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……


………




 「その時分は幼稚園どころか、外を殆ど知らなかった。貴方は?」




レイシャは逸らしていた目をやっとヘンリーに向けた時、少し驚いた。

いつからだったのか、彼は姿勢をそのままに、ペンを握る手を止めている。

聞いていないかもしれない。

そう思っていたが、その疑問を呈して数秒後、彼女に円らな瞳を向けた。




返事はどちらでも良かった。

それを言おうと口を開いた時、彼は小さく首を傾げる。

何か言いたげにも見える眼差しは、震えていた。

瞬きもしないそれは、言葉を失う程に驚いているのか。

彼は上体を起こし、真っ直ぐ彼女を見つめる。

しかし、それだけだった。








 その晩。

ゼロに使用していたAIをシャルの胸部に仕込み、皮膚を縫合した。

胸椎から伸びていた配線を抜き、ヘンリーはラップトップを持ったまま、リモコンを操作する。




 急に燃えたりしないか、鉄骨だけ突き破ったりはしないか、様々な失敗を頭に浮かべながら、レイシャはシャルを眺める。

しかし隣の彼は、何も読み取れない程の無表情だ。




 驚くべき事に、初段階の割に、何事もなくシャルは上体を起こし、手術台の上で座位を取った。

それを見て、2人は暫し固まる。




 彼女は姿勢をそのままに、顔を下に向け、両手を眺めた。

その後、手を握る動作もした。




 ヘンリーはラップトップを置くと、リモコンの上向き矢印を押す。

シャルはスムーズに台の上で向きを変え、素足を床につけ、立ち上がった。




 左右の矢印を順に押せば、容易に歩行もしてみせた。

動作自体に殆ど違和感はないが、まだまだこれはゼロと同じクオリティーである。

表情も一切無く、喋りもしない。

しかし、レイシャは目を震わせていた。




「ねぇ、会話ができるようになる?」




ヘンリーは顔を少々顰めるだけだ。






 廊下を歩きだすシャルに、2人はついて行く。

前方を人のように歩くシャルに、レイシャは目を見開いている。




「彼女、また仕事ができる?」




先々進むシャルに、レイシャは小走りで追いついた。

共に歩き、直に廊下を曲がる。

距離を取ってついて行くヘンリーだが、無言を貫き、浮かない顔をしている。




「笑ったり、感情表現もできるようになる?」




レイシャはシャルを追い掛けながら、真剣に観察する。

ヘンリーはそんな彼女の様子を見て、初めてレアールと現れた時、ゼロと柵沿いに歩いていたところを思い出す。




「もう少し綺麗にしてあげないと。

所々、肌がたるんでる。まだ整えられる」



「そんな奴に……」




レイシャは足を止め、半ば言葉を被せてきた彼を振り返る。

低く、緩やかに落ちる声は、夕べの怖い顔を浮かべていた。




「……そんな奴に……そんなもん……要らない…」




指示を聞くだけで十分だ。

喋るや笑うなど、とんでもない。

だがレイシャは彼に接近し、少々きつく放った。




「レアールがいる!」




しばらくして、彼の怖い顔は引いていった。

目を逸らし、床のどこかを見て考えている。






 あの子を、もう一度。






 別室で眠っている彼女は、レイシャの大切な友人。

ならば実験を重ね、ベストな状態で施したい。

ヘンリーはレイシャに目を向けると、小さく頷き、シャルの後を追った。









SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~


初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。


2024年 次回連載作発表予定。

活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。

気が向きましたら、是非。




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