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#07. Cracking 処分 [9]
日中に初めて顔を見た日。
2人はたった一度、短時間だがゆっくり会話をした。
そこでレイシャが零した遺体保持技術を、ヘンリーは記憶していた。
殺害を機に調べ抜き、簡易的ではあるが、実行可能な設備を整えた。
レイシャは黙々と手を動かしながら、考えていた。
知識だけで未経験の彼が、全ての作業を1人でするつもりだった。
だとすれば実に非現実的で、成功確率も低いだろう。
彼ならばそのくらい、予想はついていた筈ではないか。
憎い対象故に殺害に至ったのだろう。
ならば、別にどうなってもよかったという事なのか。
一瞬手が止まり、横目で彼を見る。
そこに置いていたラップトップで、かなりの速度でタイピングをしている。
目を凝らすと、コードの流れが見えた。
彼女はふと、ゼロの存在を思い出し、現状とその記憶を合わせる。
この女性を起こした先に、何があるのだろうか。
自分達の行いを他所に、レイシャは端で眠るレアールを見る。
「…綺麗に……強く……
心も…体も………私達の役に…立てたら…」
そう小さく囁いた時だった。
その声に気づいてという訳ではないが、ふとヘンリーが処置中のシャルに鋭利な目を向ける。
「…………は…?」
レイシャは振り向いた。
彼の目は次第に見開いていくと、急に立ち上がり、遺体に接近する。
慎重に抜かれていく血液と残存物。
その為に切開された体。
瞬きせず舐め回すように目だけで観察する彼に、彼女はつい、施術を誤っているのかと戸惑う。
が
「…は……ははっ…!」
「……ヘンリー?」
レイシャは眉を顰め、疑う。
「ははっ…ははははははははははははっ!」
「ヘンリー!?」
声を掛けるや否や、彼は笑い崩れ、台の真下に腰を抜かして爆笑し続けた。
「だっはっはっはっはっはっ!!!!」
テトロドトキシンに目が逝く光景も最高だったというのに、切られた形も大したものだ。
実に間抜けである絵面に、左手で目を覆い、もう片方は腹を抱える。
引き笑いも混ざり、どこか過呼吸のようにも感じるそれに、レイシャは忽ち手袋とガウンを脱いだ。
「ヘンリーもう止めて!笑わないで!
笑わなくていいのよ!」
「かっはっはっ…はっ…
はっはははははははははははははは!!!!」
しかし、彼も自ら笑いを止めようとするような瞬間もあった。
だがコントロールが利かないのか。
爆笑する声はどこか子どものようで、室内に大きく轟く。
レイシャは恐怖し、泣きながら必死に正気を取り戻させようと、名前を呼び続けた。
「ねぇ!こっち見て!しっかりして!もういいのよ!
そんな風にならなくていい!ならないで!
帰ってきて!」
「たっはっ…!はっ……はははっ…ははははっ…
はっ……はっ…はっ……あーーーあ……っ……」
レイシャは堪らず、彼を抱き寄せていた。
やっと治まったかと体を離し、顔を覗き込む。
彼は目を泳がせながら、息を荒げている。
表情はまだ、薄っすら笑みを浮かべていた。
そこへ、やっと彼女を捉えて首を傾げる。
涙の理由が、よく分からないようだ。
「あ…れ…?……な…ん…で……?
…な…い…て…ん…の……?」
喉が締めつけられる。
酷い豹変に、怒りが込み上げた。
(返してよ……彼を……返して……
返せっ…返せっ!!!)
レイシャは顔を突っ伏し、握る髪は今にも毟られそうだ。
怒りに震え、ただただ涙を零した。
その背中にヘンリーが手を乗せると、相変わらずの目と顔をしたまま、言った。
「あーー…おまえ……さいこーだなぁ!
……はっはっはっ……」
最後にまた小さく笑うと、その場は静まった。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




