[19] 1360.
#08. Reboot 脱出 [6]
高校を卒業し、大学生活が始まった。
どこか恐れを抱きながら入学し、周囲を警戒するばかりの日々。
高校時代、体の異変が顕著になって以降、ヘンリーは変わった。
しかし、成績を上位に収め続け、目立っている部分は相変わらずだった。
ある時、バイオサイエンスの講義で意見を問われた生徒の返答に、教授が具体性が無いと指摘する。
故に、その他数名に尋ねていくが、最終的にヘンリーに答えを聞かれてしまった。
そうする事で視線が集まり、嫌な空気が生まれる。
彼は、どの講義も必ず最後列の端に着き、最低限の発言しかしなくなっていた。
講義前に、教授にわざわざ自分を指名をしないように頼む事までするのだが、この教授にそれをし忘れており、溜め息をつく。
教授が返答の中に求めているのは、個々の微生物が持つリスクなどの特徴だろうか。
そう予測し、それらを上げながら実験に取り組む際の注意を淡々と述べる。
予想は的中か。
教授の顔色は一気に明るくなり、やっと次の話題に進んだ。
講義が終われば颯爽と出ていくのも、1つの決まり。
だが、この時はそうは行かなかった。
「嫌味ったらしい。
科学者の金持ち坊ちゃんはこれだからうぜぇ。
どうせ俺等の事バカにしてんだろ?
わざわざ貴重な時間を使ってまで見下しに来るとは、ああありがてぇ!
時間の使い方も贅沢か!」
始まった。
講義終了後、大きな小言が耳に飛び込み、それに勝手に鋭利な目を向けてしまう。
傍を通過した生徒が怯み、足早に教室を出た。
彼の睨みに、小言を零した学生が食ってかかる。
「お前がいるから教授だって深堀りすんだ。
本当ならさっさと先に進めただろうによ。
大体、そんなもんわざわざ記憶してなくたって、調べながらやりゃあ済む話だ」
互いに睨み合う中、ヘンリーの目がジリジリと逸れていく。
「……講義に深堀りはつきもんだろう……
それが無いなら…本だけでいい……
講義自体は…物足りなくなるだろうけど……」
相手は鼻で笑い、まだ何か言おうとしていた。
その前にヘンリーは立ち上がると、その場を後にした。
次の機械工学の講義では課題が出ていたが、その前に担当教授に呼び出されており、先に研究室へ向かった。
入るなり明るく声をかけられ、適当に挨拶を交わすと本題に入る。
「実は出してもらった課題なんだが…」
突然表情を曇らせる教授に、彼は首を傾げる。
「ああまぁ…仕組みも良いし相変わらず圧倒される。
ただ…他がついていけない」
それは、金属アームの設計図。
いつか、父の職場を見てぼんやりと思い浮かんだ。
実際にロボットを使用するならばと、理想を実際に描いたものだった。
仕分けや、簡単な部品の填め込みに効果を発揮する事を目指したもの。
端に並べ立てられた数式や作図そのものは、上の学年が作製したものに等しいか、越えている。
「クラスで教えていない事が含まれすぎだ。
口頭説明するにしてもこれだと授業になって、発表するという目的から逸れる。
ハードルを下げてくれ。じゃないと受け取れない」
実に綿密な仕上がりになっているそれを、簡素化する。
その考えが浮かばず、そのまま教授に、何処の何を削るべきかを全て聞き出し、修正した。
耐性率、材質の特徴、電力消費量等を事細かに明記していた。
あらゆる発見と可能性を論理立て、考えうるデメリットに対する策までも叩きだす。
それは、幼少期から更に拍車がかかっていた。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続き、お楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




