[2] 1290.
#07. Cracking 処分 [6]
#08. Reboot 脱出 [7]
そこは薄暗い路地裏。
ヘンリーの姿が見えなくなるのは怖かった。
この距離にいたくなく、レイシャは2人の声が聞こえる所まで接近した。
小声での会話は、低く緩やかに変化してしまったヘンリーの声など無いに等しく、ジェレクの声だけが部分的に耳に入る。
「仕事するまでの分だけじゃん。
親父キレてっから言えねぇし」
その言い方からすると、最後に会った日から今日までの間に、父に隠し事がバレたのか。
レイシャは2人の歳の差も聞いていない。
見た目のギャップのせいで、ジェレクはかなり年下に見えるのだが、そうでもないのか。
「いや、社長してたくせにケチか!
それとも何だ、詫び金で飛んじまって貧乏?
あの施設売っちまえば増えんだろ?さっさと片せよ」
家族とは思えない態度に、レイシャは耳を疑う。
兄弟こそ助け合う仲でありたいものだが、ジェレクの発言は突拍子もない事ばかりで、怒りに震え始めた。
「腑に落ちねぇって面か。
そーいや事故の話聞いたけど、相変わらず首絞める癖はご健在らしいな!
あああの女は喧しかったぜ!
それには同意してやるよ。
けど、ムカつくからって首絞めるとか、流石に餓鬼じゃん!
馬鹿だろ!
あん時となーんも変わってねぇんだな。
俺も被害に遭ったし、とことんお前がこえーわ!」
暗闇からは甲高い馬鹿笑いが聞こえ、レイシャは堪らず乱入した。
彼はそもそも、殺しをするような人ではなかったのだ。
そうなる前にどうして、何とかしてあげられなかったのか。
込み上げる激しい悔いに焦燥する。
今すぐうざったいそいつをその場から追い払うべく、咄嗟にジェレクの腕に掴みかかり、強引にヘンリーから引き離した。
「とっとと消えて!耳障りだわ!
あんたみたいな奴、家族でも何でもない!
引っ込むのね!何も知らない癖に!」
気が高ぶり、声を荒げながらつい、彼を引っ叩く。
これでも抑えている方だ。
痛みに静まるジェレクはしかし、彼女を睨む。
「ってぇな!何だぁ、ああ!?
何も知らねぇのは他人のてめぇだろうが!
そっちが引っ込め!話しまだ終わっ
ジェレクが言い終えるまでに、ヘンリーは彼の胸倉に掴みかかる。
互いの立ち位置が入れ替わり、ジェレクは激しく壁に叩きつけられた。
被害、事故、シャル、首を絞める。
頭がイかれるには十分過ぎる条件だ。
それらから連想される事は決まっている。
胸に生息する何かが牙を剥きかけているのを、歯を食いしばって堪えた。
しかし目は血走り、瞼を失っている。
こいつが憎くてならない衝動に、駆られ始めている。
「来てヘンリー」
それでも彼は、掴んでくるレイシャの手を激しく振り解く。
眼振を引き起こす中、ポケットにたまたま入れていた僅かな札束を、ジェレクの口に捻じ込んでやった。
「失せろっ………
俺はっ……お前をっ……知らないっ……」
無人の建物の隙間とは言え、誰が耳にしているかは分からない。
これ以上声を上げるまいと、手持ちの分だけを渡し、縁を切るようにジェレクを道の方へ突き飛ばした。
兄弟がいない事にしている。
その言葉もまた、忘れられない。
ならばこちらも、いないものとして扱って然るべきだ。
威嚇の眼差しを向けながら、ヘンリーは横たわるジェレクに更に接近する。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




