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#12. Complete 細胞の記憶 [22]
何十日もかかってやっと、起こす気になった。
ファッションモデルのレアールは、沢山服を持っていた。
レイシャはなんとなく、向こうへ戻った際の事を思い出す。
アパートの退去と退職手続きをした際に発覚したのは、既にレアールが退職の意思表明を終えていた事。
休み続きで体力も落ち、仕事にならないと早くから判断をしていたのか。
それすらも、聞いてあげる事ができなかった。
必要な本人の私物を運搬し、作業を始めるまでの間も日々、着替えさせていた。
買っておいたレザーのバングルと、起きてから着用する服も準備し、不安を抱きながら起動ボタンの前で立ち止まる。
新しい設備で施術されたレアール。
その見た目は、初段階のシャルとは全く違い、骨格の納まりも皮膚も美しかった。
離れたところで、ヘンリーも目を光らせている。
平然としているが、どこか緊張しているのは分かる。
数秒、その顔を眺めると、彼は小さく頷いた。
レイシャは震える指先で、起動ボタンを押す。
電流音が鳴ると、開胸部分が閉じ、その部分と腰椎に差し込まれていた配線が自動収集される。
格子の正面が、広く開いて止まった。
レイシャは思わず、小さく声を漏らす。
長く眠っていたレアールが、緩やかに上体を起こし、両手を見てから真正面を向く。
レイシャは彼女の傍へ駆け寄ると、目が潤み始める。
「レアー…ル…?」
彼女は振り向き、レイシャに目を這わせて隅々まで観察した。
その後、脇にあった服に目が留まり、触れる。
「それ!」
それは、いつ何処へ出かける際に着ていたもので、どこのブランドのものか。
どんな時に着ていたのか、レイシャは勝手に口が動いていた。
それを聞きながら、レアールは静かに、滑らかに服を着用していく。
そして最後に、手首にアクセサリーを着けた。
「気が利くわねぇ。
流石、長年一緒にいるだけあるわ、レイシャ」
レアールは手首の傷が隠れるバングルを見てから、レイシャを認識した。
ステンレス台からスムーズに下り、彼女は鉄格子から出る。
そこでやっとまともに対面するなり、レイシャは強く抱きつき、泣いた。
一方ヘンリーは、その光景を見るや否やその場から即刻退室する。
逃げるように、足早にエレベーターを呼んで下に降りた。
晴れた夜。
澄んだ空に浮かぶ月が、ロビーから飛び出すなり目に飛び込んだ。
寒く、一瞬身震いする程に冷えきった潮風。
彼は、そのまま船着場まで駆ける。
レイシャから、できるだけ遠ざかりたかった。
酷く感動していた彼女の姿が、一瞬見ただけなのに焼きついている。
彼女の事だ。
今度は自分に泣いて寄ってくるのではないかと、急に怖くなった。
柵を激しく開き、白い息を立てながら立ち止まる。
そこでは、ボートが漆黒の波に揺れていた。
ヘンリーは、その場所の端に積まれた大きな木箱に腰掛け、深い一息をつく。
最初で最後の対面だった、いつかのレアールを思い出す。
久し振り。
彼女が起き上がるとつい、そんな事を言いかけそうな程だった。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




