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レイシャは鋭利になる目を伏せ、考え始める。
ヘンリーを、向こうへ行かせる訳にはいかない。
余程の事がない限り、自分が出向く事にする。
もし彼が行く必要があるならば、同行を徹底し、目を離さないようにする。
さもなくば、もう、この事態は止められないかもしれない。
これからの動きを頭で組み立てながら、担架の準備をした。
プログラミングや話しをある程度した事で、シャルに補助を頼む事ができた。
施術室までなんとか遺体を搬送し、ひとまず保冷の対応をして一晩安置。
その後、日課であるレアールとの対面をする。
出来事を口にしては、呆然と一点を見つめて黙り込んだ。
随分な生きざまだが、向こうに戻ろうとは何一つ思わない。
彼をこのまま、独りにさせやしない。
(いや…私が嫌なのか……)
虚ろな目は、心地よさそうに眠るレアールをじっと見つめる。
綺麗で、クールな顔とスタイル。
(また…会おう…)
歪んでいるなど知るものか。
席を立つとその場を後にし、彼の部屋に向かう。
ただ適当に水を拭き取り、着替え、倒れ込んだといったところか。
それこそまるで、起動停止した状態のアンドロイドのようだ。
そこらに脱ぎ捨てられたずぶ濡れの服に、タオル。
それには血が滲んでおり、目を疑った。
更に混ざり合う数式だらけの紙。
いつ処方されたか分からない、散乱する鎮痛剤。
鉄の廃材のようなものまで転がっている。
海水に入ったというのに、最悪の状態のままベッドで眠りに落ちていた。
下では暗くて一切分からなかった、腫れた頬とこめかみの傷。
デスクのスタンドライトに、それらは浮かび上がっていた。
すぐさま保冷剤を準備し、患部に当てる。
元々白い肌は赤くなり、2発喰らったのがよく分かった。
切り傷の消毒をしても、彼はびくともしない。
表情自体は、彼の家でやっと再会できた時に見た、幼さを滲ませた心地よさそうなもの。
夢でも見ているのか。
心底そこが、居心地よさそうに眠る。
もう、あの優しかった笑顔は2度と見られないのか。
警察の彼や父親、シャルが、彼の腕を失くしたキッカケなのだろうか。
深く知る機会を持てず、こんなになるまで何もできなかった。
懸命に働こうとしていた筈だろう。
何かに耐え、体が痩せても、生きてきた。
レアールや自分と、何も変わらない筈だったのではないか。
微かに彼の髪を弄ると、視界が薄っすらと涙でぼやける。
頑張っていても、報われない。
それは不器用なのか、将又、ただ不運であるだけか。
首は、勝手に振られる。
そんな事、あってたまるか。
彼女はそのまま、彼が横たわるベッドの端に突っ伏し、共に眠りに落ちた。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




