[4] 1260.
ドアを開け放ち、長い廊下に激しい足音を立ててリビングに向かう。
まだ灯をつける時間帯ではないそこは暗く、フローリングは冷たい。
黒に近い焦げ茶色をした階段と廊下が、後方に流れるように過ぎていく。
リビングの入り口の柱に手を掛け、兄はまた急停止した。
その背中にジェレクが衝突し、再び後方に転倒。
リビングでは3人の大人が、テーブルで一息ついていた。
「じいちゃん!イルカ見たい!クジラも!
いつ見れる!?」
端にいる女性が見えないのか、それよりも優先する事があるのか。
「何だ
「この地図ほら!近いでしょ!?で、見て!」
ヘンリーはテーブルに激しい音を立てて図鑑を開き、先程見ていたページを開く。
「この海域にさ、マッコウクジラとかコククジラとかザトウクジラも、あとミンククジラもい
突如、力強く肩を掴まれ、彼の口はやっと止まる。
「ヘンリー」
皆の視線が今、彼に向いている。
そこでやっと、彼は見た事ない女性と目が合った。
アッシュブラックの前下がりの、短い髪をしたお姉さん。
目は弟のジェレクに似ている。
シャルは既に、凄まじい印象を得ている。
そんな彼女を、彼は穴が開く程見つめていた。
静まると、彼女は口を開く。
「坊や…目、青いの?黒いと思ったら、違うわね?」
キッチンの窓からの柔らかい陽射しを受け、彼の目はブルーブラックに変化した。
「こんにちは」
彼女よりも先に挨拶した彼は、再び祖父のアルフを振り返る。
また口が開く前にと、今度はアルフから切り出した。
「ヘンリーお前、もうこんな所まで読んだのか?」
彼が開いていたそのページは、ほぼ末尾だった。
「今朝に全部読み切ったよ。
ちょっと忘れた所をもう一回見てた。
ねぇ研究所いつ出来る?いつボート乗れる?」
「待て。それをお前にやったのは一昨日だぞ?」
「うん、そうだよ。何で?」
端の2人は驚いている。
2段組になった327ページの図鑑を彼に渡したのは、単に本人が好きだからという理由だけではない。
彼は兎に角、人の何倍ものスピードでインプットし、アウトプットする。
少量の本ではあっという間に読み終えてしまい、次の新しい知識を求めるのに落ち着かない。
そこで膨大な図鑑を渡す事で、暫しの時間は退屈しないだろうと考えついた。
だが、それを2日少々で読んだと言う。
「一体いつ…」
「ご飯の前後と、学校の行き帰りの車の中と、休み時間と授業中、シャワーの後と、寝るまでの間」
「待て、休み時間ならまだしも、授業中だって?
それは駄目だヘンリー。
先生の話を聞かないと、勉強が分からなくなるだろう」
「もう分かるよ。全部知ってる。
教科書も読んじゃったし。
あんなの簡単で、つまんない。
明日にでも次の学年に行きたいよ」
シャルは開いた口が塞がらない。
シッターは小さく笑った。
「だとしてもだな……休み時間は?
友達と過ごさないのか?」
「過ごさないよ。何で?」
その場はまた、静まり返る。
彼は殆ど、弟以外の誰かと遊んだ事がない。
入学したばかりの頃は仕方がないとしても、もう半年が経過しようとする今、アルフは首を傾げた。
「休み時間こそ、好きな事してもいいんでしょう?」
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続き、お楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




