[3] 1520.
夜8時を迎えようとしている。
小さなアパートに住む友人宅の鍵を、そっと開けた。
友人とは中学の頃に知り合った。
ファッションや化粧品など、好きなもので意気投合したのもあるが、主なキッカケは、学校でトラブルに巻き込まれた際に寄り添ってくれた事。
誰よりも、共に過ごしていて楽しかった。
だから成人してからでも、繋がりがある。
弱い面であったり、貫きたいと思うところがあるのもまた似ていた。
今のように家を行き来する程、互いを大事に想っている。
「レアール?」
部屋は真っ暗だった。
灯を取っ払いでもしたのかと、つい疑う。
こじんまりとしたワンルーム。
申し訳程度のキッチンに、電球色を灯した。
ぼんやりと輪郭を見せたのは、壁際に据えられたベッドに寝静まる友人、レアール。
静かに、しかし足早に彼女に近づくと、顔にそっと触れた。
熱があると分かると、冷却の段取りを始める。
レイシャ・ハリス。
彼女には医療知識があった。
解剖医の資格を持ち、今は遺体防腐処理技術を施す、エンバーマーになる為の勉強をしている。
その傍ら、製薬会社で研究職に勤めていた。
彼女の夢は、故人をより美しい状態で維持する為の新技術を生み出す事。
その理解を得るのに、日々苦労に苦労を重ねる生活を送っている。
難しい事だった。
彼女のように、死者について深く考える者が周囲にはなかなかいない。
変わった思考を持つ者として見られ、辛い気持ちに駆られていた。
それでもやはり、諦めない。
明日もまた、上司に新規の防腐処理薬品の研究ができないか、話を持ち掛けるつもりでいる。
こうも懸命になる理由は、そこで寝静まる友人がいるからだ。
レアール・キャンベル。
彼女もまた、いつかのように再びトップに輝くモデルになるべく、懸命な努力をしている。
共に頑張る事で、支え合いたいと考えていた。
「ちょっと触るわよ」
脇の下と首元に、保冷剤を包んだタオルを入れていく。
ゴソゴソとレイシャに顔を向けたレアール。
何か言いたげな顔は枯れた植物のようで、声がまともに出ていない。
レイシャは直ぐ、傍に置いていたスポーツドリンクを飲ませ、溜め息をつく。
何をしているのだと言いかけた時、レアールの手首に目が行き、一気に顔が青褪めた。
「ちょっと…ちょっと何これっ!?」
思わず大きな声を出してしまう。
「何して……もう……
もうしないって言ったじゃない!」
レアールはいつからか、思い詰めて自傷行為をするようになった。
これは3度目で、レイシャは咄嗟に抱き締めて涙する。
業界で輝けず、表に立つ仕事が減り、表現に対するダメ出しも増えた。
後輩の手本になれず、職場で浮くようになった。
自信を喪失し、食事がまともに摂取できず、体系が変わる始末。
そして遂に今日、仕事に穴を空けた。
評判が下がる事で会社に迷惑がかかっている、それは自分のせいだと責めるのであった。
「もう辞めよ!他でも仕事はできるでしょ!?」
今のように、近くで常に彼女に寄り添ってあげられるのならばどんなに良いか。
しかし、それはどうしても叶わない。
最も近くで、モデルとしての彼女を見て知る事務所の者達は一体、何を考えているのか。
レイシャは苛立った。
「会社にちゃんと言って!
こんなの、おかしいでしょ!?
あんたのせいじゃないのに。
それだけ周りに大勢いながら、解決されないってどういう事!?
酷いようなら私が警察でも何処でも言いつけてやるわ!」
「分かったから……
もうしないし……ちゃんと言うから………
もう…大丈夫だから……」
美人の彼女は、世間から憧れられていた。
化粧をすればもっと綺麗で、モデルならではの体系にはどんな服も映え、素敵である。
ただ、綺麗でカッコよく在りたいだけなのに、それを酷く否定されている現状が、レイシャは許せなかった。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続き、お楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




