[8] 1400.
#05. Error 誤搬送 [4]
#07. Cracking 処分 [14]
#12. Complete 細胞の記憶 [22]
彼女の訪問は必ず夜で、翌日も、そのまた翌日も続いた。
1日、わざと空けてみた。
カーテンの隙間から覗くと、やはり訪れている。
しばらく出て来るのを待機していたが、諦めて立ち去った。
一言も話しておらず、向ける目は鋭い。
顔を合わせたかと思えば、ただ身形や特徴を観察するだけ。
そんな人間を、彼女は怖がらずに何度も訪ねてきた。
(………何でだ…?)
本を片手に、初めての状況に少々困惑していた。
特に年齢が近い女性との接し方に、どこか焦ってしまう。
しかし最も心に残った事があった。
彼女は、聞こえない自分に対し、無視しているのではなく集中しているのかと言った。
まさか通りすがりの他人にそう言われるなんて、今でも信じ難い。
次の日の晩。
ゼロの試運転で庭に出ると、彼女はしっかりと待ち伏せしていた。
初めて真正面を向き、堂々と出てやると、なんともう1人いる。
一体誰だと、驚きを隠せないまま静かに観察を始めた。
目深に被った黒い帽子に、紫のスカーフを髪ごと首に巻き、顔の見た目がほぼ分からない。
大きめのレンズにゴールドの縁をもつ眼鏡をかけ、身長は女性にしては高く、ほぼ同じくらいか、あちらの方が少し高いだろうか。
2人はこちらを見ながら、小声で何かを話している。
とんだ来客だと小さく溜め息をつくと、両手をポケットに、その中でリモコンを操作した。
「あ!ほら!ね!?」
何だか嫌な絵面だ。
人の家の柵に寄って集り、嬉しそうにロボットを見る彼女がまるで、動物でも見に来ているように思えてならない。
ゼロは2人の方を向いて止まると、柵を握り、急に数回揺らした。
それに驚き、2人は声を上げて後退る。
だが、いつもの彼女が再び近づくと、ロボットはまた威嚇するように柵を揺らした。
今度は引き下がらず、彼女はそれをまじまじと見つめる。
「……何だ…毎晩毎晩……
防犯対策にしちまっただろう…」
初めて彼は、声を放った。
「防犯対策ですって!?
私が不審者だって言いたいの!?」
「他に何がある……」
「………ねぇ?これ、何に使うの?」
威嚇していたつもりだが、効いていない。
不思議な事に、2人は自分を怖がったり、揶揄う事をしない。
目つきは、自然と戻っていった。
「ね?凄いでしょ?」
横の連れに、同意を求めている。
見た目が特徴的な彼女もまた、目の前で停止するロボットを凝視していた。
彼と、このロボットの話は散々聞かされている。
彼は一切口を利かずに立ち去ると聞いていたので、そっとしておいた方が良いのではないかと提案をしていたのだが、結局道連れにされていた。
「私レイシャ。貴方は?」
答えない。
ロボットは向きを変え、柵に沿って真っ直ぐ歩いていく。
レイシャは返事を気にせず、それに釣られて後を追った。
「貴方は、警戒心が強いの?」
彼が振り向くと、長身の彼女はそっと眼鏡を外して言った。
「嫉妬しちゃうわ。
彼女は会う度、貴方の話ばかりよ」
「………は…?」
耳を疑う。
「声を聞くのは、今日が初めてみたいねぇ。
貴方さえ良ければ、仲良くしてもらえると、とても嬉しいんだけど……
急なのは、分かってるわ…」
ゼロと共に引き返してくるレイシャを横に、彼は固まる。
「私と、じゃないわよ……彼女と、ね……」
益々謎めいた発言に、首を傾げる。
「彼女……
どうしようもなく寂しがり屋だから……」
そして、徐々に目が逸らされていく。
その言葉が何を意味するのか、分からなかった。
とは言え聞き流す事もできず、この日、それは頭に焼きついた。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続き、お楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




