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#06. Please wait 決定 [12]
あれから同じ夢は見ておらず、変わらず作業に明け暮れていた。
暗い持ち場には、青白いスポットライトが正面の曲面ガラスから差し込む。
ヘンリーはまた、ホワイトボードに只管式を連ねていた。
その横から、誰かが彼を呼んでいる。
(…感じ…られるか………
まだ…まだ何か…直ぐにできる事は……)
いつだって加速をつけて考え、作業をしてきた。
あれから、嗅覚を取り入れる事はできたのだが、
Rayを起動してみるまでその働きは分からない。
もう、起こしてもいいところまできている。
しかし、まだ何かできないだろうか。
ボードを式で埋め尽くしながら、それを探していた。
そこへ、体が横に数回揺れる。
ペンを持つ手が波線を描き、止まった。
ジリジリと流し目を向けた先には、イーサンが立っている。
「飲んだら?忘れてるだろう?」
紙コップに入ったコーヒーを手渡されると、イーサンは自分のコーヒーを飲みながら、式で埋まるホワイトボードの隣に連なる内容を眺める。
「匂いねぇ。
あの子が嗅いで花を分析する時がくるのに、
期待だな」
そう言って彼は持ち場につくと、コードを作るほか、花などの植物に関する書籍を調べ始めた。
ヘンリーはその背中をしばらく見てから、自分の操縦デスクに着く。
目前で光るRayの目を、穴が開くほど見ながら思い返した。
現在は、部下にも検体を預けて数体のRが起動するようになった。
遺体を外部から回収する策が成功し、実験にすっかり目がないレイシャ。
そんな彼女はある日、向こうからの戻りの最中、この青年を回収してきた。
死因は交通事故で崖から転落し、開放性骨折と溺没。
病院から連れてきた者ではない彼自身の詳細は、事故の内容、及び所持していた貴重品から特定できるもの以外、無い。
名は、ルーク。
データが無いという理由だからなのか、彼を見ていると、自分の事を思い返してばかりいる。
碌な思い出が無い中で、一番気楽に生きていた時の事を必死に探っていた。
そこから何が好きで、何をしていたのか。
どんな発言をしていたのかなどが溢れ出る。
それがだんだんと嫌いなものに変わり、辛かったと思うと、作業の進みが悪くなった。
操縦席に座ってどのくらい経ったのか。
それに気づき、イーサンから貰ったコーヒーを慌てて流し込む。
そこへふと浮かんだ。
(………欲しい……もの……)
欲しがっていたものは何かを考える。
兎に角知識を求めていた。
未だにそうである。
そして
(………友…達…)
それを作るには、気さくで、優しいに限るだろう。
また
(………自由……)
幼少期はまだ感じられたそれも、いつの間にか消え失せた。
今得ている自由とは違い、もっと綺麗で、真っ直ぐなものがいい。
そして、従うばかりでなくていい。
シャルやビルを起こす時とは違い、ルークは不思議と、そんな風に考えて向き合える。
途端、視界が闇に落ちた。
「「ヘンリー!?」」
突如、顔から激しくキーボードに落ちた。
遅過ぎる水分補給に、日々加速をつけて作業に取りかかる事で、疲労は嵩張っている。
彼は、補佐2人に無理矢理切り上げを命じられた。
半ば強引に部屋を追い出されると、イーサンが部屋まで付き添った。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




