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#11. Almost done 実行 [7]
肩を軽く揺さぶられたヘンリーは、レナードにジリジリと横目を向ける。
その癖も聞いていた。
少し待てば真正面を向く、と。
互いが向き合ったところで、レナードは口を開いた。
「あのさ。
どうも俺、役に立ててるみたいでさ。
初めてだよ、こんなの。
ずっと当てにされなかった。
スキルを覚えられなくて。皆、早いんだもん。
追いかけるのに必死だったけど、早くて無理だった。
でもあんた…いや……」
どういう訳か、彼を呼ぶのに口が止まった。
名前を知ってからはそう呼んでいたし、これからもそうだろう。
しかし一方で、この人は自分を解放し、役割と生きる場所までくれた。
「………トップは、俺が役に立つって思ってたの?」
ヘンリーの目が僅かに見開く。
これまで、自分がそうである事を意識する為に、自分の中にだけ掲げていた呼び方。
これまで誰一人、そんな風に呼んだり、そんな目で見てくれていた事はなかったように思う。
いつだって、アルフの孫が後を継いでいると言われるだけだった。
無言を貫くまま思い出すと、視線を落とした。
ヘンリーは思い出した記憶も共に拭うように、レナードに首を振る。
レナードを助けたあの時は、反射的だった。
あの場所で暴力を振るわれ、不要とされているから、解放してやりたい。
それだけの事だった。
彼が役に立つのかどうか、そんな事まで考えていなかった。
「分かんないなぁ。
ところで本当驚いたぜ。
会って何の違和感もない人達が、後から聞いたらまさかの死んだ人って。
俺が漏らす可能性があるって、思わないの?
こう見えてもハッカーだぜ?
情報流出してるかもしれないのに?」
彼は悪戯に笑って話しているが、それでもヘンリーは何も言わない。
そうだとすれば、どうなのだ。
自分こそが大罪人。
そのような不安を抱く由も無い。
裏切るならば、そうすればいい。
その時が来るだけなのだから。
レナードは肩を竦め、立ち上がった。
「なぁ、俺の身形、変わっただろう?
本当は綺麗好きだ。
ここにいたら、頭もスカッとしてさ。
好きな時に飯食って、風呂にも入れるし!
自分のペースでやれる。
生きた心地がするって、こういう事か。
お陰で腕磨きも捗るよ」
そう言いながら、ずっと手にしているラップトップをふと持ち上げて見せる。
ヘンリーは、逸らしていた目を再び彼に向けた。
そこに立つのは、生き生きとした声で話し、見違える程に顔色も良くなったレナード。
その姿を上から下までなぞるように見ては、口を開く。
「…………なら……笑え………
俺が……許す…から……」
レナードは目を瞬いた。
そして、クスッと自然に笑いが零れる。
「何だそりゃ!
あんた、やっぱ変わってるよ。ははっ!」
レイシャの他に、笑顔が見られた。
ヘンリーは、立ち去るその背を見届けた後、端に置かれていたグラスの水を一気に飲み干すと、安堵の息をほんの小さく吐いた。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




