[9] 1220.
授業を受けられる訳がなく、早退した。
ドアを開けると、リビングには早くもシャルがいる。
相変わらず、半休であれ休日であれ、仕事に関する調べ事をする彼女。
広げられた数々の本や書類から、驚く表情を見せる。
「ちょっと、何…」
ずぶ濡れのヘンリーが中に入ろうとするところを慌てて止め、タオルを軽く投げ渡した。
彼は無言で、それを掴み取る。
「水、しっかり落として」
外で服を絞り、水気を取りながら、これまでの出来事が巡り始めた。
小学校高学年から今に至るまで、同じようなトラブルがなくならない。
教師に報告はするのだが、あの有名なクラッセン家と言われるお陰で、生徒達は手を出したくなる。
彼を困らせる事もだが、有名人の子どもを攻撃して教師を困らせるのを楽しんでいた。
私物の破損や紛失が多かったところ、今回の噴水に落とされる攻撃。
更にロッカーの悪戯。
鍵を壊され、中を荒らされている始末。
インターバルで物を入れ替えるのに中を開いたら、大量のゴミが流れ落ち、異臭で大半の私物を買い替える羽目になった。
学校が、酷く嫌になった。
しかし、耐えて通うのには理由がある。
高成績で卒業し、祖父や父のように、人の為になる仕事をしたかった。
また、このような下らない事で、家族を煩わせたくなかった。
父は、感情や態度の変化が分かり易い。
何に忙しくし、どういった時期に入っているのか、ヘンリーはよく感じ取っていた。
家族関係や日々の過ごし方を周囲と比較すれば、沢山の違いがある環境で生きてきている。
それが、彼にとっての普通だった。
だがその普通は、徐々に異変を見せ始める。
「ヘンリー、また学校から連絡があったけど、何で噴水に落ちたの?」
「落ちたんじゃない!落とされた!」
苛立って少々声を荒げて主張すると、それを耳にしたジェレクが目を剥く。
「嘘だろ!?最悪じゃん!隙見せすぎなんだよ!
殴ってやった?」
「そんな事しない」
ジェレクは呆れ、深々と溜め息をつき、顔を歪める。
「あーもう。そんなだからやられんだよ!
やり返せって!」
「ダメだ。お前、まさかそんな事してるのか?
爺ちゃんや父さんが大変になるからよせ」
夕食を進めながら飛び交う話題は、お決まりだ。
学校の事か、仕事の事。
父も祖父も、相変わらずいない。
とは言っても祖父は、開設した新しい研究所に半ば住み込んでいる為、ここには殆ど顔を出さない。
父は、朝に1時間程度顔を合わせるかどうかだった。
夜は遅く、会えても朝と似たような対面時間である。
「ヘンリー、どうなの?
こんな事がなくならないのって、不思議じゃないの?」
「不思議に決まってるだろ!
だから誰ともいないようにしてるっ!」
「いやいや逆だ、逆。
仲間作って一緒にいりゃいいじゃん。
そうすりゃ守ってくれる。
何でいねぇの?」
「…………知らない…」
シャルは溜め息をつく。
苛ついているのがよく分かる。
早退して帰宅した時もだ。
仕事の流れや自分のペースが乱れたり、止まる事がある時。
また、腑に落ちない事があると、彼女も露骨に態度に出た。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続き、お楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




