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[9]          1410.



#07. Cracking 処分 [9]






 日中に初めて顔を見た日。

2人はたった一度、短時間だがゆっくり会話をした。

そこでレイシャが零した遺体保持技術を、ヘンリーは記憶していた。

殺害を機に調べ抜き、簡易的ではあるが、実行可能な設備を整えた。






 レイシャは黙々と手を動かしながら、考えていた。

知識だけで未経験の彼が、全ての作業を1人でするつもりだった。

だとすれば実に非現実的で、成功確率も低いだろう。

彼ならばそのくらい、予想はついていた筈ではないか。

憎い対象故に殺害に至ったのだろう。

ならば、別にどうなってもよかったという事なのか。




 一瞬手が止まり、横目で彼を見る。

そこに置いていたラップトップで、かなりの速度でタイピングをしている。

目を凝らすと、コードの流れが見えた。

彼女はふと、ゼロの存在を思い出し、現状とその記憶を合わせる。

この女性を起こした先に、何があるのだろうか。

自分達の行いを他所に、レイシャは端で眠るレアールを見る。






「…綺麗に……強く……

心も…体も………私達の役に…立てたら…」






 そう小さく囁いた時だった。

その声に気づいてという訳ではないが、ふとヘンリーが処置中のシャルに鋭利な目を向ける。




「…………は…?」




レイシャは振り向いた。

彼の目は次第に見開いていくと、急に立ち上がり、遺体に接近する。




 慎重に抜かれていく血液と残存物。

その為に切開された体。

瞬きせず舐め回すように目だけで観察する彼に、彼女はつい、施術を誤っているのかと戸惑う。





「…は……ははっ…!」



「……ヘンリー?」



レイシャは眉を顰め、疑う。



「ははっ…ははははははははははははっ!」



「ヘンリー!?」




声を掛けるや否や、彼は笑い崩れ、台の真下に腰を抜かして爆笑し続けた。




「だっはっはっはっはっはっ!!!!」




テトロドトキシンに目が逝く光景も最高だったというのに、切られた(なり)も大したものだ。

実に間抜けである絵面に、左手で目を覆い、もう片方は腹を抱える。

引き笑いも混ざり、どこか過呼吸のようにも感じるそれに、レイシャは忽ち手袋とガウンを脱いだ。




「ヘンリーもう止めて!笑わないで!

笑わなくていいのよ!」



「かっはっはっ…はっ…

はっはははははははははははははは!!!!」




しかし、彼も自ら笑いを止めようとするような瞬間もあった。

だがコントロールが利かないのか。

爆笑する声はどこか子どものようで、室内に大きく轟く。

レイシャは恐怖し、泣きながら必死に正気を取り戻させようと、名前を呼び続けた。




「ねぇ!こっち見て!しっかりして!もういいのよ!

そんな風にならなくていい!ならないで!

帰ってきて!」




「たっはっ…!はっ……はははっ…ははははっ…

はっ……はっ…はっ……あーーーあ……っ……」




レイシャは堪らず、彼を抱き寄せていた。

やっと治まったかと体を離し、顔を覗き込む。






 彼は目を泳がせながら、息を荒げている。

表情はまだ、薄っすら笑みを浮かべていた。

そこへ、やっと彼女を捉えて首を傾げる。

涙の理由が、よく分からないようだ。




「あ…れ…?……な…ん…で……?

…な…い…て…ん…の……?」




喉が締めつけられる。

酷い豹変に、怒りが込み上げた。




(返してよ……彼を……返して……

返せっ…返せっ!!!)




レイシャは顔を突っ伏し、握る髪は今にも毟られそうだ。






 怒りに震え、ただただ涙を零した。

その背中にヘンリーが手を乗せると、相変わらずの目と顔をしたまま、言った。




「あーー…おまえ……さいこーだなぁ!

……はっはっはっ……」




最後にまた小さく笑うと、その場は静まった。









SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~


初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。


2024年 次回連載作発表予定。

活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。

気が向きましたら、是非。




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