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襲撃の日

『帝国臣民の皆さん。我々、人類が宇宙へと進出してから、ちょうど17世紀が経過しました。

私たちは、様々な進歩を遂げてきました。

なかでも、ハビタットと呼ばれている宇宙居住地の発明は我々の生存を確保し、繁栄の基礎となっています。

そして、今もなお、技術の進歩、社会の発展により私たちは前進を続けています・・・』

大学生くらいの年頃の女性が壇上で演説をしている。

ブロンズ・ブルックスはスマートフォンの画面にその映像を映しながら、レイモンド・ミノリに話しかける。

「綺麗だよな、シーロ殿下。

な、レイモンドもそう思うだろ?

男として生まれたなら、いつか、こういう美人と付き合いたいものだよな」

ブロンズは画面の向こう側の彼女に恋するように言った。

美しい艶のある黒髪を蓄えおり、目鼻立ちもくっきりしていて、確かに美しい容姿であった。

表舞台に出てくることが特に多い王族なので、国民からも親しまれている。

「あ、ああ。でも、俺たちと関わることなんてないだろ」

レイモンドはテキトーな返事をする。

あまり興味がないらしい。

というよりも、必修科目の数学の授業中であり、レイモンドにとっては教授の話を聞くほうが重要であった。

「ブロンズ。それより、今は、授業中。」

レイモンドは教授が教室のスクリーンに映し出しているスライドを見ながら、答える。

ブロンズは眼鏡をふき、面白くなさそうな顔をする。

「だいたい、普通、今日は休みなんだぜ。

他の教授連中のほとんどが、宇宙進出の記念式典日ってことで休講日にしてる。

この教授くらいだよ。今日授業してるの」

「そうなのか」

レイモンドは相変わらず興味がなさそうだ。

「噂によると、この数学の教授、改革派らしいぞ」

「そうなのか」

「何だよ、レイモンド、興味なさそうだな」

ブロンズは不貞腐れたように言う。

相手にされないと分かり、ブロンズはようやく口を閉じた。

レイモンドにとっては、世情よりも、目の前の数学の問題を解くことのほうがずっと重要だった。

彼は、授業が終わるまで、ずっと教授の話に傾聴していた。

授業終了時刻になる。大学だから、チャイムが鳴るわけではない。

今日は、これにて終わりだ。という教授の言葉をきっかけに、学生たちはぞろぞろと教室を出て行く。

レイモンドとブロンズも同様に教室を出ようとしていた。

「また、いつものだよ」

ブロンズは教室の扉の辺りでふざけあっている学生たちを毒づく。

彼らは教室を出るわけでもなく、たむろして、雑談か何かに興じているらしい。

見れば、ワニ・チャンドラーのグループだ。

「ワニとキャサリンって、いっつも一緒にいるんだよな。

付き合ってるんだろうな」

ワニは好青年といった爽やかな風貌で、大学のラグビー部でエースらしい。

彼の周りには、いつも人が集まっている。

その中の一人がキャサリン・カトーである。

彼女は、大学でも指折りの美女と言われている。

なめらかなブロンドの髪が特に美しい。

レイモンドとブロンズが教室の扉に近づくと、ブロンズは、ドアをふさぐ彼らに声をかける。

「ちょっと、すいません。どいてもらえやしませんか」

ワニは、いま、ようやく気付いたという表情を浮かべ、「ああ、ごめんよ」と、爽やかにブロンズに言った。

「みんな、食堂に移動しよう」と、ワニが周りに声をかける。

すると、「分かった」や「オーケー」などといった声が上がり、彼のグループは教室から出て行った。

グループの最後尾をワニとキャサリンが歩く。

キャサリンの長い金髪は風になびいた。

ブロンズは彼らの様子を見て、渋い面をしていた。

「ワニって奴は、嫌味なほどに清々しいよな。

あいつの隣にうちの大学の美女が連れ立っていても、文句は言えねえな」

「そうだな。お似合いっぽいな」

レイモンドは同意せざるを得なかった。

教室を出てしばらく歩くと、ブロンズは、「それじゃ、俺はサークルに行くから」と言っていなくなってしまった。

レイモンドはハンニバル教授のいる研究室に向かうことにした。

彼は工学部の所属であり、ハンニバル教授の研究室に受け入れてもらえることが確定していた。

大学の構内を歩き、研究室に入ると、教授があわただしく、書類を整理していた。

「レイモンド君か。ちょうど、良かった。手伝ってくれ」

「何かあったんですか?」

「これから何かあるんだよ。正確に言うと、ここに共和国軍が来る。

何が何でも私と私の研究成果を逃がさなければならない。

こいつらを一緒に運んでくれ」

レイモンドは教授がおかしくなったのかと思った。

ここ数年共和国との間で戦争が続いているが、このような大学しかないハビタットに攻撃を仕掛けてくるとは思えない。

しかし、レイモンドは何が何だかよく分からないが、教授に言われるがまま、パソコンと書類を抱えた。

教授につきしたがって、エレベーターで建物の地下に向かった。

そこには、大きなトレーラーがあり、荷台部分が十数メートルほどあるだろう。

非常に大きい。

荷台部分にはシートがかけられていて、中身が分からなかった。

レイモンドは教授とともに、トレーラーに乗り込む。

教授がトレーラーを走らせるが、そのとき、サイレンが鳴り響く。

『緊急事態、緊急事態。

ハビタット内に共和国軍の侵入あり、至急近くの緊急経路から退避せよ』

「早いな。間に合うといいが」

教授がぼそりとつぶやく。

レイモンドは混乱しているため、何も答えられない。

状況があまりにも急展開過ぎると感じていた。

サイレンは相変わらずなり続け、アナウンスが流れ続けるが、それらをかき消すほどの轟音が響いた。

見れば、ハビタット内を黒い人型兵器が工学部棟の上に降り立ったところだった。

工学部棟は瓦礫の山と化していた。

「ギュゲスか、共和国も本気だな」

教授はあくまでも冷静だった。

ギュゲスは頭部のセンサーが怪しく紫に光らせると、手にした巨大なマシンガンから弾丸をばらまいた。

周囲の建物が次々と破壊され、ガラスとコンクリートが雨のように降り注いだ。

「耳をふさいどけ」

教授がレイモンドに指示すると、レイモンドと教授は耳をふさいで、社内でかがみ、衝撃に備えた。

ズドーンという、耳をふさいでも、体から伝わってくる爆音。

幸か不幸か、トレーラー自体は無事だった。

教授は車のアクセルを再び踏む。

がれきが散乱しているため、踏むたびにガタンとトレーラーが大きく、揺れる。

ギュゲスは相変わらず、何かを探しているらしい。紫の目を光らせて、ドシリドシリと周囲の地面を揺らしながら、歩き回っている。

教授はアクセルをさらに踏むが、トレーラーのスピードが出ない。

どうやら、がれきを踏みまくったせいで、パンクしたらしい。

「こ、これでは」

教授が少し焦燥した表情を浮かべたが、「よし」と小さく言うと、どこか、決心した表情を浮かべた。

「レイモンド君、後ろの荷台のシートを開けるぞ。

おい、レイモンド君」

教授に肩をゆすぶられて、茫然としていたレイモンドは正気を取り戻す。

教授とレイモンドは車の座席から降りて、荷台部分のシートを外した。

深紅の機体が姿を現す。

美しい、と、人に本能的に思わせるような秀麗なフォルムと色合いであった。

「人型兵器?帝国でも開発が進んでいたんですか?」

レイモンドは驚きのあまり、声を上げる。

「レイモンド君、驚いている場合じゃない。乗るぞ」

教授はいつの間にか深紅の機体のコックピットを開いていた。

「早くしろ!」

教授の声で、教授とともにレイモンドもコックピット部分に乗り込んだ。

教授は操縦席に座り、レイモンドはその後ろにしがみついた。

七支刀のような複雑な形をしたキーを差し込むと、起動する。

「シャルラーハ?」

スクリーンにMW-07 Scharlachと映し出されるのを見て、レイモンドがつぶやく。

「そう、それが、この機体の名さ。エイドスシリーズの最高傑作だ」

教授がこともなげに答える。

シャルラーハは、ゆっくりと立ち上がった。

コックピット内の視界は非常に良好だ。

コックピットは球状で、周囲の状況を映し出すために、コックピット内部には非常に大きなスクリーンがある。

スクリーンは、インターフェースを除けば、360度、周囲の光景をすべて鮮明に映し出していた。

それは、ギュゲスとて例外ではなかった。

ギュゲスが紫の目でこちらをとらえるのがはっきりとスクリーンから分かる。

それは手にしたマシンガンの銃口をこちらに向けた。

「避けないと!」

レイモンドは焦っていうが、ハンニバル教授は動じなかった。

ギュゲスはシャルラーハに向けて、引き金を引いた。

ダララララ、という銃声が一帯を満たす。

シャルラーハを中心に、弾痕が辺り一面に広がった。

目標であるシャルラーハを蜂の巣にすべく、ギュゲスは弾を目標に打ち込み続けた。

砂ぼこりが舞い、ギュゲスの目標は煙に覆われた。

ギュゲスはマガジン内の弾を撃ち尽くしたのか、一度、射撃をやめる。

ゆらゆらと、煙が晴れ、ギュゲスはそこに蜂の巣となったシャルラーハを発見し、帰投しようと思っていたはずだ。

しかし、シャルラーハはその身に一つも傷をつけず、燦然とその美しさを示し続けていた。

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