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 夜8時を迎えようとしている。

小さなアパートに住む友人宅の鍵を、そっと開けた。




 友人とは中学の頃に知り合った。

ファッションや化粧品など、好きなもので意気投合したのもあるが、主なキッカケは、学校でトラブルに巻き込まれた際に寄り添ってくれた事。

誰よりも、共に過ごしていて楽しかった。

だから成人してからでも、繋がりがある。

弱い面であったり、貫きたいと思うところがあるのもまた似ていた。

今のように家を行き来する程、互いを大事に想っている。






 「レアール?」




部屋は真っ暗だった。

灯を取っ払いでもしたのかと、つい疑う。

こじんまりとしたワンルーム。

申し訳程度のキッチンに、電球色を灯した。




 ぼんやりと輪郭を見せたのは、壁際に据えられたベッドに寝静まる友人、レアール。

静かに、しかし足早に彼女に近づくと、顔にそっと触れた。

熱があると分かると、冷却の段取りを始める。






 レイシャ・ハリス。

彼女には医療知識があった。

解剖医の資格を持ち、今は遺体防腐処理技術を施す、エンバーマーになる為の勉強をしている。

その傍ら、製薬会社で研究職に勤めていた。




 彼女の夢は、故人をより美しい状態で維持する為の新技術を生み出す事。

その理解を得るのに、日々苦労に苦労を重ねる生活を送っている。




 難しい事だった。

彼女のように、死者について深く考える者が周囲にはなかなかいない。

変わった思考を持つ者として見られ、辛い気持ちに駆られていた。

それでもやはり、諦めない。

明日もまた、上司に新規の防腐処理薬品の研究ができないか、話を持ち掛けるつもりでいる。

こうも懸命になる理由は、そこで寝静まる友人がいるからだ。






 レアール・キャンベル。

彼女もまた、いつかのように再びトップに輝くモデルになるべく、懸命な努力をしている。

共に頑張る事で、支え合いたいと考えていた。






 「ちょっと触るわよ」




脇の下と首元に、保冷剤を包んだタオルを入れていく。

ゴソゴソとレイシャに顔を向けたレアール。

何か言いたげな顔は枯れた植物のようで、声がまともに出ていない。

レイシャは直ぐ、傍に置いていたスポーツドリンクを飲ませ、溜め息をつく。

何をしているのだと言いかけた時、レアールの手首に目が行き、一気に顔が青褪めた。




「ちょっと…ちょっと何これっ!?」




思わず大きな声を出してしまう。




「何して……もう……

もうしないって言ったじゃない!」




レアールはいつからか、思い詰めて自傷行為をするようになった。

これは3度目で、レイシャは咄嗟に抱き締めて涙する。






 業界で輝けず、表に立つ仕事が減り、表現に対するダメ出しも増えた。

後輩の手本になれず、職場で浮くようになった。

自信を喪失し、食事がまともに摂取できず、体系が変わる始末。

そして遂に今日、仕事に穴を空けた。

評判が下がる事で会社に迷惑がかかっている、それは自分のせいだと責めるのであった。




「もう辞めよ!他でも仕事はできるでしょ!?」




今のように、近くで常に彼女に寄り添ってあげられるのならばどんなに良いか。

しかし、それはどうしても叶わない。

最も近くで、モデルとしての彼女を見て知る事務所の者達は一体、何を考えているのか。

レイシャは苛立った。




「会社にちゃんと言って!

こんなの、おかしいでしょ!?

あんたのせいじゃないのに。

それだけ周りに大勢いながら、解決されないってどういう事!?

酷いようなら私が警察でも何処でも言いつけてやるわ!」




「分かったから……

もうしないし……ちゃんと言うから………

もう…大丈夫だから……」




美人の彼女は、世間から憧れられていた。

化粧をすればもっと綺麗で、モデルならではの体系にはどんな服も映え、素敵である。

ただ、綺麗でカッコよく在りたいだけなのに、それを酷く否定されている現状が、レイシャは許せなかった。










SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~


初の完結作品丸ごと公開。引き続き、お楽しみ下さい。


2024年 次回連載作発表予定。

活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。

気が向きましたら、是非。




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