動き出した世界
ミチルがなんだか突然一人で話し出した。
超シュール。
多分、電話みたいなやつ?
さっきから総統閣下って言葉が多い。
絶対あの総統閣下と話してるでしょ。
「はあ、もうお決めになられたのですか? 休暇はいいのですか? 働くの嫌がって途中でやめて、数百年放置した結果、同族争いで人間が絶滅して怒った総統閣下がやっと重い腰を上げて世界を潰したこともありましたよね」
何、その理不尽さ!
ってか随分とテキトーだな!
俺っち以上じゃん!
「……わかりました。ではこちらのことはお任せください。こちらの総統閣下をしてくれている人間にも少し手助けをしてもらいながら進めます」
俺っちを巻き込まないでー!
そう思っていると、通話? を終わらせたミチルは大きな溜め息をついて俺っちにこう言った。
「総統閣下、お仕事です。それも極めて重要なお仕事です。サポートは全力でします。頑張ってください」
「お、おー……?」
何を頑張るって言うのさ!
「まずはこれでこう言ってください」
ミチルはそう言いながら拡声器を持ってきた。
「世界は我が手に落ちようとしている。しかし不要な人間が多すぎる。我こそはという者はその悪の力を以てして、ゴミ共を掃討せよ。……そう言ってください」
長っ! つーか、それって、つまり……。
「俺っちが人間滅ぼす合図送るわけ!?」
「そうです」
「俺っち人間だよ!」
「皆からは総統閣下にしか見えませんし、そう思っているので問題はありません」
「いやさ、倫理的にとか……人の心がってことなんだけど……」
「それ、気にしてたら」
「――あなた、死にますよ? 相沢誠」
ミチルはさも簡単にそう告げてくれた。
って俺っち死んじゃうの!?
断ったらダメってこと!?
「あなたは、人間にしてはよくやってくれました。悪の士気を高め、悪への憧れを増してくれましたから。普通の人間では、そこまで出来ませんよ。あなたはどこかゲーム感覚だったみたいですが、あの演説で、人間を堕落させる悪魔が多くなったんですよ」
そんな……。
「でも俺っち、言ったことかなりでたらめだし!」
「嘘だとかでっち上げだとか、そんなのは関係ありません。必要なのはその結果。結果がどうなるか、なんですよ」
俺っち、もしかして世界を滅ぼすために手を貸しちゃった感じ?
だとしたらさ、俺っちって本当に馬鹿だね。
本物の、馬鹿だ。
頭痛がした。すごい、頭痛が。
「もうすぐ、世界は滅亡に向かって行くでしょう。いえ、既に動き出しています。あの総統閣下が動くということは、そういうことです」
痛みを抑えるように、頭を手をかぶせる。
「俺っち、人間のために、何か出来ないかな。ねえ、何とかする方法、ない? ミチル」
ミチルは少し暗い顔をする
。
「……実は、とある情報筋によるとあなたの演説の影で、あなたの演説の効果をより高める動きが、ありました。ウルトラCと呼ばれる者達です。このウルトラCは総統閣下の手足のように動き、世界を必ず終焉へと導きます。」
「そして今回そいつらが放たれたのは貴方の世界です」
「俺っちの世界? 俺っちの」
胸を、頭をぎゅっと絞め付けてくるような痛みが襲う。
「そうです。狙われているのは、あなたの世界です」
目の前が真っ暗になった。
「ミチル、なんで聞いた時、俺っちに教えてくれなかったんだ?」
「途中で、仕事を放り投げられたら迷惑ですので」
悪党だ。ミチルが悪魔ということを忘れていた。
世界を奪われる。俺の世界を。
一気に脱力する。
「怒ってますか?」
ミチルが微笑を浮かべる。
「……」
怒りとかぜんぶがぐるぐるする。
全部ウソ?
あのすげえピンクな瞬間とかも、全て。
「怒ってそうですね。」
彼女の笑みが口元を飾る。
「……怒るに決まってんだろ!」
ミチルの側に行き、いつもムカつくほどに似合っている彼女の軍服の胸倉を掴む。
「ならその怒りでちょっと世界超えて頂きましょうか? 総統閣下」
「どういう意味だ」
ミチルから手を離す。
「その怒りで全てのものを捨てられますか?」
「だから、どういう!」
「あなた、世界を救う気はありますか?」
「!?」
今度は救う気はあるかってなんだ。
俺っちに今度は何を
「俺っちをからかってるのか。強くないし、ニートで童貞だぞ……!」
「そんなの関係ありません。それに私は言ったはずですよ。全力でサポートをすると。それは、総統閣下の仕事だけではありません。人間としてのあなたのサポートもするということです」
ミチルは、真剣な眼をしている。
「……」
ミチルは、本当は何がしたいの?
あいつ側? でも人間側の悪魔といっていたし。
「今、選んでください。総統閣下を騙った人間として惨い殺され方をするか、世界を救うために立ち上がって世界を渡って総統閣下と戦うか」
待って。騙った人間? 俺っちを呼んだのは、あいつじゃね?
そんな理由で殺されるの、俺っち。
総統も悪魔も、魔法とか使えるよね。ミチルと同じく。
……無理ゲーじゃん。
ひざが少しがくつく。先程の怒りより恐怖が勝った。
「勝てる見込みがない。俺っちには出来ない……」
「何故? 貴方は他の人間と違う。メーテルの預言でも」
微笑が一瞬、崩れた気がした。
「預言?」
何の話だ。
……また頭痛みたいなのがしてくる。
「とにかく世界を渡ってもらう。あなたには」
「意味がわからない!ミチルは強引だ!」
止まない頭痛に、頭を手で抑える。
きっと頭痛はこんなことでは止まない。
そして前から思っていたことを口に出す。
「……俺っちを、また騙すつもりなんじゃないの?」
絶対そうだ!
でも、そう思ったのは一瞬だけ。
もう最後の希望だとでも言いたそうな、今にも泣きそうな表情でいるミチルをみた時、頭痛が引いた。
美しい涙だった。ウソじゃない、さっきみたいな笑みじゃない。張り付いてない。
悪魔じゃない。悪党の笑みじゃない。
「助けてって素直に言えない子もいるんだぜ」そんな誰かの言葉も頭にながれていく。
本当は、彼女は……。
「ごめん。ミチル、俺っち女の子のことほんとわからなくて。事情はわからないけど、俺っち、世界を救えるもんなら救うよ! 所謂救世主ってやつになる!」
ただの意地なのか。違うのか。わからなかった。
自然と出た。そんな言葉の数々が。
ミチルが、ほっとしたような表情を一瞬見せる。
「では、総統として最後の仕事をしてもらいますね。」
俺っちの口から「ああ!」という言葉が出た。




