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#07. Cracking 処分 [13]
何食分かを作り置きし、レアールと別れた翌日。
今日こそ頷かせてやると、レイシャは出勤早々上司を訪れる。
部屋に入るなり、上司は相変わらずの反応を見せた。
毎度、彼女が現れては怪訝な顔をし、わざと忙しく振る舞い始める。
彼女が持ち掛ける話に、始まったと言わんばかりに溜め息をつき、否定した。
「何でよ!
遺体を冷凍保存からエンバーミングに切り替えて、恒久的に保存されてる例がある!
毎度そちらがお求めのものをこうして挙げてるのに、今度は何!?」
「それに関しては当時、その遺体に対する考え方が、今の我々と違っていた事も大きい。
偉大な存在であり、その姿を失くしてしまわず、残しておきたいという希望が、その時、多数派であった事から許された。
それには未だに膨大な維持費もかけられている。
仮に一般人に適用しても、非現実的だ。
そもそも受け入れられないだろう?
火葬もしくは埋葬して別れる。それが普通だ」
「私だって馬鹿じゃない。そんなの分かってるわ。
でも、生前の健全であった頃を、パーツ交換せず本人の体のまま、長期的に維持できる事は、先々にとっても良い事だと思うわ」
しかし上司は、面倒くさそうな表情をして立ち去る。
だが、引き下がらない。
彼女は追い掛け、更に詰め寄る。
「人体の仕組みが実際に見られる教育的意義があり、実物の人体パーツを展示公開していた例もある。
私が希望する新薬の研究は、過去を上回るより美しい人体を表現できる可能性がある」
上司は突如振り返り、彼女は衝突しそうになった。
「調べたんなら分かるな?
それは、情報開示不十分で実施中取り止めになってる。
幾ら仮に許可や意思表示があったとは言え、多くの議論が生まれ、開催しても畳まれた。
考えろ。
一体どこの研究施設が、そんな難題のあった世界にわざわざ足を突っ込むと思う。
お前はうちの看板に傷をつけたいのか?
現段階のエンバーミング技術で十分だ!
死者を何だと思ってる。
大人しく持ち場で医薬品の研究だけしてろ!
人体の維持なんて、他が専門的にやってる!
うちは結構だ。忙しいから退け」
腹立たしい言い方といい、目も合わせない態度。
それが、人とコミュニケーションを取る時の態度なのかと、悔しさに手が震えるのを隠す。
まともに話を聞いてもらえた試しがなかった。
向き合って話しをしたい。まずはそこなのだが、彼等は顔すら見ないのだ。
「最初に言った、何十年と安置されているその遺体に施している事が、納得できないの。
プラスチックなんかにパーツを殆ど入れ替えてる。
皮膚だって。
それは本人とは実に呼び難い姿だわ。
なのにいつになっても維持費をかけ、安置してる。
周囲はそれを受け入れ、好奇心から見に訪れ、感動までしてる。
私が提案する保持方法の研究が成功したならば、パーツ交換をより最小限に留められ、より本人に近い状態で安置できる可能性が高い。
それは別に、医師や科学者といった専門職のためにだって活用できるはずよ!
それが成功した先の未来では、起こせる可能性だって見えてくる!
永遠に生きる事や、長生きの為の研究や論理を生み出す事は、他の科学者だってやってる事だわ!」
上司は舌打ちし、顔色を変えた。
「ほら見ろ。また死者を起こせるだのとほざくだろ。
お前が持ち掛けるものを受け入れ、実績を作った暁にはこちらが訴えられちまう!
いいか、遺体の公開に感動する者がいるからと言って、その復活を求めるまでは、無い。
死んだらそれまでだ!ゾンビ映画の見過ぎか?
ったく。道理を弁えろ!
何度言わせる、技術は賢く使え!
人体を玩具みたく弄り回す事ばかり考えるな!」
最後の発言に、彼女の目は大きく揺れ動いた。
「冗談でしょ…!?
今のは既存の技術を侮辱する発言だわ!
人が真剣に考えて作り出しているものに、そんな言い方はないわ!」
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続き、お楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




