいたのだが、ロボットがうろつく現場はやはり、周囲にとってはどうしても奇妙でならなかった。
「さっさと片付けて!音も煩いし!
どうして貴方はそうなるのかしら!?
人手不足の解消がロボット!?
ふざけないで!」
シャルは苛立ち、持っていたバインダーを傍のデスクに叩きつける。
「前例も無いし一般的じゃない。
薬品開発をする最中、こんなものウロウロされてちゃ管理が増える!
まともな策を考えて!
できないなら、私が言った通りにするのね!」
そんな彼女を逆撫でするように、資料の運搬を丁寧に終えたゼロが彼の元に帰ってきた。
彼女は大きくそれを避け、焦燥しながらその場を立ち去る。
ゼロは、運搬物の認識ができなくなると、勝手に止まった。
それを見届けた後、研究室の机に大きな音を立てて彼は突っ伏す。
苛立ちがまた、両手を微かに震わせていた。
生理的に受け付けなくなってしまった声と口調。
そこに怒鳴り声。
怒鳴られる事は、恐怖と動悸を大波の如く引き起こす。
最近は、そこに耳鳴りまでが加わるようになった。
酷い時は、頭痛が重なる。
ここは職場だ。
そして自分はトップで、こんな崩れた姿を見せる訳にはいかない。
彼は必死に、今を乗り越えるべく感情の全てを隠し続けた。
そこへ、缶が置かれた音がし、突っ伏した腕から目だけを覗かせる。
身を起こす前に、人が来てしまった。
「喧しいな、あの人。知らなかった。
君が来てから、まるで別人だ」
頭上からの声に視線を更に上げると、細身で体格が良い警備員が立っていた。
初めて見るが、その言い方からしてここの事は以前から知っているのか。
真っ直ぐに伸びる落ち着いた声。
暗い茶色の短髪に、精悍な顔。
どこか貫禄があるようにも感じるが、ヘンリー程でなくともまだ若そうだ。
黒で締めた制服姿の胸に光る、ゴールドの細いネームバッジに目が向く。
(ウィリアム……エジャートン……)
そう言えば警備員の把握をしていなかったと、また顔を突っ伏した。
その彼は机に腰掛けると、自分の缶コーヒーを口にしながら軽く笑う。
「難しいとこだが、前社長が君に託したんなら、仕方ない部分もあるだろうな」
未だ何も言う気になれないのは、震えが治まるのを待っているからだ。
せめてそれくらいは隠し通す。
しかし、顔だけは上げた。
「君に任せたいって、よく言ってたよ。
多分以前からそういう考えだった。
あの、よくできる側近がいながら。
君は、随分と偉いのな。
流石は、一流の科学者の子ってところか」
2口目で缶コーヒーを一気飲みすると、ゼロに目を向ける。
実に奇妙な見た目だが、彼は気に入ったのか、笑っていた。
「こいつに例えば、俺達が受けてるような訓練をさせたら、かなり使えるだろうし、頑丈だろうな。
リスクが高い仕事だし、命を懸ける事を考えりゃ、こいつらが代わりにやるのは有り難い事かもな。
まぁでも、そうなりゃ俺達の仕事はなくなる。
何とも言えないな」
内容は皆無だが、彼等は、沿岸警備隊と同等と言って良いレベルの訓練を受けているらしい。
彼の体格を見て、何となくそう感じるものがある。
ヘンリーは、急に現れて話す彼を、未だ不思議そうに眺めるだけだ。
それに気づいた彼は、ヘンリーを見下ろし、クスッと笑って立ち上がる。
「頭が切れるのは良いが、そうも天才だと、通り越して馬鹿だ。
たまには考えるのを止めろ」
震えが治まり、机に預けていた身をやっと起こすと、上から下まで彼をじっくり見た。
そして、発言に僅かに首を傾げて反応を示す。
「いざ働くとなったら急に舵取りで、気張ってんだろう。
ONとOFF、メリハリつけろ。
じゃなきゃ、おかしくなっちまうぜ。
機械も時には、停止させた方がいいのと似たようなもんだ」
彼の話し方は、不思議な感覚だ。
馬鹿と罵ったり、偉そうな命令口調が入るのだが、嫌な気がしないのは何故だろう。
じっと考えさせられてしまうが、深入りしてしまう前に慌てて頷く。
「ああいた。ビル、行くぞ」
そう呼ばれた彼は空の缶を握り、声を掛けてきた同僚と共に、あっさり立ち去った。
数多くいる警備員だが、この日を境にヘンリーは、彼が気になった。
しかし、それ以来顔を見る事がなくなった。
彼等もまた、交代要員が多い。
ヘンリーも日々忙しく、変わらず横で喚かれ苛立つ生活を重ねるにつれ、ビルが気になっていた事すら忘れていく。
そしてやっとその顔を見られたのが、最悪の日だった。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




