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アート艦長との昼食

食堂で、アートとレイが食事をとっていた。

「よっ、アート艦長」

と、ヴァレリーが声をかけた。

「アート少尉、艦長代行じゃなくて、艦長になったんですね」

「本国に活躍が認められたってわけだな。

曲がりなりにも、どうにかこうにか修羅場を切り抜けてきたんだから当然と言えば、当然だが。

しかも、アートは少尉でもなくなったんだよ、これが」

ヴァレリーは嬉しそうに言った。

「どういうことですか?」

「艦長になるのは、普通大佐だからな。

本国では、佐でないといかんということになったのさ。

今度から、少佐さ。」

「それは、すごいですね」

「すごいなんてもんじゃねえよ。

例外中の例外で、おそらく後にも先にも無いことだろうな」

ようやく、そこで、アートが口を開く。

「少佐とは言っても、準少佐という新しい階級だ。

いわば見なし少佐で、待遇は今までとほとんど変わらん」

「細かいことはいいじゃねえか、アート。素直に喜べよ」

ヴァレリーは暑苦しく、アートと肩を組む。

カチャカチャと、アートの腰に下げられたものが音を鳴らす。

レイは、その細長いものが気になった。

「その腰に下げているのって何なんですか?」

「これか?軍刀だよ。

士官になったら、下げることを許可される代物だ」

「実用性あるんですか?」

「実用性がない物の方が多いが、私のは実際に使えるぞ」

軍刀を鞘から抜く。

アートの軍刀には鈴がつけられていて、抜くときに、チリンという音がする。

刃は美しい銀色で、文様が出ていた。

アートは、軍刀のつかをレイモンドに見せる。

つかには、小さなスライド式のスイッチがあった。

「このスイッチを入れると、刃が高温になる。

実を言うと、私は血が苦手なんだ。

万が一、これで人を切る羽目になっても、傷口が焼けて、血が出ないから、私でも大丈夫というわけだ」

「血が苦手なのに、軍人をやっているんですか?」

「血が苦手だと兵卒は難しいだろうが、士官なら大きな問題じゃないだろう。

むしろ、血を見るのが少し嫌いな方が士官には向いているかもしれないだろ。

兵を無駄に死なせないためにな」

そう言いながら、アートは、鞘に刃をしまった。

「戦争って何なんでしょうね」

そのレイの問いかけに、アートは少し考えるそぶりをした。

「さあな。ただ、一つ面白い話をしよう。

ヨーロッパでは、古代から中世にかけて決闘裁判というものがしばしば行われたというのを知っているか?」

「決闘裁判?聞いたことありません。

決闘による裁判ということですか?」

「そうだ。もめごとを決闘で解決する。

決闘の勝者がその裁判での勝者となるという寸法さ」

「それは、どういう理屈でそう言えるんですかね。

弱肉強食じゃないですか」

「正しい者には、神が味方する。

正しき者は必ず勝つんだ。という理屈だそうだ」

「でも、その理屈だと、正しい者が勝つのであって、勝った者が正しいことはなりませんよね」

「確かに、レイの言っていることは、まったく正しい。

逆は必ずしも真ではない。

しかし、もし、正しいから勝つのだとすれば、こうは言えるんじゃないか。

勝てなかった者は正しくなかったのだ。と」

レイは話の方向を変えた。

「何でそんなに、いろんなことを知っているんですか?」

「なぜだろうな?

そうだな。暇があったら、いろいろと本を読むと良い。

すべて電子化されて、ずいぶん安くなったもんだよ」

ヴァレリーは、ニコニコしてその様子を見ているだけで、会話に割って入ることはなかった。

レイは食事が終わると、食堂を出た。

「おう、レイ、ちょっくら付き合え」

ヴァレリーが肩を組んできた。

「何でしょうか?」

「トレーニングだよ、トレーニング」

半ば強制的にヴァレリーに連れていかれたさきは、艦内のトレーニングルームだった。

「一緒に汗を流して仲良くなろうじゃないか」

拒否する暇もなく、レイはランニングマシンに体をつながれる。

レイの隣で、ヴァレリーもさっそく走り出す。

初めて、数分で、ヴァレリーが話を切り出した。

「職業柄、すべての人間の素性を洗うんだが、ユキの身元がよく分からなくてな」

「ユキの身元がよく分からないってどういうことですか?」

「データがいじられた形跡があるようでな。

詳しく調べるはもう少し時間がいる」

「それは、どんな問題がありますか」

「問題大ありだよ。他国のスパイだったらどうすんだよ。

あり得ない話じゃないだろ。

そもそも、彼女の行動は不審すぎる。

俺が言うのもおかしいかもしれないが、この国で軍人になろうってやつは、ごく少数だ。

それなのに、彼女は迷わず、軍人になる選択肢をした。

はっきり言ってどこかおかしい。注意した方がいいぞ」

「わ、分かりました」

レイは今の情報を一生懸命、咀嚼しようとした。

そこに、予算局のジャンさんが来た。

「あ、皆さんこんにちは」

「どうも」

軽くレイは頭を下げる。

「実は、私も筋トレは趣味なんですよ。

お隣いいですかね」

ジャンは、非常に陽気で、気さくな良い人だった。

レイ、ジャン、ヴァレリーの三人の会話が弾んだ。

ジャンは、誰かがしゃべり過ぎたり、誰かがまったくしゃべらなかったりしないように上手く采配していた。

ひと汗流すと、レイは自室に戻った。

自室に置いておいたタブレット端末を確認すると、数百にわたる電子書籍がアートから送られてきていた。

「これ、全部読まなきゃダメかな?」

独りレイは顔を引きつらせた。

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