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挿絵(By みてみん)




 朝日が昇る。

オレンジからイエローに変わり始める光のグラデーションは、真っ直ぐ拠点の広間に射し込み、家屋や石畳を鮮やかに染めた。

植物一帯もそれを受け、潮風と共に靡き、艶を見せる。

この時間の気温は未だ低く、昼間との差は激しい。






 住居の塔、イーストから飛び出したレイシャは、大声で叫んだ。




「ヘンリー!?」




未だ起きて間もない。

水平線から現れた美しい朝日に目もくれず、拠点一帯に向かって、彼を呼び続ける。




 スマートフォンを幾度と鳴らしても出ない。

部屋に向かうと本人はおらず、そこには鳴ったままそれが放置されていた。

どこへ消えたのか、彼女は恐怖に肌を粟立たせる。




「ヘンリー!」




広間に駆け込むと、右端に向かう。








 敷地に立つ柵から海を覗いた。

まさか落ちて浮いているのではなかろうか。

鼓動はみるみる早まる。




「ヘンリー!」




レイシャは踵を返し、反対側の柵に向かって走り抜ける。

途中で通過した中央の噴水は、早くも朝日の光と共に輝かしい飛沫を上げていた。




「?」




噴水を作動させ、今朝も早速芝刈りを始めようとしていた庭師のR。

朝から随分騒がしいレイシャを、凝視していた。








 彼女は反対側の柵にへばりつき、大海原に隈なく目を這わせる。




「どこなの!?」




時に咳き込みながら、また反対側のエリアに向かった。






 進む先には、朝から土を整える若い女性のR。

引っ切り無しに駆け回るレイシャを振り返り、首を傾げた。




「おはよう、ドクター・ハリス。

走ってるなんて珍しいわね」




「ああアマンダ!ヘンリー知らない!?」




息切れしながら、目を赤らめて尋ねる。

そんな彼女の背に、アマンダは手を置いて擦りながら言った。




「船着場。

結局、一晩そこで過ごしたみたい。随分好きなのね」



「はああ!?」




レイシャは突っ伏していた顔を上げるなり、船着場のゲートに乱暴に飛びついた。








 「ヘンリー!?」




叫んだ先では、朝日を受ける木箱に静かに凭れて眠る彼。

レイシャは恐る恐る近づく。

また、死んだような寝顔を浮かべている。

心地よさそうだが、目を開けるのかが不安になるその顔を、幾度となく見てきた。




 左腕は、通されたパーカーの袖の中で外れているのが分かる。

木箱に凭れかかる寝顔に、手を伸ばした。

風を受け続け、冷え切っている。

それがまた、固くなっているようにも感じ、堪らず肩を掴んで揺さぶった。




「ヘンリー起きて!起きてっ!」




その勢いと衝撃に彼は目を大きく見開き、驚く。

レイシャは安堵し、深々と息を吐きながら、木箱の縁に突っ伏した。

そんな彼女を、ヘンリーはじっと見下ろしている。

何事か、分かっていないようだ。




 「おはよう、ドクター・クラッセン」




その声に、ふと振り返る。

アマンダはゲートの柵から顔だけを覗き込ませていた。




「貴方がいなくなったと思って、彼女、そこら中を走り回ってたわ。

ちゃんと家に戻った方がいいわよ」




ヘンリーはアマンダを凝視する最中、視界の下からレイシャが割り込む。

立ち上がった彼女は怪訝な顔で、強く放った。




「もうっ!電話くらい持ってっ!」




赤らめた目を見て彼は動揺しながら、コクコクと小さく頷く。






 夕べは飲んでしまい、酔いを冷まそうと腰掛けたつもりだったのだが、朝まで眠ったのか。

木箱から立ち上がろうとする際、左腕が軽い事に気づく。

外した記憶が無く、首を傾げた。









SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~


初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。


2024年 次回連載作発表予定。

活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。

気が向きましたら、是非。




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