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[7]          1440.



#05. Error 誤搬送 [4]






 ヘンリーは、新たに整えた持ち場でキーボードを叩いていた。

作業をするには暗い空間で、液晶の灯だけが顔を照らしている。

それが落ち着き、心地が良かった。






 すっかり拠点に入り浸るようになり、後の2人が時たまボートで出入りするようになっている。

顔こそ合わせるが、作業に噛りつく性質が漲っており、レナードとはあれから会話をしていない。

レイシャに対する反応も、微々たるものだった。

そんな無愛想な自分を、2人は文句も言わず受け入れ、変わらず接する。






 デスクの両脇や床には、医療関連の本が積まれたり、開いた状態で置かれている。

後方に立つホワイトボードは、大量の数式で埋め尽くされていた。

彼にとって、人を表現しているように見えるそれらは、何かを考える時にいつも書き出される。






 ふと椅子ごと背後を振り返ると、ホワイトボード上のそれらと向き合った。

そのまま、数日前のある夜を思い出す。




………


……




……


………




 その晩、珍しく空が晴れ、瞬く星が窓から観測できた。




 大量に銃を詰めた袋を放置していた為、どこか収納庫を設けるまでの間、適当に倉庫に仕舞おうと、レイシャと取り出していた。




 その作業をする最中、ヘンリーは時折、顔を歪める。

自分が触れたもの以外にも、余分にピストルが入っていた。

求めていないというのに、随分な特典だ。




 近々運搬する為、台車に全てを纏め終えると、袋の奥底に真っ新の煙草とマッチを見つける。

恐らくオーナーが勝手に放り込んだのか。




 それがどういう物かを知らず、初めて火を点けて吸うと、激しく咽た。

それを見たレイシャは腹を抱えて笑った。

そんなに笑い転げる姿を見た事がなく、口内の苦味や鼻腔を刺激する煙も他所に、ヘンリーは見入ってしまった。




 火を点けたからにはと、間隔を空けながらゆっくりそれを吸い続けてみるヘンリー。

そんな彼を横に、レイシャは床に散らかった数式の紙に目を向けた。




「ねぇいい加減、これを書く理由を教えてよ」




だがやはり、顔を背ける。

彼女はしつこく、乱暴に肩を揺すってこちらを振り向かせた。

怪訝な顔をする彼を、悪戯な表情を浮かべて面白がる。






 幾度となく尋ねている事だった。

過去の話を聞く事は、未だにできていない。

豹変してしまうキッカケになる事から、恐らくもう、聞き出せないのかもしれない。

しかし、それ以外の事でもっと彼を知る事はできるのではないか。

レイシャはヘンリーに、自分自身についての何かを話してほしかった。






 しつこい彼女の問いかけに、彼は少々苛立つ。

ベタベタ触られるのも鬱陶しい。

ヘンリーは、含んだ煙をレイシャに向けて短く吐いてやった。




「ちょっと!」




彼女が数回、激しく咳をしている最中、彼は顔を背け、窓に向かって言った。




「等号で結ばれていく形が……人間に見える……

訳の分からない…生き物だ………

形状を変えていく所がそうだ………

尖ったり……丸くなったり……

長かったり……短かったり……」




レイシャは口をポカンと開けたまま、彼を凝視していた。




「後は………線引きか………

組を作り……隔たりを生む…………

式によっては……

こういう解という事にしよう………

代数的に解けない……或いは…解は無いと……

…そう都合よく表現したりする……

その羅列は……人に見える一方で……

思考に終わりが無いようでな………」




「……で、何でそれを延々と書くのよ」




………


……




……


………




 良くも悪くも、それは焼きついた。

人を見る事に、人を分析する事に、もはや囚われたか。

好きな数字の世界からそれを連想させ、書き出す事で居場所を見つけた。

自分だけの、考えを巡らせ、判断をする為の空間だった。









SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~


初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。


2024年 次回連載作発表予定。

活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。

気が向きましたら、是非。




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