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#06. Please wait 決定 [7]
随分と長い夢を見た。
少々魘されていたような気もする。
初めは穏やかで、後は変わらず、痛い事ばかりだった。
それで、無意識に義手を外したのだろう。
瞬時、身震いする。
夜通し潮風を浴びてしまい、最悪な体調不良になりそうだ。
しかし不思議な事に、今は幾分か気が楽になっている。
外れた義手を袖の中で填めようとする中、独り、心で考えていた。
不器用な手つきは、レイシャに補助される。
彼女は鼻をすすると、立とうとするヘンリーに左手を差し出す。
だが彼は、すぐにその手を取らず、眺めていた。
言わないだけで、気づいている。
彼女が、自分の髪や肩、手、顔に触れている時があるという事を。
夢でも、触るなと怒鳴っていた。
今ではそれを言うのではなく、そうされる前に避けるようになっている。
彼女は何も言わず、静かに手を取られるのを待っていた。
いつだって、決して急かす事なく、ゆっくりと待ってくれる。
どういう訳か、右手が伸びた。
握手するように伸びていた彼女の左手は、右手が出された為に掌を上向きにする。
しかし、彼の手はその指先の近くで躊躇った。
まさか、触れたい、のか。
止まる指先は、小さく震える。
無意識の行動に、困っていた。
彼女は気にせず、彼の右手首を取ってやる。
その動作は必然的に、彼女の手首を掴んだ。
そのまま力いっぱいに引かれ、やっと立ち上がると、互いの顔の位置に一気に差が生まれた。
彼は咄嗟に、掴まれた手から逃げるように放す。
目のやり場に戸惑うと目を閉じ、微かな胸痛に瞼を震わす。
その後踵を返し、木箱の縁に置いていたグラスの花を忘れず取ると、ゲートを抜ける。
彼が花を持つ姿など、レイシャは初めて見た。
石畳の通路を進む途中、足を止め、横のアマンダを振り返る。
懸命に土を整えている姿を眺めていると、夕べに強く嗅ぎつけた香りを未だ微かに感じた。
「…………何だ……この…匂い……」
「匂い?……ああ、これ。
ナイトブルーミングジャスミンって。
夜来香とも呼ぶとか」
長い名前に、首を傾げる。
レイシャは以前、その花を彼女から貰ったと話した。
夜になると開花し、強い香りを放つ特徴を持つ。
高貴な心を指す言葉を持つようだが、その辺は自分と関連しないと言って笑った。
ただ、夜に開花し、美しさと共に香りを放って目立つ部分が似ているのだと言い、贈られた。
アマンダが振り返り、無言で2人を見上げる。
「朝からよく働くのね。休んでいいのに」
「花が届いたら、すぐ植えられるようにしたくて」
レイシャは暫し間を置くと、そっと頷いた。
ここへ来る前に、イーサンとすれ違った。
朝から花の発注だと、花を一切知らない彼が必死に調べていた事を思い出す。
一方ヘンリーは、嗅覚にフォーカスしていた。
先で起動予定である新型System Real/Ray
(通称;Real,Ray)もまた、それが抜け落ちている。
匂い分析ならば、比較的早く組み込めるかもしれない。
彼の目は、みるみる見開いていった。
視線はあちこちに揺れ動く。
その様子だと、横からレイシャが呼んでいる声に気づかない。
彼は足早にイーストへ向かった。
アマンダはいそいそと立ち去る2人を、静かに見送った。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




