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#05. Error 誤搬送 [4]
家の裏庭。
木陰が揺れる芝生の絨毯で、兄は、とてつも無く厚い図鑑に見入っている。
海洋生物の生態とビジュアルが、幅広く纏まった1冊。
大のお気に入りのそれは、祖父から貰った一生の宝物だ。
散らばる細かい文字の列を、円らな瞳は瞬きもせずに這って進む。
(北から流れる海流と…
大陸に向かって深みから湧き上がる湧昇流が)
「リー」
(沿岸にプランクトンを湧き立たせ…
クジラやイルカを含む色々な海洋動物が集まる…)
「ぇ。ねぇー」
(この海は…近い…近い?
…じゃあこの辺にいるって事か…?)
「ンリ!」
(クジラが…イルカが…見られるって事…?)
「リーってば!」
(海に研究所が出来たら…
ボートに乗れるから…見れる!?)
「ヘ―――――ン――――リ―――――っ!」
突如、体が左右に激しく、大きく揺れた。
だが
「水族館に行かなくてもか!?」
体の揺れなど気にも留めず、彼は傍に立つジェレクに咄嗟に目を合わせる。
兄の突然の動きに、ジェレクの体を揺さぶる行為は声と共に止まった。
「行こうって全然連れてってくれない水族館に、行く必要はないって事か!?」
「なんで?」
図鑑は両手でドンと厚みを感じさせながら閉じられると、彼は1人興奮して立ち上がる。
1つ1つのアクションが唐突で、小さな弟は尻餅をついた。
「じいちゃんきてるよヘンリー」
「研究所ができたら、ボートで海に連れてくれるって言ってた。
今日っていつ?何日?」
「ヘ――ンリっ!じ――ちゃんいる!
あと、じーちゃんのおんなのひと!」
「……………!?」
彼はやっと、そこで弟が転んだまま声を上げている事に気づいた。
咄嗟に左手を出し、立たせてやる最中、更に遅れて目を剥く。
「じいちゃんが来てるだって!?
何で早く言わないんだよ!」
宝物を片手に、少し駆けた先で彼は急停止し、振り返る。
「じいちゃんの女の人?何だ?それ。
ばあちゃん?は…いないだろう?」
ジェレクは小刻みに駆け寄ると、見上げた。
「しごとのひとって、いってた」
「誰だ?それ」
「しらなーい」
2人は急いで家の中へ戻った。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続き、お楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




