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#11. Almost done 実行 [7]
その数分後。
レイシャの背中に乗るヘンリーの手が、急に落ちた。
何かと慌てて顔を上げると、彼の顔が酷く青褪め、何かに激しく怯え始める。
「ヘンリー…?」
全身が小刻みに震え、冷や汗を流す顔に、彼女は咄嗟に触れてこちらを向けさせようとした。
しかし、彼は激しくその手を跳ね返し、逃げるように立ち上がるとシンクに飛びつき、吐いた。
自分の身に起きていた異常事態を、急に冷静に捉えられた。
その差はまるで、天と地。
何かに乱暴に振り回され、体内全てを掻き回された気分だ。
(…誰……だ……)
一体、先程の自分は何だったのか。
怖くて叫びそうになるのを堪えながら、蛇口を捻る。
冷水が、肌に沁みていく。
このまま、海に飛び込みたくなった。
そんなにも冷たい世界があるのならば、実に心地いいだろう。
「ねぇ…」
彼女の手が近づいてくるのを察し、大きく真横に移動する。
「触る…な……」
「でも
「触るなっ!」
(…こんな…俺に……触るなよ……)
シンクの縁を掴む手が強まる。
彼女はただ、背を擦ってやりたかっただけだ。
しかし、1つ1つの接触をとことん拒む。
それが益々寂寥を呼んだ。
人殺し。
そんなものに、触れさせたくはなかった。
「…頼む……触るな…」
俯いた視線の先で捉えた、彼女の手が引いていく影。
それに、少し安心した。
彼女は、少し間を置いてから言う。
「やっておく…だから休んで………
平気…このままやれる…」
碌に眠りもせず、思い立った事に片っ端から着手してきた。
過度に動かし続けてきた体が、余計に異変を呼び起こした。
レイシャは部屋の場所だけ聞くと、作業に戻る。
ヘンリーは蛻の殻状態で、その場からフラフラと立ち去った。
衣食住が完璧に整った設備。
作業を終え、移動してきたそこは至れり尽くせりな環境で、レイシャはまたも圧倒されていた。
しかし、食欲も無ければ、不安で眠るどころではない。
集合住宅のような造りの1基。
その最上階にある1室を与えられた。
その隣が彼の部屋なのだが、奇妙な静けさに落ち着かない。
眠っているならば当然だろうが、レアールの事があって気が気でない。
何度かドアをノックし、声を掛けたが反応が無かった。
施錠されており、確認のしようがなく、不安に駆られながら一晩過ごした。
最悪な夜だったが、翌日はそれを思わせない程の陽光が、カーテンの隙間から射し込んでいた。
知らぬ間に寝ており、慌てて飛び起き部屋を出る。
彼の無事を願いながら、隣のドアを激しく叩き、ノブを揺らす。
数秒して、彼は素直に顔を出した。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




