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[10]         1050.




 レイシャは鋭利になる目を伏せ、考え始める。

ヘンリーを、向こうへ行かせる訳にはいかない。

余程の事がない限り、自分が出向く事にする。

もし彼が行く必要があるならば、同行を徹底し、目を離さないようにする。

さもなくば、もう、この事態は止められないかもしれない。

これからの動きを頭で組み立てながら、担架の準備をした。






 プログラミングや話しをある程度した事で、シャルに補助を頼む事ができた。

施術室までなんとか遺体を搬送し、ひとまず保冷の対応をして一晩安置。

その後、日課であるレアールとの対面をする。






 出来事を口にしては、呆然と一点を見つめて黙り込んだ。

随分な生きざまだが、向こうに戻ろうとは何一つ思わない。

彼をこのまま、独りにさせやしない。




(いや…私が嫌なのか……)




虚ろな目は、心地よさそうに眠るレアールをじっと見つめる。

綺麗で、クールな顔とスタイル。




(また…会おう…)




歪んでいるなど知るものか。

席を立つとその場を後にし、彼の部屋に向かう。








 ただ適当に水を拭き取り、着替え、倒れ込んだといったところか。

それこそまるで、起動停止した状態のアンドロイドのようだ。




 そこらに脱ぎ捨てられたずぶ濡れの服に、タオル。

それには血が滲んでおり、目を疑った。

更に混ざり合う数式だらけの紙。

いつ処方されたか分からない、散乱する鎮痛剤。

鉄の廃材のようなものまで転がっている。




 海水に入ったというのに、最悪の状態のままベッドで眠りに落ちていた。

下では暗くて一切分からなかった、腫れた頬とこめかみの傷。

デスクのスタンドライトに、それらは浮かび上がっていた。




 すぐさま保冷剤を準備し、患部に当てる。

元々白い肌は赤くなり、2発喰らったのがよく分かった。

切り傷の消毒をしても、彼はびくともしない。

表情自体は、彼の家でやっと再会できた時に見た、幼さを滲ませた心地よさそうなもの。

夢でも見ているのか。

心底そこが、居心地よさそうに眠る。






 もう、あの優しかった笑顔は2度と見られないのか。

警察の彼や父親、シャルが、彼の腕を失くしたキッカケなのだろうか。




 深く知る機会を持てず、こんなになるまで何もできなかった。

懸命に働こうとしていた筈だろう。

何かに耐え、体が痩せても、生きてきた。

レアールや自分と、何も変わらない筈だったのではないか。




 微かに彼の髪を弄ると、視界が薄っすらと涙でぼやける。

頑張っていても、報われない。

それは不器用なのか、将又、ただ不運であるだけか。




 首は、勝手に振られる。

そんな事、あってたまるか。

彼女はそのまま、彼が横たわるベッドの端に突っ伏し、共に眠りに落ちた。









SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~


初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。


2024年 次回連載作発表予定。

活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。

気が向きましたら、是非。




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