[1] 1460.
#06. Please wait 決定 [4]
#08. Reboot 脱出 [6]
#11. Almost done 実行 [14]
レアールは通常の保持状態に留め、別室で安置していた。
シャルは、レイシャが知る長期遺体保持に入るまでのエンバーミング処置を終え、その先の対応はヘンリーが見るまで待った。
彼は、両面がぎっしり埋まる4枚のホワイトボードを引っ張り、並べた。
それに、レイシャは声を漏らしながら圧倒する。
見た事のない細かい設計図と、完成予想図。
終わりの方には、成功した場合の事も少々記載されていた。
彼女はそこに目を近づける。
消毒対応を繰り返していても、細菌の侵入や感染からは完全に免れる事はない。
その1対策として、直接触れて作業する事を最大限省く。
その為に、製造に特化した機械を作る事。
骨格を弄る為の金属アームの設計図に、球体型の格子状になった施術スペースの図。
落下物防止の為の構造だった。
これらの計画からは益々、彼が特別な人間である事を思わせる。
ヘンリーは、彼女が目を向けた空いたスペースに、左手でペンを走らせた。
未だ動きが不器用な、革グローブを嵌めた手。
その事も、レイシャは聞きたくて仕方がなかった。
そこに記された文言に、再びレイシャの声が漏れる。
ペンがピリオドを打つと、彼はそっと傍で前屈みになる彼女を見下ろした。
「………やる…?」
レイシャが頭で研究してきた、新しい保持方法。
研究設備が揃うここでは、存分に試す事ができる。
口元にやっていた手を小さく震わせた。
彼女はそっと、彼を見上げる。
本当にいいのかと、自然に無言で尋ねていた。
いや、やる他はない。
じっと目が合うその様子は、昨晩よりも落ち着いているが、まだぼんやりしていた。
寝たのか、寝ていないのか分からない表情のまま、彼は静かに頷く。
その後、あっさり向けられた黒い背中に、力の込もった目を向ける。
レイシャの表情は、決心で満たされていった。
そして、数時間かけてシャルの状態を変更した。
世に存在する、長期保持されている遺体と同じ処置を施し、鉄骨挿入の実験をするところまでに至る。
彼はその光景を目の当たりにしても、もう笑わなかった。
ただ無言で観察し、医療用手袋を填めると、2人で骨格を入れる準備を進める。
朝から憑りつかれたように掛かりきりになっていた。
途中、一息入れる中、レイシャはまたしてもヘンリーの様子に釘付けになる。
何も摂取せず、只管、紙にペンを走らせていた。
彼の家の中でも散乱していた、大量の数式が書かれた紙を思い出す。
それらが今、目の前でみるみる増えていく。
「何の計算なの?」
その声も他所に、瞬きも忘れ、黒い手は延々と走る。
「手…どうしたの?」
紙が裏返ると、続きが颯爽と連ねられていくそれは、まるで機械だ。
「ヘンリー…」
レイシャは触るなと言われた事を気にし、彼の視界まで指先を伸ばすと、用紙を軽く叩いた。
すると彼は止まり、上目を向ける。
「貴方…何があったの…?」
話す事で楽になる。
それを知っているから、どうしても聞きたかった。
しかし、彼の目はジリジリと狭まると、脇に逸れる。
目が徐々に見開かれていくと、顔や右手が微かに震え始めた。
話すよりも先に、多くの感情が湧き出るのか。
「…何でもないわ……これ飲んでよ、せめて。
何も食べないなら…」
言うに言えないか、言いたくないのか。
そんな事よりも別の感情が露わになっていると察した彼女は、そっと水を差し出した。
ペンは再び、紙を貫きそうな音をデスクに立て始める。
しばらく無言が続く中、レイシャは細かすぎる設計図を眺めた。
そして試しに、自分の事を話してみようと思った。
どういう訳か今、ふと幼少期の事が浮かんだ。
後に気づいた、歪んでいる幼少期を。
………
……
…
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




