ストーリーテラーの預言
「近い内、偽りの悪の王は世界を渡る。真実を知り、彼は絶望にうちひしがれるだろう。迎える終末、世界は幾度目かの死と生を得る。千の悲鳴がこだまし、千の闇にしずむだろう。しかし偽りの王が鍵を手にし時全てが闇から解放される」
メーテルはそれを言うとふっと目を閉じると、少しだけ揺れて、目を開けた。
そして今度はミチルに自分の思ったことを口にする。
「今の総統閣下は、すごく大きな存在になるかも。メーテル、そう感じた。ミチル姉さんも、何か感じるんじゃ……?」
ミチルは少し考えるとふーっと息を吐いてこう答える。
「まあ、確かに不思議な感じはする。でも、私あんな年齢=童貞みたいな人間と関わり合いになるような世界の渡り歩きなんてしてないわ」
「そうだよねー! ミチル姉さん、あいつの童貞食っちゃうことなんかまずしないもんねー! 考えられないからね! でもそんな童貞が本当に世界を、救えるわけ?」
りくがそう言ってミチルとよく似た冷たい視線でミチルを見た。
「私に聞かれても……。ただ、演説というか力説は間違いなく今までの中でピカ一」
誠のことをそう言うミチルに、あやめは頷いた。それから思い出すように口にする。
「あ、このお店の子が酷く感動しているのを総統閣下を監視しながらちょっと遠いところから覗いて知ったわぁ。ひょっとしたら、ひょっとするんじゃないかしら」
あやめは魔法でビールを取り出してピッチャーで飲み始めた。
「姉さん……飲みすぎ、だよ……」
メーテルはそう言ってあやめを心配する。
「あーら、大丈夫よー。ヤマタノオロチをやっていた時ほど、きついお酒なんてないものー」
和やかに微笑んだあやめ。
しかし、周りからの視線は冷たい。
「……」
「な、なぁに? 皆、私をじっと見つめて……」
あやめはちょっとだけ困りながら言った。
「姉さんって、神話時代からいるんだなぁって、りくは姉さんの年齢が」
年齢が知りたい、と言おうとしたりくにあやめをその上に言葉を重ねる。
「そんなの決まってるじゃない。私達は年齢なんてあってないようなもの。永遠の24歳よ」
24歳と言い張るあやめ。
三人は嘘だとしか思わない。
「……」
あやめはそれでも自分の主張を通そうとする。
「24歳よ。それ以上でもそれ以下でもないわ。私は24歳。しわたるみ目の下のくすみシミなんてものは、全部ないの。人間だった頃によく言われたわ。あなたってなんてゆで卵みたいなお顔なのって。そりゃそうよ。私は成人する頃には転生前の記憶が蘇るようにして、力もある程度使えるようにしてあったんだもの。身体の寿命は延ばせなくても見た目の時間を止めておくくらいは出来たわ。そうしたら魔女って言われて裁判に……」
「あやめ姉さん……、誰もそこまで言ってない。それに、メーテル思う」
メーテルは優しい眼差しをあやめに送る。
「?」
「姉さんは、ヤマタノオロチだろうが魔女だろうが、どの世界の中でも一番綺麗」
「メーテルー!」
あやめはメーテルの言葉に感激してメーテルに抱き着く。
「ミチル姉さんは世界一厳しいようで、一番優しい」
「……メーテルっ」
ミチルもメーテルに抱き着いた。
「りく姉さんは、食いしん坊」
思わずりくは叫ぶ。
「私だけなんか違うっ!」
「冗談。りく姉さんはいつも陰で、ウイルスの研究とか必死になってやってる頑張り屋さん」
「メーテルぅ!」
りくもメーテルに抱き着いた。
メーテルは苦しさもあったが、四姉妹としての温かさを感じられて、幸せな気持ちになった。
四姉妹はそんな風に互いを褒め合いながら、多少の情報交換などもした。
その結果、この世界の各地から、今の総統を支持する動きが見られるということだった。
「支持される総統閣下か……。本人からしたらただ力説してるだけ、らしいんだけれど、どうにも影響力がある話し方をするのよ」
ミチルがそう言いながらアイスコーヒーを飲む。
コーヒーに映るミチルの顔は、いつもの感情が読みにくい顔だった。
「でも、童貞なんでしょ?」
りくがそう言うと続けてメーテルがこう言う。
「童貞って30歳まで守ったら妖精さんになれるって、メーテル聞いたんだけど、今の総統閣下、妖精さん?」
「りくもメーテルも、そんな童貞童貞言わないの。今の総統閣下が可哀想でしょ」
あやめはそんなことを笑顔と共に言い放つ。
「あやめ姉さん、あなたも案外童貞童貞言ってるわ……」
ミチルは言いながら頭を抱えた。
「とにかく、ミチルはもう少し今の総統閣下の様子を見ていて頂戴。再び世界が滅ばないように、よく、目を見張っていて。再び、って言い方も、なんだか変な感じがするけれど。でも、なんでかしら。この懐かしさ……」
あやめは今まで存在していた中で出会ったことのないはずの誠に懐かしさを感じていた。
「メーテルも、ちょっと不思議に思ってる。あの総統閣下には、何度か会っている気がする」
メーテルも同じ気持ちのようだ。
「そう言われてみれば、どこか他人じゃないような気もするし、初めましての時から既に知ってるような……」
りくも不思議そうに頭を傾げる。
「いやいや、そんなことはないわ。私達は今の総統閣下とはついこの前初めて会ったのよ」
ミチルはまさか自分もと思っていたが、やはり他の姉妹達と同じで懐かしさを感じていた。
「――!」
メーテルが、体をソファーに預けて口を開く。
「何度でも。何度でも。何度でも。この声が届いたら、どうか未来を救ってやってほしい。魔の王からのお願いだ。このままでは、いつものように」
「預言……!? でも一日に二回もなんて、そんなこと、今までなかったのに!」
ミチルが慌てた様子を見せる。
「世界を渡り歩く旅人達、今の偽りの悪の王を大事にするといい。だが、救われるかどうかは保障しない。……今に、偽りの悪の王が戦うことになる。たとえ一人になったとしても、何度だって」
あやめは不思議そうに呟く。
「なんだろう……? 転生のことかしら……」
「いつかは、救えるように――」
メーテルはそれだけ言うと、ソファーで横になる。
「メーテル!」
ミチルが駆け寄ると、メーテルはぱちぱちと瞬きをして、起き上がって座り直す。
「二度目の預言……というより、今のは何か、連絡みたいな感じがした。思念が飛んできて、私の口を借りて出てきたような、そんな感じ……」
少し疲れた様子のメーテルはそれだけ言うと溜め息をついた。。
「こんなこと、今までだってなかったのに。どうしたのかしら」
あやめはそう言いながら、メーテルに回復魔法をかけていた。
「わからない。ただ、今の総統閣下は、何かしてくれる。きっと、そういうことだと思う」
そしてしばらくすると、女子会は終わり、それぞれが行くべき場所へと散っていった。




