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俺っちが総統閣下?

軍服を着なければ、外に出させてくれないと言う。


「仕方がない、かぁ……。」


軍服を着て、鏡の前に立つ。

そんなに、似合わない。


ってか、似合ってない。


そうだ。絶っっっ対そうだ!


ニートには似合わない大層なものなんだ!


それが、軍服!


そう思って絶望していると、例の少女がドアを開けてこちらに歩み寄って来る。


「イケてます。最高です。総統閣下」


パチパチパチ、なんて手を叩きながら。


「いや、それ絶対嘘っしょ!」


「大丈夫、大丈夫。カリスマとかは後から付いてくるから」


「俺っちは総統になんかなりたく……って、そういえば君誰?」


「今更? ……そうね。私はミチル。総統閣下にお仕えすることが私の使命です」


随分と綺麗な子だと、俺っちは思った。


実際、そうなんだろうし。


「それで、総統閣下」とミチルが口を開く。


俺っちはすぐさま「その総統閣下って呼ぶのやめてほしい。俺っちは総統閣下になるつもりなんてこれっぽっちもないし、服を着たのはこれを着ないとここから出してくれないって言うから仕方なく代償として受け入れただけであって、この今の変な事態とその事態を作り出した本人を俺っちは拒絶します。これ人権侵害だからね。職業選べないとかマジいつの時代って感じだから。俺っちのことは放っておいてください。ってか元の世界に戻せ。俺っちはまだオークションで手に入れたいものとかもいっぱいあったし、やらなきゃならないゲームだって山のようにあったし、フィギュア作ることもその内したいなーって思ってたからこの機会にやることにするし、とりあえず……総統やめさせて?」という言葉を発射する


「素晴らしい! そのような力の入った演説、総統閣下から聞けるとは……。今までの総統閣下からは聞けなかったものです」


ミチルという子は拍手をめちゃくちゃしてくれる。


俺っちはただ、自分が思っていることを正直に力説しただけなんだけどなぁ。


なんか、照れくさいな……。


「総統閣下! その演説力を使って、我々にご命令を!」


「演説力って何だよー……。俺っち命令なんて出来ないし」


「ただ一言、『世界は我が手に」と、それだけ。大丈夫。皆気づきません。総統閣下が代わったことなど。これまでもそうでしたから、安心してください。尚、失敗したら、どうなるか……。想像したら、楽・し・い・よ・ね?」


ミチルのその瞳の奥に闇色に光る炎のようなものが見えた気がした。


ってか、失敗した場合が恐ろしすぎるんだけど!


「待って待って、俺っち無理矢理連れて来られたんだけど! 俺っちは何も悪くないのに! 俺っちだって助けてほしいよ! どうしたらいいかわからないんだってば!」


「でーすーかーらー、言ってるじゃないですかぁ。『世界は我が手に』と、それだけを言えばいいんですよ。それにあなたが悪くないというのは、本当でしょうか?」


悪くない、はずだけど?


そう思ったんだけど、なんで?


「虫一匹殺すことのない世界で生きてきましたか? 人間同士のいざこざで蹴落としてきた人がいるのでは? 黙って大人しくしていようと、いじめに加担しないつもりで見ているという加害者でいたことは? 肉も魚も食べずに生きてきましたか? 彼らは、今のあなた以上に、何も悪くないんですよ?」


……俺っちは唇を噛んだ。


悔しいけれど、その通りだ。


犠牲あっての、人間関係。

だからこそ、俺っちはニートになった。


ニートになれば、隔離した世界にいられる。


それは何よりも安心出来るものだ。


「あいつさぁ、頭いいけど、馬鹿だよなぁ――」


……なんだか、そんなノイズが聞こえた。


そんな声は、大人になっていくと、どんどん増えていく。


「勉強が出来ても指示待ち人間じゃあなぁ」


何度言われただろう。その言葉。


そして俺っちは、親のスネカジリでいられる、ニートになった。


親とも、滅多なことでは接触しない。


親からしたら、俺っちは寄生虫。そして、得体の知れない「息子」だった。


俺っちのことを理解しようとも思わない。


そりゃそうだ。


あんなエリートな腐った両親に、俺っちの気持ちがわかるはずがない。


でも、それでも「好き」とか「I(愛)」を求めてしまうのは、心が俺っちにも、少しは残っている証拠だったんだろうな……。


「総統閣下、その気持ちを、皆にぶつけるのです」


ミチルがそう言って、俺っちの手に、自分の手を重ねてきた。


「今、何を思われているかはわかりませんが、でも、あまりいいものではないのでしょう? そういうのは、私達、見つけるのがとても得意なんです」


「……俺っち、悪の総統なんて出来ないし。つーか、それが当たり前っしょ。俺っちに期待するの、やめてよ」



――どうせ、出来ないんだから。



「さすがです! 総統閣下!」


パチパチパチと拍手の音。


俺っちは目をぱちぱちと瞬きした。


「その緩急の付け方、感服致しました! さあ、ご一緒に練習致しましょう! 世界をー!?」


「わ、我が手にー……?」


これで俺っち合ってる?


なんか、凄く恥ずかしっ!


「そうです。今度は全て言ってみてください。せーの!」


「世界を、我が手に」


「素晴らしいです! 総統閣下!」


本当……?


俺っち、調子に乗ってもいい?


「さあ、早速、ご存分に披露なさってください!」


気づけば俺っちは――。


「世界を我が手に!」


悪の総統になっていた。


聞こえる大歓声、どきどきとした鼓動の音。

緊張感が、何もかもが、これまでの人生と違う人生を歩むのだと、教えてくれた。


悪の総統も、意外と悪くないかもしれない……!

俺っちは、そう思いながら、部屋に戻ると、緊張のあまり倒れた。


頭から。


遠退いていく意識、ふかふか(多分ベッド)のところに移されて、頭の打ったところを冷やされる。


俺っち、こんなので大丈夫かな……。

やっていけるといいな。

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