[10] 1580.
#01. Access 搬送 [6]-[8]
#05. Error 誤搬送 [21]
#06. Please wait 決定 [4][17]-[19]
#10. Tracking 再回収 [11]
#13. Data processing 再び [2]
その彼は、怒りのコントロールができない事で、幼少期から独りで悩んできた。
上手いアプローチが分からず、誰にも分かってもらえずにいる。
コミュニケーションを取る最中、些細な冗談や指摘が怒りを呼ぶのだ。
また、腑に落ちない回答を得た際にも、焦燥から怒りに変わる事もあると説明する。
子どもならば我が儘や、やんちゃなどの表現で片付くこれが、成人した今でも続いている。
家族はこれを見ておられず、叱責ばかりをするが、それは常に逆効果を招いてきた。
生きる為に抑制に抑制を重ね、周囲に溶け込む努力をしてきた。
そのストレスは計り知れず、怒りの感情が増幅する。
いつしか異常者だと呼ばれるようになり、それを聞いていられなくなると、体は突如変異する。
操られているかのように体をもっていかれ、気づけば相手を黙らせる行為に走るのだ。
いつか、人に伝える事を一切止めた、自分自身の話。
その彼は全て言い終えると、乾いた笑みを浮かべる。
「誰も…求めちゃいない……俺が怖い……
で、俺は…この体が怖い……
もう…要らねぇんだよ……」
ヘンリーの黒い左腕は、話の半ば、無意識に窓ガラスに触れていた。
話の内容が、自分に合わさる。
「なぁ……何で助けた……価値も無いのに……
放っときゃ死ねたかもしれねぇのに……」
体と上手く付き合えず、行く先々でトラブルが絶えないまま前科がついた。
その噂は瞬く間に広がり、恐れられ、感情の矛先が分からず拳は彷徨い続けてきた。
募る寂寥や悲しみが拭われる事は、ずっと無い。
その時、窓からミシミシと音がした。
一体何かと彼がヘンリーに顔を向けると、ガラスに斜めの亀裂が走っていた。
その光景に動揺し、ベッドの上で若干後退る。
「………失礼…」
ヘンリーは亀裂に接触する真っ黒な左腕を離すと、そっと正面を向いた。
そこでベッドの彼は更に目を剥く。
ヘンリーが振り返る事で目に飛び込んだ、左腕の物。
アームカバーと革手袋が填められ、上腕には何やら機械が付いた装着ベルトが巻かれている。
どこを見ているのか分からないヘンリーを、目を痙攣させながら見上げた。
ぼんやりとした黒い眼差しを見れば想像がつく。
この者もまた、どん底にいると。
妙に身構えながら続きを待つ彼に、ヘンリーはやっと目を合わせる。
「必要の無いもんなんて…本当は無い………
本当は…だ…………
ただ…それを何処に置くかだ……」
不思議な発言は、妙に心に残った。
「………逸材に気づけずにいる世界には……
悉く…目を覆いたくなるな……
君もまた…誰かと同じように…
生きたかった………
良さを見出せないのは何れ…痛手を負う…」
光を宿さないその目は震えながら、別の何かを睨んでいる。
「………君を採用できるが生憎…
ここもろくでなしの巣でな……
これを不運とするか……幾分かマシとするか……
帰るか……決めればいい…」
彼は、ベッドの前をノロノロと通過していくヘンリーから、近づく左腕に視線を移す。
カバーの生地からは薄く、青と白の光が見えた。
何故、義手なのか。
何故、暗がりで行動するのか。
その昔、誰でもいいから言ってもらえないだろうかと願った事を、何故こんな死神のような人間が言ったのか。
「………何れにせよ…君は………
君は生きられるし……生きていい…」
そう言うとあっさり立ち去っていくではないか。
気になって仕方がない彼は、その先を追おうとベッドから飛び降りる。
部屋から出てすぐの所、不意に横から現れたのはレナードだった。
ラップトップを弄りながらやって来た彼は、突然部屋から飛び出してきた彼に目を見開くと、短い挨拶をする。
「偉く軽快だな。もういいのか?」
それと同時に見せられた液晶に映されていたのは、もう思い出せない職場に出した履歴書だ。
「随分優秀なプログラマーだな。
イーサン・ウィリアムズ君」
時は瞬時、止まる。
一切名乗らずにいた彼は、曝け出されたそれごとレナードに目を奪われた。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




