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#07. Cracking 処分 [13]
「お前に言ってるんだ。今回の執着は最悪だな!
いいか、死んだら冥界に魂が昇る。
この世に居場所は無い。
起こしたところでロボット。結局本人じゃない。
まともな案を持ってこられないなら、辞めてもらう!
その、人体に対する思考や行動は、冒涜に値するぞ!
数日保持された状態で対面する、それで世間は満足してんだ!
もういいだろう、出てけ!耳障りだ!」
彼女は、急に喉を締めつけられたように、話す事を止めた。
上司の血相を変えた顔や怒鳴り声。
それらが齎す震えはまるで、寒さに凍える時のようだ。
レイシャは、逃げるようにその場から立ち去った。
不意にバスルームに駆け込み、洗面台で息を荒げる。
先程まで記憶していた上司の発言が、今は脳内で散り散りになって強弱をつけて聞こえている。
そこに更に被さるように蘇るのは、来るまでに耳にした他の職員の声だ。
“何で死体にあんな拘るの?
気持ち悪い。どうかしてる”
“あいつのせいで研究者や科学者が変人呼ばわりされんだ。
止めてもらいたいぜ、異常だろ。
そんなに死人が好きなら墓場に住みゃいい”
“自分もそうして維持されたいってお望みか?
今でも見ていて痛々しいのに、残られてもな”
“言われた事をしてりゃ楽な会社なのに。
ああも周りに合わせられないんじゃ、転職しても無理でしょう”
“聞いた?死んだ人をいつか起こせるって発言。
防腐処理技術を最初に生み出した人、気の毒ね。
教育環境を疑う。どんな生き方してんだか”
(違う……違う……)
動悸は今にも頭を突き破りそうになる。
震える両手は耳を塞ぎ、首を横にフラフラと振りながら、湧き出る1つ1つの声を否定する。
彼女は、エンバーミングと呼ばれる技術を高く評価していた。
死後変化を遅延、抑止し、生前の健全であった頃に近づける。
遺族の心理的負担を緩和するといった理由などにより、化学的、外科医学的技術を通して追求されて誕生したそれが、魅力的でならなかった。
その他にも、興味を持って読み漁っていたものがあった。
現段階で治療困難であっても、未来で治癒の可能性が見えた時に向け、人体冷凍保存の論理が存在しているという事。
これには驚いたが、人は人をそのように扱う事を考えつくのかと、じっと考えてしまった事がある。
いくらこれが、不可能だ異常だなどと言われていても、誰かが何処かで追求し続けているのだろうか。
そんな人がいるからヒントが生まれ、それらが拾われ、また別の人に渡り、開拓が進むのか。
人の尊厳とは一体、何なのだろう。
今、当たり前と言われている事が、以前は否定されていた事なんて山程ある。
自分もいつか、誰かの希望や夢、願いを叶えてみたい。
そんな考えが、頭で巡るようになっていた。
矛盾を嫌いながら、矛盾を生み出す人間。
都合良く理由をつけ、この先もより良い未来に向けてと言いながら、あらゆる開発をし続けるだろう。
彼女は、自分の防腐処理方法でパーツを保持し、本人に最も近く、再生と呼ぶに近い状態を生み出したいと考えている。
また会いたい。それを今よりももっと可能にしたい。
一度、新しい遺体保持方法を広めたいが為に、署名集めを試みた事がある。
周囲が旧式に囚われているように感じ、時代に応じた新技術を生み出し、新たな当たり前を作りたかった。
しかし、人に話して回っても、誰も聞く耳を持たなかった。
その殆どの理由は、死者に対し、偏屈な拘りを持つ事で噂されているからだった。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続き、お楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




