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#08. Reboot 脱出 [6]
中学に上がると、周囲は勉学よりも容姿に気を遣うようになる。
年齢からかけ離れたスタイルや、化粧をする生徒が増えた。
口調も妙で、流行に乗る事に必死になっている。
イベントの質は上がり、集団行動で取り組む課題も多くなった。
昼食はランチボックスの持参から食堂を利用する環境に変わり、金銭がチラつく事も自然になる。
こうして居場所が大きく変化するのだが、ヘンリーは身長が伸びる以外に何も変わらない。
相変わらずの成績優秀者であり、既に高学年の生徒は目の敵にしていた。
しかし、そんな視線すら気づきにくいようだ。
学校の中庭のベンチで彼が読んでいたのは、船舶免許取得の教科書。
祖父の研究所で働く為に取得する。
車の免許よりも最優先で取ると、幼稚園に通っていた時から決めていた。
だが突如、本が真上に消え、戸惑う。
「何だぁ?船ぇ?」
「漁師でもすんのか?」
「あんたそんなひょろひょろな体なのに、転覆した時泳げんの?」
「いいとこの僕は、車なんかより船って?
イかす船なら乗っけてくれるかしら?」
男女のせせら笑う表情が、頭上から左右、前方へと這うように現れた。
「返せよ。取っても仕方ないだろう?」
慌てる素振りを見せる事は、殆ど無い。
そんなところもまた、相手にとって腹立たしかった。
本を求めて伸びる左手は、乱暴に叩かれる。
痛みを表情に出し、顰め面を向けた。
「何だ?やれんのか?
発明オタクの親父に怒られっぞー!」
それに揶揄う爆笑が被さる。
奪われた本に手を伸ばしても、遠ざかるばかり。
ヘンリーは鋭利な目を彼等に向ける。
「父さんをバカにするな。あと、やるつもりはない」
「やれねぇ。が、正解だろ?」
校内で暴れん坊の、厄介者で知れ渡っている絵に描いたような男子。
最高学年で、体が大きく威圧的。
良い噂を聞いた事はない。
そんな彼と連む周囲は、どういう訳かふんぞり返っている。
「返せ。時間が勿体ない」
淡々とした物言いがまた、彼等には腹立たしい。
「時間の心配よりてめぇの心配しろ!
優秀な僕は勉強ができでも、今されてる事は分かんないよーってか!」
本はそのままバケツリレーで、向かいの噴水に高々と投げ入れられ、消えてしまう。
「おい!何でそうなるんだ!?」
理解が出来ず、咄嗟にそこへ駆け寄ってしまった。
更に笑い声が上がり、背後から大きく押し寄せてくる。
「金は幾らでもあんだろ坊っちゃん!」
「お偉いさん!一緒に遊んでよー!」
言い終わりに背後から襟首を掴まれ、大きく引かれた。
(あれ…何で空が見えるんだ…?
…浮いてる…皆が…上に見え…)
噴水から高々と激しい飛沫が上がる。
突然、気泡が全身を這い、水が目に染みた。
喉や鼻、耳にも水が流れ、痛い。酸素が無い。
混乱し、慌てふためくと、やっと身を起こした。
そう思いきやまた、右肩を掴まれ再び水中に沈められる。
「溺れてんじゃん!ボートなんて無理無理!」
這い上がるのに合わせ、激しく咽た。
噴水の縁に突っ伏し、息が整うのを待つのに精一杯だった。
その真横で、奪われた本が叩きつけられる。
ページは乱雑に剥き出し、ボロボロだ。
破かれ、もう本とは呼べなくなっていた。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続き、お楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




