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#12. Complete 細胞の記憶 [6]

#- Shut down






 真昼の太陽が水面を照らし、揺れている。

それをじっと眺めながら、レイシャは波の穏やかさに一時、目を奪われていた。




 ヘンリーが着く頃合いを見て、研究所の船着場に出ている。

傍には、ゲートの柵に凭れるレアールがいた。

ボートはまだ、姿を見せない。




「ねぇレアール……」




返答は無い。

しかし、彼女は聞いている。

よくかけていたサングラス越しに、縁で小さくしゃがむレイシャを凝視していた。




「駆けつけられなくて……後悔してるの……

助けて…もう…

どこかへ一緒に逃げてしまいたかった………

そして……そしてね……

好きな事をして、笑って、一緒に生きたかった……

そこにはね…彼もいるの……

彼もそこで…笑ってる……

得意の機械に触れて…自信いっぱいに話して…」




レアールはそっとサングラスを取り、風に消されそうな声をボソボソと囁く彼女の横に歩み寄る。




「間があればそれを言うわねぇ。

だったらもう、叶ってるようなものじゃない。

大きな何かを犠牲にしてでも、得たかったもの。

私の行いもまた、無駄ではないでしょうねぇ…」




レイシャは、横に立つ背の高い彼女を見上げる。

鋭い陽光を浴びながら、潮風に大きく髪を靡かせていた。

それは、いつか撮影で風に当たりながらポーズを決めていた姿を思い出させる。




「目標に向かって、突っ切る。

転んでケガをし、泣いてもね。

私達は、そうして必死に乗り越えてきたんでしょう。



 ここにはもう、嘗て聞いてきたような痛い言葉が聞こえてくる事はない。

彼もまた、そう。

彼は、本当は貴方といられて安心してる。

体調を見れば、お見通しよ」




言い終わりには、顎で海の向こうを指す。

レイシャがその方向を振り返った時、ヘンリーがボートで接近してきていた。








 「……あら。誰か乗ってるわねぇ」




レアールが数メートル先に現れたボートを凝視して言う。




「そりゃそうでしょ」



「余所者だわ」



「!?」




会話を交わして間もなく、視界に飛び込んだ青年にレイシャは目を剥く。

お世辞でも綺麗とは言えない見た目に、瘦せこけた容姿。




「「誰」」




青年と声が合わさるのを他所に、ヘンリーは銃の袋を下ろし、無言で下船する。

レイシャは、どういう事だと尋ねながら共にゲートを通過する。

彼は、少し進んでからやっと口を開いた。




「部下だ……頼んだ……」




レイシャの開いた口は塞がらない。

人間よりもゼロに頼りたがる程に後ろ向きだった彼が、何を言っているのか。

背後からはレアールが、軽々と銃の袋を担いでやって来くる。

その間、ついてくる青年と会話を交わしている。

そもそもその武器の買い物もレイシャには意味不明だが、その経緯を事細かに聞けたのは、もう少し後の事だった。

それもヘンリーからではなく、その第一部下の青年、レナードからだった。








 翌日の晩、残っている得意先の手続きをする為、ヘンリーとレイシャは再び元の地へ渡った。

数件回る為、車を借りた。

昨日来たレナードは、これまで送った事のない生活にしばらく興奮していた。

ハッカーと知ったレイシャは、早々に彼に人材探しの相談をし、暫くそれを任せている。






 1件1件の訪問時間が長かった為、車で待っていてもいいとヘンリーが告げても、レイシャは目を離すまいと付き添った。




 全て片付いた後、元々持っていたアカウントを思い出し、銀行へ向かう。

アルフの死を機に父から分配されていた遺産があり、それも移し、解約手続きを進めた。




 だが、そこで再び目に留まったのは引き出し履歴。

これは、学生時代から持っていた個人のもの。

最後の履歴は父が振り込んだ時で、それ以降動きは全く無い筈だった。




 もともと消費する事は殆どなく、自然と積み立てられていた。

もしやと思い、調べられるまでの履歴を遡る。




すると、大学生活をする頃から、気づかない内に既に事は起きていた。

碌に着手もせず、見る事もなかったという欠点があるにせよ、苛立ちが込み上げる。

わざわざ調べるまでもない。




ヘンリーは、脳裏に過ったジェレクを睨め上げた。









SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~


初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。


2024年 次回連載作発表予定。

活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。

気が向きましたら、是非。




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