[1] 1300.
MECHANICAL CITY
#05. Error 誤搬送 [16]
沖に佇む水上要塞。
海洋バイオテクノロジー研究所と名乗るこの地は、医薬品開発に貢献する傍ら、進化を兼ねた再生を手掛ける、死者復活実験組織の拠点。
薄暗い、灰色の壁面で覆われたボートガレージ。
排気の臭いが染みつくそこには、4台のボートが轟々とエンジンを高鳴らせていた。
East Gateを全開に、すぐ下の柱に身を預けるグレーのフードを被る男。
視界に広がる黒い大海原は、己そのものか。
吹き込む温い潮風は、右手の煙草の灰を細かく屋内へ誘う。
他ゲートのボートとは違い、定員10名少々。
全検体と運搬物、部下を合わせてギリギリ乗船可能である。
予備燃料の数、質に問題無し。
ボート作動点検、医療器具点検は終えた。
今は、エンジン停止前のアイドリング中である。
境界を忘れた大海原と夜空を凝視する。
妙な夢に魘され、起きてしまった。
気を紛らわそうと、自らが勝手に決めた本作業をしている。
部下は知らぬ振りをしているのか、実際知られていないのかは分からない。
だが、ここへ来る途中に出くわした部下起動のSystem Rebirth(通称R)には、知られていた。
突風がフードを雑に剥がす。
まだ、体は本調子ではない。
ここへ来る途中、そのRにそう解析された。
基本的に、自分の解析はさせない。
しかし、それを避ける気力も無く、今夜は素直に己を晒していた。
そのRは掃除婦で、彼女との時間は何とも不思議だった。
胸のどこかが、少し軽くなったような気がしている。
一瞬だったその時間を、遠くを見ながら思い出していた。
………
……
…
…
……
………
電球色が灯る静かな廊下。
住居であるイーストの最上階にある、殺風景な自分の部屋を出て、エレベーターに向かう途中、彼女と対面した。
「少し眠れたの?
幾分か顔色がマシになったようだけど、本調子じゃない。
まさか今から下のガレージの点検?毎回だね。
あんたがやらなきゃいけないの?」
「…………何で知ってる…」
この日は、終日頭痛に悩まされていた。
珍しく自ら早めに作業を切り上げる程であり、補佐官に部屋の鍵は開けておけとまで言われていた。
「偶々よ。
声をかけたけど、聞こえてなかったようね。
酷い顔してたもんだから、気にしてたのよ。
今からやろうとしてる事は、毎月の決まり事よね?
あんた達の動きは、掃除してりゃ勝手に目につくの」
「…………部下には言うな…」
彼女は掃除機の柄に両手を乗せたまま、彼を凝視する。
「あんたはそう言う人。
でもこうして話しかけるのは、悪いけど私達の決まりよ。
部下が寝静まってからでないと現れないから」
「…………補佐の指示か…」
「部下の意思よ。
彼等はあんたの顔を見る事がないから、夜中か早朝にうろついてるだろう、って読んでる。
だから、見かけたら声を掛けるようにって。
上司が顔見せないなんて。
何か不安なの?」
無人のエレベーターが閉まる。
答える気になれず、じっと扉を見つめていた。
だが1つ気になり、再度ボタンを押そうとする手が止まる。
「…………いや………何で…気にする…」
「あたしには子どもがいた。
だから、あたしからすればあんたも部下達も、子どもみたいなものなのよ。
母親は子どもを気に掛けるもの」
「…………何…だ……それ…」
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。