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反撃の夜

『何だ、あれは?全くマシンガンが効きません。ヨハン大佐、どうしますか?』

ギュゲスのパイロットが母艦に無線を入れる。

母艦のブリッジに通信が入る。

第8ハビタットの近くにギュゲスの母艦があったのだ。

「分かった。カイ少尉、私が到着するまで耐えておけ」

ヨハン大佐は静かに答え、自分の愛機に向かった。

「帝国軍め、あんなものを創りおって。指揮と情報共有は君たちに任せた。

私、直々にでるよ」

ヨハン大佐がオペレーターに声をかけると、オペレーターの一人が心配そうな顔で、ヨハン大佐に答える。

「大佐、あれに勝てますか?」

「やってみなければ、分からないというものだ。

こちらの“とっておき”も出そう」

「了解しました。すぐに手配します」

ヨハン大佐は、格納庫へと向かった。

格納庫に鎮座していたのは純白にカラーリングされたギュゲスであった。


「ふん、実弾兵器など屁でもないわ。

そもそも、このシャルラーハが量産機ごときに負ける道理はないのだよ」

ハンニバル教授は鼻で笑った。

レイモンドは素直に、すさまじく頑丈な装甲だと思った。

シャルラーハに対面するギュゲスのパイロット、カイ少尉も同じことを思っていた。

「これは、どうすればいいんですかね。

大佐が来るまでの時間稼ぎと言ったって、限界があるんだよな。

とは言っても、さぼったら、後で大佐にどやされちまうし、遅滞戦闘なら何とかなるだろ」

カイ少尉は、ぼやく。

ハンニバル教授は、多少のぎこちなさはあるものの、シャルラーハを操縦する。

教授は、機体の腰部に備え付けられていた、高振動ナイフを取り出し、シャルラーハを駆る。

「私のシャルラーハはギュゲスなぞより、ずっと速いんだよ」

シャルラーハはギュゲスの何倍もの機動性で、ギュゲスの目前まで迫る。

「何だ、こいつは?」

カイ少尉はギュゲスを巧みに操り、飛びのく。

「機体性能のわりに、動きがまるで子供じゃないか」

少尉は、いぶかしがる。

教授は、シャルラーハの機動性に満足げだった。

「まるで大人と子供の差だな。

シャルラーハと相手のギュゲスでは、戦いにもならんよ」

彼は、笑って、そういうと、回避するギュゲスの追撃を始めた。

ギュゲスのコックピット部分を狙って、ナイフを振るが、リーチが短く、なかなか当たらない。

「ええい、ちょこまか、ちょこまかと」

シャルラーハは、ナイフを袈裟にふりかかる動作を繰り返す。

執拗にその動作を繰り返すので、全く当たらない。

すべてカイ少尉に見切られてしまっていた。

「正規のパイロットではないようだな。

動きがお粗末すぎるぞ。

これなら、勝機はある」

カイ少尉はニヤリと笑った。

教授は機体性能では遥かに上なのに、勝てないことに焦りが出始めてしまった。

彼は、耐え切れず、勝負を決めにかかってしまったのだ。

「これで、終わりだ!」

ハンニバル教授は大きくとびかかると、カイ少尉はあえて避けなかった。

むしろ、大きく前進し、カイ少尉のギュゲスはシャルラーハに突進する。

「何を?」

教授は驚きの声を上げる。

シャルラーハの高振動ブレードを備えたナイフはギュゲスに直撃する。

が、それは、ギュゲスのコックピットではない。

カイ少尉のギュゲスは、角度を上手く調整して、左腕全体を使うことで、高振動ブレードを受け止めることに成功した。

ギュゲスは自分が前進したエネルギーと、シャルラーハが飛びかかってきたエネルギーを生かして、右手をシャルラーハのコックピット部分に当て、強力な衝撃を与える。

「こりゃあ、勝負あったろ」

カイ少尉は、自信ありげに言う。

コックピット部分に衝撃を食らい、シャルラーハは一旦、機能を停止した。

というのも、教授が後頭部を強く打ってしまい、気を失ってしまったのだ。

「教授、起きてください。ハンニバル教授!」

レイモンドが教授の肩を揺らす。

シャルラーハの対ショック性能の高さもあって、何とかレイモンドは気を失わずに済んだが、教授は頭をしたたか打ってしまったせいで、起きそうもない。

シャルラーハの沈黙に対して、カイ少尉は好機と思ったらしい。

「ちょっくら、この装甲がどの程度のものか、見てみましょうかね」

ギュゲスは背部から剣を取り出し、シャルラーハのコックピットにその剣先を向ける。

シャルラーハの胸部に向け、その剣を振り下ろす。

カキン、という音とともに、弾かれるが、カイ少尉は諦めない。

「どんな物だって、いつかは、壊れるもんだ。

その面を拝ませてくれよ」

そういって、さらに、カキン、カキン、という音を立てながら、シャルラーハの胸部の同じ部分をしつこく剣の最も尖った部分で攻撃する。

レイモンドは、もう一度、教授の肩を揺らすが、反応がない。

このままでは、自分は死ぬ。

そう直感したレイモンドは、自分でどうにかする決心をした。

火事場の馬鹿力みたいなもので、窮地に立った時に、人は意外にも冷静な判断が下せるのかもしれない。少なくとも、レイモンドはそれに当てはまった。

レイモンドは考えた。

素人の自分が真っ向勝負をいきなり挑んでも、プロの軍人には勝てない。

それは、教授があっさりと敗北したことからも明らかだ。

つまり、こちらも相手の裏をかくような、想定外の行動をしなければならない。

しかも、相手にこちらの意図を考える隙を与えないように、短期で決着しなければならない。

今、相手はこちらのパイロットが死亡ないし、意識不明になっていると思っているに違いない。

そのすきにつけ込むしかない。

インターフェースで事態を打開できるような兵装があるか確認する。

「これなら、いける」

レイモンドは自分の考えを実践に移すことにした。

彼は、教授を操縦席から降ろし、教授を座席の後ろに括り付けると、自分が操縦席に座る。

レイモンドは一度、瞠目し、ふーっと息を吐いてから、目を見開いた。

レバーにつけられたボタンを押しこむ。

すると、側腹部に備え付けられていた3つの砲門が開き、ミサイルがギュゲスに向けて発射される。

「おいおい、マジかよ。まだ生きてたの!?」

そう言いながらも、カイ少尉は至近距離で発射されたのにもかかわらず、後方へ身をよじるようにして、ミサイルを回避した。

見事な回避だったが、カイ少尉は驚きを隠せなかった。

レイモンドは、その動揺を見逃さなかった。

素早く右手を使って、背部に取り付けられた剣を引き抜くようにして取り出し、そのまま、勢いよく、相手に向かって袈裟切りにしようとした。

カイ少尉は、自分の剣でシャルラーハの重い一撃を難なく受け止め、弾き返した。

「いいセンスだが、甘いな」

カイ少尉はそうつぶやいたが、その瞬間、すでに決着はついていたのだ。

「いや、甘かったのは、俺の方か」

カイ少尉は口の端から血がにじんだ。

「もう、ダメだな、こりゃ」

そんな感想が浮かぶのも当然のことだ。

腹部は大きく損壊し、ほとんど上半身と下半身が離れてしまっている。

カイ少尉のコックピットは大きくえぐられていた。

レイモンドの操るシャルラーハは、いつの間にか、左手に高振動ブレードナイフを握り締め、ギュゲスのコックピットは大きく破損させていた。

右手で剣をふるったのは、いわば囮で、左手に握りしめたナイフが本命だったのだ。

通常、今までの常識では、剣のような重い武器は片手で取りまわすことはできなかった。

しかし、シャルラーハの高出力によって、不可能が可能となった。

これがカイ少尉の最大の誤算であり、そこに気づかなかった。

いや、連撃によって、相手の動揺を誘い、レイモンドが気づく余裕を与えさせなかったのだ。

レイモンドはギュゲスが完全に沈黙したことを確認して、ナイフを引き抜いた。

ナイフの刃には、わずかに血がついている。

その手で人を殺めたことを主張している。

だが、シャルラーハは、堂々と、自らの美しき深紅の肉体を衆俗の目にさらけだしていた。

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