[5] 1230.
#05. Error 誤搬送 [4]
#08. Reboot 脱出 [7]
秋の風は冷たい。
祖父のアルフは、年齢と共に疼くようになった腰を気遣いながら、夕日が射す帰路に長い影を落として歩いていた。
吹きつける風にふと身震いし、老いた体を焦げ茶色の厚手のトレンチコートで深く包み込むと、灰色のチェック柄をしたハットを押さえる。
間も無く、ヘンリーが住む自宅に着く。
彼はあの揉め事以来、実家に顔を出していない。
ジェレクとはほぼ疎遠に近くなり、出勤しても父とは顔を合わせなくなっていた。
そんな状態の孫に久し振りに対面する理由は、引退の話をする為だった。
ベージュを基調とした、レンガ造りの小さな2階建ての家。
ヘンリーの実家程シックではなく、ブラウンの屋根は周辺に立つ木々と合わさり、柔らかな印象を与える。
玄関の鍵は開いており、祖父は静かに驚きながら中に入った。
y =
C1 sin ax + C2 cos ax →
{y = C21 + C22 √ sin ( ax + α )
sin α =
C21 + C22 √ ー C2 , cos α = C21 + C22 √ ー C1
C = C21 + C22 √ y = C sin a + α ( )
dx2 ー d2y = -a2y
y = $y = C1 sin ax + C2 cos ax$
y =
C1 sin ax + C2 cos ax →
{ y = C21 + C22 √ sin ax + α ( )
sin α =
C21 + C22 √ ー C2 , cos α = C21 + C22 √ ー C1
y = C sin ax + α ( )
「終わったな」
「!?」
「お前…一体これは何だ……」
祖父は、家に入っても誰もおらず、何度もヘンリーを呼んでいた。
階段を上るのがすっかり億劫になっているところ、部屋を訪れノックした。
返事が無く、ドアを開けても彼は反応すらしない。
部屋をよく見れば、床一面には夥しい数の方程式で埋め尽くされたA4用紙が散らかっていた。
「悪いな急に。と言っても、電話もしたんだがな?」
ヘンリーは数秒固まり、やっと携帯電話を手にすると着信履歴を見た。
時間の間隔を空けて5回も入っているのに、気づかなかった。
力無くそれを手放すと、ジリジリと祖父に横目を向ける。
「………何…」
「話があってな。まぁ、下でコーヒーでも飲もう」
踵を返した祖父の背を横目で見届け、溜め息をついた。
最近、暇さえあれば式の中に入り込んでいる。
そこが一番、誰にも邪魔をされないからだ。
それに、やけにそれらのフォルムが気になる。
コミュニケーションについて学び始めてから、人についてよく考えるようになった。
外に出ては、目についた人を観察してしまう。
集まり、別れ、また別の集まりを作る。
独立もするが、一帯にもなる。
特性は色々あり、鋭さ、丸さがある。
一定であったり、不安定であったり、線引きをしたりと様々だ。
それがやけに、方程式を作る記号や数字に似ていると思った。
計算や分析は好きで、仕事ではよく触れている。
その間だけは、心地よかった。
人という生き物を知り、接し方を学ぶ。
それに関する事が式に描かれていると感じると、好きなものと合わさって向き合いやすかった。
それらで埋め尽くした紙が散らかった床を、重い腰を上げて適当に片付け、下に向かう。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続き、お楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




