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#12. Complete 細胞の記憶 [15]
完全移行とは言え、研究所の完全クローズに関する手続きや、片付けるべき事はまだ残っている。
ヘンリーは、目立ちにくい夕方から夜の時間帯に、数日、元居た場所と往復をしていた。
シャルは、レイシャの開発した保持薬品によって、皮膚に上手く保湿効果が出ていた。
目立っていた弛みも改善でき、早くも違和感の解消ができつつある。
必死に作業と向き合い続けるレイシャに留守番を頼み、ヘンリーは独り、再び海を渡って戻ってきていたある日。
黒のキャップを目深に被り、レザージャケットを羽織っていた。
下も、何もかも相変わらず黒で占めた格好で、船着場へ向かっている。
研究所の一時閉鎖の延長をし、完全クローズは取り下げた。
機会を窺い、再開しようと企んでいるからだ。
手続きの後、シャルの自宅へ長期の不在を装わせに向かった。
すっかり遅くなった帰りの道中で、研究所の再開をぼんやり想像する。
結局、人材が要るようになるのか。
どう考えても非現実的な事である為、ゼロの量産計画を巡らせながら、足早に歩いていた。
その時、肩を掴まれ前後に数回揺れる。
「なあ?そうだろ?ヘンリーだろ?」
振り返るとそこに、ビルが立っていた。
何度呼んでも振り向かず、人違いかと思い通り過ぎかけたと言う。
ヘンリーは目を見開き、咄嗟に掴まれた手を解くと顔を背けた。
ボートまでは、もうすぐそこだった。
まだ行き来しているのかと尋ねられ、胸がザワつく。
彼を最後に見たのは、事件の日だ。
唾を飲み、喉が鳴る。
思い出したくない。
「手、どうなったんだ?あれから」
「もう…いい…」
声が震えてしまう。
どうなったか、だと。
何か知っているのではないのか。
彼は現場にいた筈だ。
そう記憶しているが、思い出したくない。
それでも、気になってしまう。
最悪な事を犯しておきながら、今更中身など知る必要もないだろう。
それでも、気になってしまった。
「まぁ…大変だったな…」
ビルは、少しトーンを落としながら軽く笑いかけてきた。
ヘンリーは、未だに笑う事ができないでいる。
なのに目の前の彼は笑っている。
シャルも、父も、笑っていた。
一体、どうしてなのか。
「…なあ……」
顔を少し上げ、鍔の下から片目だけを向ける。
ビルは、次の言葉を黙って待っている。
「…………俺は……撃たれた……だろ…?」
小さく問われた時、ビルの目が少し揺れた。
何か、聞けるだろうか。
ヘンリーは求めるように、もう少し顔を上げる。
だが
「暴発だ……
銃規制は、まだまだ世の中の課題だな……」
動悸がし始める。
それは、体内でみるみる響いていった。
(そんな事が……聞きたいんじゃ…ない……)
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




