奇襲の試み
シャルラーハに通信が入る。
『こちら、王立軍、戦艦プルタルコスである。
至急、連絡されたし。
レイモンドは緊張がほどけて、ぼんやりしてた。
『繰り返す。
こちら、王立軍、戦艦プルタルコス。
シャルラーハを受け入れる用意がある』
二回目の放送を聞いて、ようやくレイモンドは気を取り直した。
「こちら、シャルラーハ。生きています」
『状況は?』
「ギュゲス一機を撃破しました。
しかし、ハンニバル教授が頭を打って、意識がありません」
『本当か?とにかく、了解した。
医療班を待機させておくから、早くつれてこい。
それから、できればだが、一応、ギュゲスは持って来れるか?研究用に鹵獲したい。
プルタルコスは第8ハビタットのF出口にいる。
そこまで来い」
ギュゲスは量産されているとはいえ、最新鋭機であり、共和国の技術の粋が詰まっている。
鹵獲したくなるのも当然だ。
「了解しました」
レイモンドはシャルラーハの高出力であれば、ギュゲスを曳航することは可能と判断し、ギュゲスを掴んでハビタット内部から外部に通ずる出口へと向かった。
シャルラーハが飛びたつと、レイモンドたちが通っていたファウンテン大学全体が見渡せる。
ギュゲスは何も無差別に攻撃していたわけではなかったようだ。
工学部とその周辺は壊滅的であるが、他の部分や市街地は、特に目立った被害がない。
もっとも、ひとけは、全くなかった。
皆、避難したのだろう。
まだ、ハビタット内部には空気が存在しているから、ハビタット自体に対する大きな損害は出ていないようだ。
人々が居住するためのハビタット内部には、空気が存在するが、当然、ハビタット外部の宇宙には空気が存在しない。
ハビタットの外部と内部を区切る隔壁の内部に、戦艦プルタルコスは停泊していた。
戦艦プルタルコスは帝国が開発した最新鋭の宇宙戦艦であり、シャルラーハなどのエイドスシリーズを収納するための母艦として開発された母艦であった。
そのため、プルタルコスの背部には、シャルラーハが着艦するための仕組みが施されていた。
レイモンドは、シャルラーハの搭載されたコンピュータの指示通りに着艦すればよいだけだった。
そのおかげで、滑らかに着艦した。
船内はやや混乱している様子だ。
あわただしく人が出入りしているのが見える。
看護師と医師が既に待機していた。
レイモンドは、丁寧に、ハンニバル教授を降ろした。
「どういったご容態ですか?」
とレイモンドは医師に聞かれた。
「強く、後頭部を操縦席に打ち付けたようで、そこから意識が戻りません」
「どのくらいの時間ですか?」
「正確には分かりませんが、10分は経っていると思います」
「分かりました。
かなり危険な状態かもしれません。
すぐに手術が必要な可能性がありますので」
と医師は早口で言って、ハンニバル教授は担架で運ばれていった。
軍服に身を包んだ若い将官が、その様子を見ていた。
医療班が教授を連れて行くと、彼は、順番待ちをしていたかのように、レイモンドに話しかけた。
「私は王立宇宙軍のアート・マキャヴェリ少尉だ。
君だね、ギュゲスを撃破し、教授を連れてきたのは?
よくやってくれた。
ところで、教授とはどういう関係だい?」
「レイモンド・ミノリと申します。
教授の研究室に配属される予定でした」
「なるほど、悪いが、すぐに次が来るだろう。
ここが見つかるのも時間の問題だ。
そのために、用意をしておいてくれ」
「僕がですか?」
レイモンドは驚く。
「仕方ないだろ、私だって正規の人員じゃないんだよ。
正規の配属は皆死んだ。
正規の人員が乗った船はここに到着する前に、そのギュゲスの部隊に落とされたらしい。
まったく連絡が取れん」
「そ、そうなんですか?」
レイモンドは顔を曇らせた。
「そうだ。とにかく、私以外に指揮をとれる人間はいないし、君以外にその機体を動かせる人間はいないのだよ。
今のうちに、シャルラーハの兵装を確認しておけ。
すぐに出撃できるようにな」
「わ、わかりました」
レイモンドは気おされてしまい、頷くことしかできなかった。
「私は私でまだまだやることがあるからな。
これにて失礼する」
そういうや否や、本当に忙しそうに、格納庫を出て行った。
レイモンドは仕方なく、シャルラーハに乗り込み、機体データなどを確認する。
やはり、凄まじい機動性能である。
ギュゲスとの戦闘データを見ても、圧倒的な機動性である。
プルタルコスには、シャルラーハのための装備が乗っている。
格納庫には、シャルラーハのために作られた装備が数種類用意されていた。
レイモンドは、自分でも扱えそうな武装があるかどうか、物色していたところ、戦艦プルタルコスはゆっくりと動き出した。
出港するようだ。