[1] 1380.
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朝日が昇る。
オレンジからイエローに変わり始める光のグラデーションは、真っ直ぐ拠点の広間に射し込み、家屋や石畳を鮮やかに染めた。
植物一帯もそれを受け、潮風と共に靡き、艶を見せる。
この時間の気温は未だ低く、昼間との差は激しい。
住居の塔、イーストから飛び出したレイシャは、大声で叫んだ。
「ヘンリー!?」
未だ起きて間もない。
水平線から現れた美しい朝日に目もくれず、拠点一帯に向かって、彼を呼び続ける。
スマートフォンを幾度と鳴らしても出ない。
部屋に向かうと本人はおらず、そこには鳴ったままそれが放置されていた。
どこへ消えたのか、彼女は恐怖に肌を粟立たせる。
「ヘンリー!」
広間に駆け込むと、右端に向かう。
敷地に立つ柵から海を覗いた。
まさか落ちて浮いているのではなかろうか。
鼓動はみるみる早まる。
「ヘンリー!」
レイシャは踵を返し、反対側の柵に向かって走り抜ける。
途中で通過した中央の噴水は、早くも朝日の光と共に輝かしい飛沫を上げていた。
「?」
噴水を作動させ、今朝も早速芝刈りを始めようとしていた庭師のR。
朝から随分騒がしいレイシャを、凝視していた。
彼女は反対側の柵にへばりつき、大海原に隈なく目を這わせる。
「どこなの!?」
時に咳き込みながら、また反対側のエリアに向かった。
進む先には、朝から土を整える若い女性のR。
引っ切り無しに駆け回るレイシャを振り返り、首を傾げた。
「おはよう、ドクター・ハリス。
走ってるなんて珍しいわね」
「ああアマンダ!ヘンリー知らない!?」
息切れしながら、目を赤らめて尋ねる。
そんな彼女の背に、アマンダは手を置いて擦りながら言った。
「船着場。
結局、一晩そこで過ごしたみたい。随分好きなのね」
「はああ!?」
レイシャは突っ伏していた顔を上げるなり、船着場のゲートに乱暴に飛びついた。
「ヘンリー!?」
叫んだ先では、朝日を受ける木箱に静かに凭れて眠る彼。
レイシャは恐る恐る近づく。
また、死んだような寝顔を浮かべている。
心地よさそうだが、目を開けるのかが不安になるその顔を、幾度となく見てきた。
左腕は、通されたパーカーの袖の中で外れているのが分かる。
木箱に凭れかかる寝顔に、手を伸ばした。
風を受け続け、冷え切っている。
それがまた、固くなっているようにも感じ、堪らず肩を掴んで揺さぶった。
「ヘンリー起きて!起きてっ!」
その勢いと衝撃に彼は目を大きく見開き、驚く。
レイシャは安堵し、深々と息を吐きながら、木箱の縁に突っ伏した。
そんな彼女を、ヘンリーはじっと見下ろしている。
何事か、分かっていないようだ。
「おはよう、ドクター・クラッセン」
その声に、ふと振り返る。
アマンダはゲートの柵から顔だけを覗き込ませていた。
「貴方がいなくなったと思って、彼女、そこら中を走り回ってたわ。
ちゃんと家に戻った方がいいわよ」
ヘンリーはアマンダを凝視する最中、視界の下からレイシャが割り込む。
立ち上がった彼女は怪訝な顔で、強く放った。
「もうっ!電話くらい持ってっ!」
赤らめた目を見て彼は動揺しながら、コクコクと小さく頷く。
夕べは飲んでしまい、酔いを冷まそうと腰掛けたつもりだったのだが、朝まで眠ったのか。
木箱から立ち上がろうとする際、左腕が軽い事に気づく。
外した記憶が無く、首を傾げた。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




