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救出?軍法会議?

シャルラーハはプルタルコスに向けて、宇宙を飛んでいた。

ジーっとノイズが入りながらもオープンチャンネルで音声が聞こえてくる。

『助けてください。船の推進装置が故障してしまったんです。

どうか助けてください』

レイモンドはどこかで聞いた声だと思った。

そうだ。キャサリン・カトーだ。

発信している船の座標を確認すると、案外近い。

とりあえず、レイモンドは状況を視認できる距離まで、シャルラーハを進めた。

すると、救命艇の窓から、ブロンズが見えた。

『救助をお願いします。

救難信号を出し続けているのですが、まだ警察と連絡が取れなくて』

ブロンズ・ブルックスは、レイモンドにとって、友人といえるほど仲が良かったといえるかどうかは怪しい。

でも、ちょくちょく自分のことを気にかけ、話しかけてくれた相手だ。

レイモンドは、ブロンズが宇宙で漂流したまま、放置するのも忍びないと思った。

「了解しました。軍艦への収容になりますが構いませんか?」

レイモンドは通信を入れる。

『ありがとうございます。

それでも構わないのでとにかく、宇宙で漂流していると思うと不安で』

「分かりました」

救命艇の返事を受けて、シャルラーハは救命艇のそばに姿を現し、救命艇を両手で抱える。

そのまま、プルタルコスに直行した。

プルタルコスのハッチは自動で開き、シャルラーハはスムーズに格納庫に着艦する。

手に持っていた救命艇を降ろした。

格納庫のハッチが閉じ、格納庫内も空気で満たされる。

シャルラーハのコックピットを開き、レイモンドは格納庫内に降り立って、救命艇を見た。

救命艇の扉が開くと、中から、ぞろぞろと、人が出てきた。

見れば、ブロンズ・ブルックス、ワニ・チャンドラー、そして、キャサリン・カトーの姿があった。

「よう、レイモンド」

ブロンズ・ブルックスが声をかけてくる。

「ブロンズ、生きてたんだな」

レイモンドは優しそうな眼をした。

「おかげさまでな。お前もよく生きてたな」

レイモンドとブロンズが言葉を交わしていたところ、アート艦長代行がやってきた。

彼は、格納庫に入って来るなり、明らかに不機嫌そうだった。

「救命艇なんぞという厄介を持ち込むとは。

拾ってきたからには仕方がない。ここで放り出すわけにもいくまい。

ただし、館内には機密事項が多すぎる。

救命艇は収容してやるが、その中で暮らせ」

アートは来るなり、そう皆に言い放った。

救命艇の人々は皆、不服そうな顔をしていたが、助けてもらっている身分で大きく出ることはできないと判断したのか、多くは救命艇内に戻っていった。

ブロンズ、ワニ、キャサリンが救命艇の代表者として残った。

アート艦長代行はレイモンドを詰問しだした。

「なぜ、救命艇を救助した?」

「し、しかし、みすみす見捨てるのは・・」

「見捨てるわけではない。我々がやるべきことではない。

不必要なだけでなく、貴様の行動は有害だったと言っているのだ」

アートの言い分が不当だと思ったレイモンドは、アートに食らいつく。

「それでも、救命艇が助けを求めていたら、助けようとするのは当然じゃないですか」

アートはますます顔をこわばらせる。

「説明しないと分からないのか。貴様は。

緊急救命艇には、十分な空気と食料があるし、救出する必要はなかった。

たとえ、船の推進装置が壊れていたとしても、そのうち、警察が来て、保護してくれるはずだった。

軍人の本務は人命救助ではない。それは警察や消防の仕事だ。

そんなことも分からんのか」

レイモンドはアートの剣幕にたじたじになった。

その空気を読まなかったのか、あえて、空気を変えようとしたのか、その様子を見て、ブロンズ・ブルックスがレイモンドとアートの会話に割って入ってくる。

「なあ、レイモンド。

ところで、何で、こんなのに乗ってるんだ?

一般民間人だと思ってたんだけど、どうしたんだよ?」

「よく分かんないけど、なんか成り行きで」

レイモンドとブロンズの会話にアートは、この上なく、驚いた顔をした。

「レイモンドが民間人だと?どういうことだ?」

ブロンズがその疑問に答える。

「正真正銘、ファウンテン大学工学部に通っていた一般人ですよ。なあ?」

ブロンズの言葉に、ワニやキャサリンもうなずく。

アートはショックを受けていた。

「私は、てっきり君が教授のボディーガードとして送り込まれた軍人だとばかり思っていた」

「確かに、僕は一般人ですよ」

レイモンドはダメ押しとばかりに、付け加えた。

「マズいな」

アートは、そう一言いうと、ロダンの考える人のように、ひたいに、こぶしを当て、深く考え込んでしまった。

ブロンズはその様子に心配になってしまい、アートに声をかける。

「レイモンドを軍法会議にでもかけるんですか?」

「軍法会議だと?

お前は今、レイモンドのことを軍人でないといっただろ。

軍人でないのなら、軍法会議にはかからんよ。

そもそも、ここには法務官がいないから、軍法会議を開けん」

「じゃあ、何だっていうんですか?」

ブロンズはじれったがって、何が問題なのか問いただす。

アートは顔を上げると、簡潔に答える。

「レイモンドが犯罪者になってしまうって話さ」

「犯罪者?」

キャサリンが驚いて、声を上げる。

アートは、たんたんと答える。

「そうだ。普通の刑事裁判になるだろう。

犯罪者として通常裁判所で裁かれることになるのさ。

今とは言わんが、そのうち、警察のお迎えが来ることになるだろうな」

「何でですか?」

「なぜって?

当り前だろう。民間人が人を殺せば人殺しだ。

それとも何か、敵国の軍人なら、殺しても良いと思っているのか?」

アートはぶぜんとして答える。

「あなたたち軍人だって、相手国の軍人を殺している。

あなたたちだって、人殺しじゃないか」

ワニ・チャンドラーが口を挟んでくる。

アート艦長代行はがっかりしたと言わんばかりに肩を落とした。

「かねてから酷いとは思っていたが、帝国臣民の軍と軍人に対する無理解もはなはだしいな。

戦時に軍人が相手国の軍人を殺すことのみが許容されているんだ。

それが戦争というものなんだよ。そうでなければただの人殺しだ」

レイモンドをどうにか擁護する。

「で、でも正当防衛なんじゃ」

レイモンドが焦って、反論しようとするが、ただちにアートはレイモンドの反論を打ち砕く。

アートは格納庫にあるギュゲスの残骸を指さす。

それは、レイモンドが撃破し、回収した機体だ。

「格納庫のあれを見ろ、ありゃ正当防衛かね。

圧倒的な機体性能の差で、敵機を破壊したんだぞ。

そのうえ、敵機の母艦である戦艦も撃破したんだ。

正当防衛における防衛っていうレベルでは決してない。

だいたい、相手を殺して正当防衛になることなんて、帝国の刑事裁判では、ごくごく例外なのだ。

そもそも、そういった申し開きはここじゃなくて、裁判所でするんだな」

アート艦長代行はつめたく言い放った。

「少し頭を整理したいし、やることが山積みだからな。

私はブリッジに戻る」

キャサリンがアートを引き留める。

「すいません、何人か持病をお持ちの方がいるので、医務室をお借りしてもいいですか?」

「仕方がない。病人はこちらのクルーで対応する。

頼むから、病人以外は救命艇の外に出ないでくれ」

アートは渋い顔をして、そういい、格納庫を後にしようとした。

思い出したかのように振り返ると、レイモンドに指示した。

「レイモンドはついてこい」

レイモンドは顔面蒼白のまま、アートに従った。

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