プロローグ
暖かい日差しが窓から差し込んでくる馬車の中で、私は家族と共にガタゴトと揺られています。
「ハンス兄さま、何かお話してください!」
「いいよ。どんな話がいい?」
私が兄さまにお願いすると、笑顔で応えてくれました。
「そうですねぇ……。この国が建国した頃のお話が聞きたいです!」
「かなり難しい話だね。じゃあ……」
「ちょっと待った!」
兄さまが語ろうとしたのと同時に、横から口を挟まれました。
「ティア、それは俺の方が知っていると思うぞ?」
「嫌です。父さまに聞いたら自分の話しかしないじゃないですか」
「ひどいっ!」
ティアと呼ばれた少女———私、クラウディア・ハンデンブルクは、父さまに冷たく言い返してあげました。
「続きを話すね」
父さまが「娘が反抗期だよぉ……」と嘆くのを完全に無視し、兄さまが口を開きました。
兄さまが話してくれたのは、こんなお話。
この国・バックスホーフ王国が建国したのと同時に、4つの公爵家が創られました。
それぞれアルムガルト、ベーレンドルフ、ブリューゲル、そしてハンデンブルクという名です。
この公爵家の方々は皆、精霊または神と契約を結んでいたのですが、何故かハンデンブルク家だけはどの代も契約できる者が現れませんでした。
そのため、他の公爵家や貴族は「落ちこぼれ」だとか「優秀な他の公爵家の残りかす」と口を揃えて馬鹿にしていました。
しかし、ついに18年前に契約に成功した者が現れたのです。その人物は、なんと大聖女でした。
それも千年に一度現れるか現れないかと言われる神との契約者です。その上、神とはこの世で一番偉いとされる創造神ということですから、これには国が、全世界が大騒ぎになりました。
どこもかしこも大聖女を欲し、他の公爵家は妬み恨みを持ち命を狙ってくるようになりました。
それに嘆き悲しんだ彼女は病に倒れ、怒った創造神は大聖女を神の世界に連れ去ってしまいました。
そして、バックスホーフ王国は大飢饉に見舞われ、ハンデンブルク家以外の公爵家は誰も精霊と契約できなくなったそうです。
それは現在までも続き、人々は神の怒りが収まるときを待ち望んでいる……。
「それって、一方的に人間が悪くないですか?」
私の冷静なツッコミに、兄さまが「だよねぇ」と笑って返しました。
「これで神と精霊が人間に怒ってる理由がわかったでしょ?」
「はい。ついでに人間の欲深さも思い知りました」
「ちょっとハンス。ティアちゃんはまだそんなこと知らなくて良いのよ!」
私の向かいに父さまと座っている母さまが兄さまにそう言いました。
「母上、ご自分のことを話されて照れているわけではありませんよね?」
兄さまが揶揄うようにそう言うと、母さまが顔を真っ赤にして「違うわよ! ティアちゃんが心配なだけよ!」と叫びます。
そう、今兄さまが話された話は、父さまと母さまの話だったのです。
「そもそも、私は悲しんで倒れたから連れていかれたのではないわ! レイが勝手に怒って勝手に連れ浚ったのよ!」
「おい、リア! それは内緒だって約束したじゃないか!」
私の父は創造神フレイ。
母はその契約者で大聖女でもある、ハンデンブルク公爵家の嫡女、リスティア・ハンデンブルク。
ふたりは契約者同士であり夫婦であり、私と兄達の親でもあるのです。
「あっ。そういえば、オスカー兄さまはどこへ行かれたんですか?」
「ああ、あいつか。あいつは今魔獣と戯れているよ。たまには遊んでやらないと、人間に危害が及ぶらしい」
「わぁ……。魔王は大変ですね……」
「大丈夫。ティアに何かするなら、俺が殺すから」
そう言って微笑む長男のハンス兄さまは勇者。双子の弟である次男のオスカー兄さまは魔王です。
つまりですが、私の父は神、母はその契約者にして大聖女、双子の兄達は勇者と魔王ということになります。
そして、こんなチート家族に産まれた私もまたチート、なんと『女神』として生を受けたのです。
ここまで話が長くなってしまいましたが、まだ私達家族には秘密があるのです。
それは―――
「あら、ついたわね。相変わらずすごいお城ねぇ」
「あぁ、日本では絶対に家としては使われないだろうな」
「そもそもこんな建物自体なかったですしね、日本」
「はぁ〜、死ぬ前に一度でもいいから、皆で家族旅行に行きたかったわね〜」
あ、先に両親と兄さまがバラしてしまったようですね……。
そう、私達家族は転生者、それも前世でも家族だった超仲良しファミリーだったのです!