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#08.Reboot 脱出 [6]
働く大人の世界。
予定よりも早い就職だが、学校ではないという事だけで、一気に解放感を得られた。
憧れていた作業にときめき、周りの作業員は笑いかけてくれる。
割り当てられたのはプログラミング作業と作図。
その習得スピードは凄まじいものだった。
元々興味がある分野である事から、学校で学ぶ意外にも、自主的に知識を他から取り込んでいた事が大きく影響した。
直に、他社へ送る部品製造にも着手するようになる。
ところが、仕事に慣れると視野も思考も広がり、気になる事が出てくる。
作業効率の悪さを感じるようになったヘンリー。
しかし不思議な事に、周囲は何も言わずに黙々と作業をする。
彼は首を傾げた。
「これだけ製造技術があるのに、手作業が目立つけど、何で?」
「部品の形状なんかは、目で確認した方が確実だからね」
分からなくもないが、他に手段が考えられそうに思う。
「あの流れ作業のチーム、1人に対して1種類の作業しか割り当てられてないけど、他に並行作業をさせてもいいんじゃない?」
「精密機械に組み込まれる部品の点検だし、1つの作業に集中する事で、ミスが防げるよ」
とは言え、担当者は集中して手早く進めている訳ではなく、悠々としていて私語が目立つ。
「資材の測定を手作業でしてるチームがあったけど、他の作業みたく機械測定で統一しないの?」
「昔からの事だから、それで定着しちゃってるんだよ」
昔ならば通用していただろうが、工場の数も受注数も増えている。
製造量も、以前より圧倒的に多い。
人手が必要なのは納得できるが、ただ増員すればいい訳ではないだろうと思い始めた。
作業員の休憩回しも慌ただしい。
仕事に追われているのが明らかだった。
しかし周囲は、これまでもそうであり、こういうものだと言う。
数々の疑問が沸き、それを問い質すのが目立つヘンリーの事が、父の耳に入る。
それを知らないヘンリーは、現場の改善案を考え続け、やっと対面できた彼に持ち掛けた。
「絶対簡素化できるだろう?意外だな。
商品は優れているけど、裏側が旧式ばかりで驚くよ。
スタッフによって業務の偏りもある。
高い技術があるのに、使用する範囲が半端だし。
何でだ?
本当に手作業でした方がいい仕事を洗い出した方がいいと思うけど、何でそれをしないんだ?」
曖昧に留めておく事が苦手で、疑問を明確にしたくなってしまう。
ここもまた、昔から変わっていない。
父は息子のそういうところに焦燥し、腹を立てて怒鳴った。
「いい加減にしろ!
学校だけならまだしも、俺の研究やチームまで蔑むな!」
その声に驚き、一気に足元から凍りつく。
「その目はどうなってる。学べ!
これまで誰1人、お前について来なかった理由は何だ。
自分に圧倒的に欠如している物の分析ができないなら、開発者だの科学者だの名乗るな。
チームで動く社会を学べ。
俺が評価する部下だぞ。
後から来たお前がしゃしゃり出るな!
いつまで我が儘だ!?
いい年だってのに、卒業しろ!
俺に恥をかかせるな!
ったく、耳に付いてはいちいち問い質しやがって、ただ黙って合わせて、やれ!」
耳を劈くような父の声に肩を竦め、知らぬ間に後退っていた。
耳鳴りが突然襲い、不意に片耳を塞ぐ。
手に震えが生じ、咄嗟に背後に回す。
勝手に記憶は遡っていった。
友達が1人もいない。
どこかで気にしていても、真剣に解決しようとはしなかった。
いつか言われた、シャルの言葉が過る。
“人との接し方は、学校を卒業して就職するなり急に得られる能力じゃない”
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続き、お楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




