この四姉妹強すぎる
なんだろう。この疎外感……。
四姉妹は女同士のお話に夢中だった。
それも、長年一緒にいるであろう姉妹とだから盛り上がること数十分。
ずっと俺っち、放置されてる……。
「前の総統閣下よりも真面目そうでいいじゃない。ミチル、きっと今までよりも楽に世界を手に出来るわねぇ。おめでとう」
「いいなー。ミチル姉さん。総統閣下の直属の部下なんて」
「大したことじゃないわ。私はこういうきらびやかな世界が似合わなかっただけ。姉さんや、りくやメーテルみたいに人の心を見透かしたかのような手練手管を持ってるわけじゃないし」
おい、手練手管とか言い出したぞ。
俺っちがいるの、わからないのかなぁ?
男が聞いたらまずぎょっとするね。
騙されてたのかって。
「あ、総統閣下、手練手管と言ってもえっちなこととかじゃありませんから」
そうなんだ。なんだかほっとした。
でも、今度はメーテルちゃんが少し申し訳なさそうにこう言う。
「ミチル姉さん、私より、儲けがあったでしょう……。よかったのは、その頭の良さと、機転が利くこと。私は、気遣いが足りないから、クレーム、よく貰う……」
「メーテル……!」
あやめさんがメーテルちゃんをぎゅっと抱きしめる。
見てて癒されるなー。のんびり系と癒し系のって……。
「メーテルちゃんが息出来ないって! あやめさん!」
そう。メーテルちゃんはあやめさんの胸に顔を埋めていて、つまり、窒息……っ!?
「えー? あらぁ、ごめんなさいね。メーテル。うふふ」
上品さを失わないのはいいけれど、メートルちゃん、生きてるか……?
俺っち、心配。
「……あやめ姉さん、いつも抱きしめてくれる。息が苦しいけど、でも、嫌いじゃない」
メーテルちゃんはなんだか満足そうだ。
それならそれで、いいんだけれども……。
「おー! いいないいなー! 私も総統閣下と仲良くなろうーっと!」
え? まさか……!
そう思った時には遅かった。
徐々にりくちゃんの胸が迫って来て、ぽよよんとした感触が顔にあって、息が出来なくなった。
行き場のない手は空中を漂っている。
「総統閣下♪ 総統閣下♪」
ぎゅっぎゅと抱きしめられて、天国と地獄が近づいてくる。
意識が遠退きそうだ。
「は、離して……っ!」
「あはは! 可愛いー! この総統閣下! もっとぎゅーぎゅーしようか?」
「りく、そろそろやめてあげて。総統閣下が死んでしまったら総統閣下不在という恐ろしい『休暇の日々』が出来てしまうのよ」
ミチルのそんな声が聞こえた。
「あ、そっか! はい! 総統閣下! 最後にちゅーでもする?」
そう言いながら解放される。
俺っちは別にちゅーなんて欲しくないと思って顔を上げると、ちゅーをされる。りくちゃんだ。
えー、えー、えー……っ!
俺っちの、ファースト、キス……っ!
「俺っちの、ファーストキス……」
思わずそう呟くと、りくちゃんはとても明るい元気な笑顔で、「奪ってあげたよ♡」と言ってくれた。
そうじゃない!俺っち今年で三十路だけど、今まで一度も!
「俺っち的にはファーストキスっていうのは人生において大事なもので、そう簡単にしたりされたりって言うのはよくなくて、俺っちにも理想のシチュエーションがあって、それらを壊されたら素直に喜べないと言うか……」
「聞いていた通り」
「立派な!」
「演説力……」
ミチルは三人の姉妹が和やかに微笑んでいるのを見て、うんうんと頷いている。
だから、これは演説なんかじゃないんだって!
俺っちの言いたいことを理解してくれよ!
そう思ったものの、この姉妹達、話が盛り上がって俺っちのことを全然気にしてねえ!
「総統閣下、それではここであなた様の勇姿を見させてください。さあ、一言シャンパンと」
「シャンパン! シャンパン!」
「私も飲みたいわぁ」
「私、シャンパン初めて……」
まあ、そのくらいなら……。
俺っちの財布が痛いわけじゃないし。
あ、でも一応聞いとこう。
「あの、これって……」
「前総統閣下のポケットマネーから出ますからご安心を」
俺っちはそれを聞いてほっとした。
そして滅多に出さない大声でこう言うのだった。
「シャンペーン!」
……なんかどじった。
それに声も裏返ったし、格好いいとは言えないな……。
なんだか、恥ずかしっ!
「総統閣下様がシャンペンをお求めだ! 店中のシャンペンを集めろ!」
ミチルが仕切り出した。
黒服? とか言うやつもミチルの言いなりだった。
もしかして、ミチルって、かなり偉いのか?
ミチルはあっちだこっちだと指揮するためにソファーの上に靴を履いたまま立っていた。
って、ソファーの上で靴はやめた方が良いっしょ! さすがに!
お行儀悪いって。
そう思ってじっと見ていたら、ミチルは恥ずかしそうにして靴を脱いでソファーの上に正座になった。
いや、違うって。合ってるけど。合ってるけど!
そして運ばれるシャンペンの山……。
と言うかさ、誰か言ってよ。
シャンペンじゃなくてシャンパンでしょって。
訂正されるのも恥ずかしいけど、合わせてくれるのも恥ずかしいって。
「お待たせしましたー」
そうこうしてる内に、グラスのタワーが目の前に出来上がっていた。
「新たな総統閣下にシャンペンタワーを!」
「心よりっ!」
「感謝の気持ちをっ!」
「あなたが悪の総統様!」
「いっぱい飲んで!」
「総統様!」
なんかよくわからないけれど、シャンパンコール的なのをされているようだ。
店中がクラブっぽくライトアップされる。
そしていろんな色のライトで俺っちが当たると、ようやくシャンパンが注がれる。
「総統閣下に、栄光あれー!」
四姉妹からのその声で、俺っちはお酒を飲むのだった。
どうでもいいかもしれないけれど、シャンパンを飲んだその時に思った。
シャンパンって、あまり美味しいものじゃないんだなって……。
はじめてのシャンパン悲しいほど苦かった。




