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研究所の大移動が済み、多忙は落ち着いた。
そして、シャルに相談した孫の世話について、本格的に話が進む日がくる。
頃合いを見て、家に来てもらいたいとアルフが誘った数日後、彼女は初日から沢山驚かされた。
2階建ての立派な家。
黒い鉄柵がベージュの石柱に挟まれ、敷地を囲っていた。
青い芝生は、陽光と風を受けながら美しく靡き、音を立てている。
焦げ茶色の煉瓦造りに、黒い三角屋根。
後方には数本の木が生い茂っている。
数箇所に設けられた、黒縁を光らせる広い出窓も含め、全体から高級感とシックな様子を漂わせていた。
そこからは、小さな子どもが出入りする事を一切想像させない。
孫はもう、シッターと帰宅していた。
小さな体をソファーに埋め、更にクッションを抱え、姿が完全に隠れている。
だが、爆笑だけが聞こえてきた。
その時間に放送されるコメディアニメーションが、非常に好きなのだ。
訪れた2人に、小さな彼は一切気づいていない。
「あら!お帰りでしたか。ごめんなさい、洗濯を」
庭から現れたシッターが、大量の洗濯物を抱えて入室する。
その声に、爆笑していた孫がやっと気づいた。
「あ!じいちゃ……だれそれ」
彼はオリーブドラブの目を丸く見開いている。
高くて可愛らしい声に、2人は微笑んだ。
「こんにちは、だ。会社の大事な人だよ、ジェレク」
「ふーん。こんにちは」
言われるがままをなぞる言い方もまた、胸を擽るものがある。
全くと言っていい程、子どもとの接点を持った経験が無いシャル。
この場は異世界のように感じていた。
「今お茶を」
「ありがとう」
シッターが手慣れた様子でキッチンに立つと、2人はテーブルにつく。
ソファーにいるジェレクはテレビをそっちのけに、シャルの横顔に釘付けだ。
「兄ちゃんは?」
「うえ。あ、ううん。そと」
何も言われずともソファーから飛び降り、彼は庭へ姿を消す。
2人は殆ど別行動をするが、時にやりたい事が一致すると、声を上げて仲良く遊ぶ。
しかし、兄には少々家族を悩ませる不思議な面があった。
「と言うと?」
「まぁ、会えば分かる。
……言って、子どもだ。一時の事。
そう深く考える事はない」
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続き、お楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




