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#07. Tracking 処分 [14]
レイシャはよく、強い性格だとレアールに言われる。
だが、そんな事は断じてない。
今、彼女の目は虚ろになり、帰り道にある陸橋から川を見下ろしていた。
夜ならまだ、街灯が綺麗に光り輝き、美しく見える。
だけど今は、街の空気や船の排気を吸い込み、淀んでいる大した事のない川だ。
(気持ち悪い……残っちゃいけない……
思考や行動が冒涜……
私は…やっぱりそうなのか……)
冷たい手摺り。
そこに、足が勝手に引っ掛かる。
今にも川に落ちかかろうとしている。
手摺りに腹を当て、前傾姿勢になっていく。
何も変わっていない。
子どもの頃から、今と同じように変わり者呼ばわりをされてきた。
家を出た今でも両親に手厚く構われ、言われた通りにしろだの、もっと普通であれだのと言われるが、上手くいかない。
職場で受け入れて貰えない話をすると、怪訝な顔をされてしまう。
人の体について、死の事も含めてあらゆる事を考える私に、両親は思い描く娘ではないと焦る。
違う職業を勧めてきたり、家庭に入る為に相手を紹介しようとしたりする。
このまま落ちて、沈んでいけばいいのだろうか。
そんな事を思いながら、揺れる川が酷くぼやけて見えた時、携帯電話が鳴った。
幸い、その音によってすぐ我に返り、そっと通話ボタンを押す。
“いつもの時間が過ぎたわねぇ。
早く来ないと、私がまたどうにかなっちゃうかもよ?”
レアールはそう言って、電話の向こうでケラケラ笑っている。
夕べと違い、元気だ。
こうして、毎度ブレーキをかけられてきた。
レイシャはまた、適当に買い物をして向かうと言い、彼女の元へ急いだ。
「今日は、あなたが真っ青な顔してるのねぇ…」
体調が回復し、テーブルについていたレアールが紅茶を啜っている。
背中まで伸びる、軽いウェーブがかかったダークブラウンの髪。
窓からの薄い夕陽を受け、鮮やかさを見せている。
放置していた家事も、昨晩レイシャが片付けて綺麗になっていた。
整った空間にポツリと置かれたテーブルに、レイシャは顔を突っ伏している。
研究所での出来事を、ゆっくりレアールに話し終えたところだった。
「科学者って…
突拍子もない事を考えつくわよねぇ……
羨ましいわ…」
「……何でよ…」
「今の私に…特に必要な事…
そんな発想力が欲しいわねぇ…」
茶色の長い睫毛が、夕陽を受けて艶を見せる。
彼女はゆっくりとレイシャに顔を向け、顔を曇らせたまま言った。
「貴方も痩せたわね…」
「……あんた程じゃないわよ…」
ツンとした返答に、レアールは小さく笑って窓の外を眺める。
「明日、レッスンだけにした…」
「は!?行くの!?
まだ本調子じゃないのに駄目よ!」
相変わらず、遅れを取り戻そうとすぐ予定を詰める。
自分はまだまだだと言うような顔で、弱々しく笑った。
「貴方がそうして戦ってるのに…………
私も…強くなりたいのよ……」
「また言ってる。私は強くなんかない…」
そう言いながらレイシャは、レアールが目の前に置いたティーカップに手を伸ばし、入っていた紅茶を少量含んだ。
「無糖!?もうっ!糖分摂んなさいよ!」
オレンジの光の中、レアールはまた弱々しく、ケラケラと笑った。
レイシャは、彼女の顔に少し安心する。
しかし、油断はできない。
彼女は、色んな顔を持っている。
腰を下ろす前に気づいた、手元付近にあるテレビのリモコン。
ランウェイを歩いていた録画を観ていたに違いない。
ベッドには、過去のファッション誌。
同じものを持つレイシャは、レアールがそこに何ページ載っているのかを知っている。
眺めては、色々振り返っていたのだろう。
そう分析し、彼女の横顔を見る。
その顔は、先程笑っていた緩やかなものとは違い、切れ長の目をクールに際立たせた、仕事の顔になっていた。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続き、お楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




