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#12. Complete 細胞の記憶 [22]
ヘンリーは数歩、引き下がった。
もう、聞く必要は無い。
そう言い聞かせながら、ビルに背を向け、歩き出す。
しかしまた、彼は肩を掴んで引き留めた。
それが更に、動悸を激しくさせる。
どこか強いその感覚は、あの時を呼び起こした。
「なあ、ヘンリー。顔上げろよ」
(…は……?)
どういう意味なのか。
呆れた弾みで尋ねてしまった。
「何で…笑った……」
本当に酷過ぎる出来事であり、ずっと消化しきれない。
そんな人間の前で笑うなと、睨んでやる。
ヘンリーの妙な様子に、ビルは眉を顰めた。
しかし、そうするだけでまだ何も言わない。
ヘンリーはそれに苛立ち、半ば駆け足で船着場まで向かった。
ボートがやっと近づいてくる。
頭の中は、あの事件で占領されている。
早く拭ってしまいたいと、兎に角急いだ。
ヘンリーは走ろうとするが、彼はまた呼び止めてくる。
「なあどうした?親父さんと話してないのか?」
触られた手を、遂に大きく払い除けた。
「触んなっ!」
ビルは彼の豹変に驚くばかり。
そこまで力を加えたつもりはなく、余計にだ。
ヘンリーの変わりようが、頭で、事故の時の様子と合わさっていく。
「触るなっ…痛ぇんだよずっとっ…
どこもかしこもっ!」
勝手に喋っている。
黙っていたかった事が、溢れ出る。
その間、反射的に左腕の装着口を強く握っていた。
そこから酷く、激痛が派生していくのだ。
「なあ!?お前だろ!?言えよ!
俺を抑えつけてただろ!?なあっ!」
「落ち着け!」
気づけばビルに掴みかかっていた。
止まらない。
体は引き下がらない。
それを押しやるビルの力もまた、強かった。
彼の腕と手首を掴んでくる手の力で、確信に変わる。
「お前がっ……お前が…俺を……抑えてたっ……」
「ああ当たり前だろ!?何も聞いてないのか!?」
ビルはそう言い放ちながら、大きくヘンリーを後方へ押す。
ヘンリーは怒りと焦燥に息を荒げながら、ビルを睨む。
すぐ先にボートがある。
このまま引き下がろうとするのだが
「必要な対処だった。覚えてないのか?
危うく彼女を殺しそうになってたんだぞ!?
上手くいってないからって、やり過ぎだった!
2人ともな!」
ヘンリーの両目は見開かれる。
「あいつを殺しかけたから、手を失くして当然か!?
どうなんだ!?
お前!何か知ってるんじゃないのか!?
言えよ!あれは事件だろうが!事件だろうがよ!」
再びビルの首に掴みかかり、吠え飛ばしながら揺さぶる。
感情的になり過ぎるヘンリーは、とうとう1発殴られ、崩れ落ちた。
ビルは白い息を闇に立てながら、地面に倒れる彼を見下ろす。
「気の毒だって思ったさ!
けど…俺や同じ立場の人間は…
どうしようもねぇんだよ…」
刹那、周囲は無音と化す。
ヘンリーは揺れる視界の中、彼のぼやけた言葉を幾度となく頭で繰り返し聞きながら、フラフラと立ち上がった。
(…な…ん…だ………それ……)
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




