[8] 1390.
ビルは息切れしながら陸地を見上げる。
その場から上がるには高さがあった。
束の間、ヘンリーが向かおうとしていた先を思い出す。
辺りに数隻停まる漁船を観察した。
その端に、見た事がある研究所から発着していたボートを見つける。
そのプラットフォームから上がる事にした。
やっとヘンリーが静まった矢先。
ボートのプラットフォームに近づくと、ビルに右腕で胴体を回された状態で運ばれていたヘンリーが、目を大きく見開いた。
その目は変わらず、横で懸命に泳ぐ彼を貫くように睨み、左腕がその右肩を反射的に殴って攻撃。
凄まじい激痛にビルが一驚上げると、ヘンリーは殺意に滾る顔をそのままに、再び彼を深々と沈めにかかる。
(触るな…触るな触るな触るな触るな!)
ビルはどんなに這い上がろうとしても、水面に辿り着けなかった。
ヘンリーは手足を使い、何度も彼を水中に押し戻し続ける。
一体何度攻撃したのか。
気づけばそこには誰もいない。
真っ黒な海には、何の影も形も無い。
また何かに憑りつかれていたのかと、ヘンリーは瞼を失い、一点をただ見据える。
そして1分程経つと、何かを沈めた事に気がつく。
ジワジワと目を見開くと、今度は無我夢中で潜った。
暗く、視界もぼやけ、捉えられなかった。
服が重く、潜水の邪魔になる中息継ぎし、必死に水中を探り続ける。
そしてやっと、指先が何かに触れた。
それを掴むと、僅かに引き上げる。
虚ろな目をする中、ヘンリーは左腕でビルを掴み、プラットフォームに叩きつけるように引き上げた。
そのまま自分も淡々とプラットフォームから上がると、上半身だけ引き上げられたビルを、更に船内へ乱暴に引き込む。
そのまま、忙しなくコックピットへ直進。
後方に放置されたビルは微動だにせず、声も上げない。
静まり返る夜の船着場に、ボートのエンジン音が低く鳴る。
最高速度まで一気にシフトレバーが上げられ、体が大きく揺れた。
だが、またも事態は起きてしまう。
ヘンリーは急に、顔からハンドルに倒れた。
空気が薄く、どんなに口を大きく開いて呼吸をしようにも、息ができない。
そんな苦しみの中、上体が勝手に起き上がると、沸々と笑いが込み上げるではないか。
意識的でないそれに目は見開き、恐怖に震え、息が激しくなる。
動悸が全身に鳴り響き、何かが中で暴れている。
意識は僅かにあった。
咄嗟に自動運転に切り替え、正気を取り戻すべく強引に体を捻じり、コックピットから離れる。
眼振かボートの揺れかの判別がつかない。
笑みに抗おうと、顔の筋肉が引き合いになっている。
「っ!」
浮かび始める、ビルの影。
それが恐ろしく、また憎たらしく、ヘンリーは立ち上がれないまま床で暴れた。
助手席や手摺り、這い出た先の床、行き着いた船縁をただ、只管に殴り続けた。
しかしまだ、笑ってくる。
対面してきた者どもが、自分を笑い続けた。
彼は反射的に立ち上がると同時に、今にもそれを払拭しようと
「あああああああーーーーー!!!!!」
瞑る目の奥の何かは、左こめかみに与えた強い打撃によって瞬時に消え失せる。
ボートの柱と床には、負った切り傷による血痕が残る。
息ができない中、この手で犯した事が鮮明に蘇ってきた。
蒼白した顔で目を泳がせながら、全身で酸素を求めている。
やがて症状が治まると、汗と血を滲ませる顔を覆いながら零した。
「…レイシャ………ごめん………レイシャ……」
走り続けるボートは、彼を、元いた場所からみるみる遠ざけた。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




