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#08. Reboot 脱出 [7]
#10. Tracking 再回収 [8][9]
1ヶ月程、祖父から引継ぎを受けていた。
その間、ヘンリーの調子も大分と良くなっていた。
ここで働きたかった夢すら忘れていたが、それが急に実現し、素直に嬉しくて口数も表情も戻りつつある。
研究所には幼少期からの顔馴染みが多く、父の職場よりも居心地が良かった。
また、新たな関わりを持つのが警備員達。
海外からの来客と多く接点を持つここは、有事に備え、訓練を受けた彼等が交代で付く。
見た目もやる事も、殆ど沿岸警備隊と変わらない。
新しい環境に身を置き、やる事に追われ、あっと言う間に月日が経った。
引継ぎを終えて数週間した頃。
生き生きと仕事に専念してきた祖父が、急にバッテリーが切れたように体調の異変を訴え、入院した。
その容態は不安定で、ヘンリーは、面会時に良い話ができるよう懸命に働いた。
しかし、やはり訪れてしまう。
目に付くのは、作業全体の管理方法や技術そのもの。
何より、取り入れている設備の古さだった。
時間と手間がかかるシステムを改良し、研究自体により時間を割けるようにしたくなった。
それに対して部下は、馴染みのある方法をそう簡単には変えたがらない。
書類をデータ化する方法。
並びに、遠方の得意先と共に管理している研究結果や進捗情報を、コンピューター上で可能な限り共有できるようにするシステムの導入。
これらの案を、詰め寄り過ぎないよう時間をかけながら説明し、試験的な運用を心掛けた。
実際に見本を見せるのだが、頷く者は直ぐには現れない。
部下と言っても、年齢は自分よりも上の者が殆ど。
彼等は実際に手に取り、目で見て確認できる方が安心だという考えを、なかなか譲らない。
しかし、効率面の改善は確実に見込まれる事から適用を進めたいのだが、シャルもまた譲らなかった。
「話を聞いて分かるように、皆、現状に困ってる訳じゃないのよ。
労働時間に影響が出てる訳でもない。
拘ってるのは貴方だけでしょう?」
「新規開発の案件をこれから増やす事だって必要になる。
現状のやり方だと、いずれ作業に追われてパンクする。
その前に環境を変えて受け皿を広げる。
しかも新しく入るかもしれない人間は、今居る部下と同年代とは限らない」
「新規案件は、うちに余裕が無いから受けるのを断ってるんじゃないわ。
受けるに値しないと判断して、断ってるだけ。
作業環境に関しても、現状誰も困ってないの。
それに、採用に関しては、まだ何の話もきてない。
どこぞの大企業と違って、うちは特殊。
多数応募がくる訳でもないし、採用するにしてもほんの数名そこら。
貴方のような人間が増えるなら、導入を考えなければならないのでしょうけど、そんな予定は無いわ」
彼女は備えるというより、少々事が起きた後の状況を見てから、策を練りたがる様だ。
一方彼は、先々を考慮したがる。
先が長い、これからである者にとって、将来を見据えた段取りをしておきたかった。
やはり、互いに見合う時間は続いてしまう。
しかし、ここの長が誰なのかを考えると、決定事項として押し切る事はできなくもない。
我慢も緩めていいと、祖父は言ってくれた。
「今のやり方が安定し、定着してるのは、色々試して何とかしてきたからだろう。
ここに居る人達には、順応性がある。
実際、理解がある人もいる。
なら、次の新しい事だってやれる」
前代表の祖父は、ここを穏やかに運営してきた。
それは、祖父だからだ。
しかし今は、新世代である孫に変わっている。
時の流れ方や、方針が見直される事は、不自然ではない。
焦るな、冷静になれ、部下の声を聞けと相変わらず煩く言い、説得してくるシャル。
こうなる可能性があると頭に置いていたとは言え、苛立ってしまう。
自宅で過ごしていた頃ならば我慢はしただろうが、今は違う。
「ここのルールは、俺だろう」
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続き、お楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




