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#05. Error 誤搬送 [4]
ヘンリーは、新たに整えた持ち場でキーボードを叩いていた。
作業をするには暗い空間で、液晶の灯だけが顔を照らしている。
それが落ち着き、心地が良かった。
すっかり拠点に入り浸るようになり、後の2人が時たまボートで出入りするようになっている。
顔こそ合わせるが、作業に噛りつく性質が漲っており、レナードとはあれから会話をしていない。
レイシャに対する反応も、微々たるものだった。
そんな無愛想な自分を、2人は文句も言わず受け入れ、変わらず接する。
デスクの両脇や床には、医療関連の本が積まれたり、開いた状態で置かれている。
後方に立つホワイトボードは、大量の数式で埋め尽くされていた。
彼にとって、人を表現しているように見えるそれらは、何かを考える時にいつも書き出される。
ふと椅子ごと背後を振り返ると、ホワイトボード上のそれらと向き合った。
そのまま、数日前のある夜を思い出す。
………
……
…
…
……
………
その晩、珍しく空が晴れ、瞬く星が窓から観測できた。
大量に銃を詰めた袋を放置していた為、どこか収納庫を設けるまでの間、適当に倉庫に仕舞おうと、レイシャと取り出していた。
その作業をする最中、ヘンリーは時折、顔を歪める。
自分が触れたもの以外にも、余分にピストルが入っていた。
求めていないというのに、随分な特典だ。
近々運搬する為、台車に全てを纏め終えると、袋の奥底に真っ新の煙草とマッチを見つける。
恐らくオーナーが勝手に放り込んだのか。
それがどういう物かを知らず、初めて火を点けて吸うと、激しく咽た。
それを見たレイシャは腹を抱えて笑った。
そんなに笑い転げる姿を見た事がなく、口内の苦味や鼻腔を刺激する煙も他所に、ヘンリーは見入ってしまった。
火を点けたからにはと、間隔を空けながらゆっくりそれを吸い続けてみるヘンリー。
そんな彼を横に、レイシャは床に散らかった数式の紙に目を向けた。
「ねぇいい加減、これを書く理由を教えてよ」
だがやはり、顔を背ける。
彼女はしつこく、乱暴に肩を揺すってこちらを振り向かせた。
怪訝な顔をする彼を、悪戯な表情を浮かべて面白がる。
幾度となく尋ねている事だった。
過去の話を聞く事は、未だにできていない。
豹変してしまうキッカケになる事から、恐らくもう、聞き出せないのかもしれない。
しかし、それ以外の事でもっと彼を知る事はできるのではないか。
レイシャはヘンリーに、自分自身についての何かを話してほしかった。
しつこい彼女の問いかけに、彼は少々苛立つ。
ベタベタ触られるのも鬱陶しい。
ヘンリーは、含んだ煙をレイシャに向けて短く吐いてやった。
「ちょっと!」
彼女が数回、激しく咳をしている最中、彼は顔を背け、窓に向かって言った。
「等号で結ばれていく形が……人間に見える……
訳の分からない…生き物だ………
形状を変えていく所がそうだ………
尖ったり……丸くなったり……
長かったり……短かったり……」
レイシャは口をポカンと開けたまま、彼を凝視していた。
「後は………線引きか………
組を作り……隔たりを生む…………
式によっては……
こういう解という事にしよう………
代数的に解けない……或いは…解は無いと……
…そう都合よく表現したりする……
その羅列は……人に見える一方で……
思考に終わりが無いようでな………」
「……で、何でそれを延々と書くのよ」
………
……
…
…
……
………
良くも悪くも、それは焼きついた。
人を見る事に、人を分析する事に、もはや囚われたか。
好きな数字の世界からそれを連想させ、書き出す事で居場所を見つけた。
自分だけの、考えを巡らせ、判断をする為の空間だった。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




