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19/20

同棲20時間目

終わらないと言ったな。あれは本当だ

「おっはよー、ヨータ! 略しておはヨータ」


 早朝、まだ覚醒していない脳みそに甘美な音が響いた。

 なんなんだこれは。


 アニメの目覚ましなんか設定した覚えはない。そして勿論、何時も聞いているスマホのアラームでもない。

 だが分かる。確実に美少女の声であると。いや、ともすれば美幼女か?


「残念、正解は人妻美人お姉さんだ」


「なん、だとッ!?」


 読まれた。完全に心を読まれた。

 こんなことが出来るのは、30年来の幼馴染だけ。

 薄っすら開けた目に映るのは、見慣れた茶髪のボブカット。少しだけ垂れた目が可愛いらしい。ピンクの唇も、朝からプルップルだ。

 白いTシャツも、良く似合っている。


 そんな幼馴染のカナ様が何故平日の朝に、我がお家に居る?

 なんて思考を悟られないうちに取り消す。


 そうだ、昨日から俺たちは……


「おはよう、カナ」


「うん、おはよ」


 ゆっくりと身体を起こす。見えて来たのは知らない天井と高く積まれた段ボール。着慣れないパジャマ。

 そして二つ並んだシングルベッド。


 どう見ても2人暮らしです。


 そう、昨日幼馴染である俺たちはこの部屋に共に引っ越してきた。でもルームシェアとはちょっと違う。


 親に結婚をせっつかれ、酔った勢いで思わず相手として俺の名前を口走ったカナ。

 翌日、俺のマンションの前で土下座プロポーズを敢行。


 普段なら笑い飛ばしてる。


 だけど、そうともいかない事情があった。

 俺が、カナのことを好きであるという、どうしようもない事情が。

 プロポーズを受けた瞬間、悪魔が囁いてきたのだ。


 ここを逃せばチャンスはないぞ、と。


「昨日買ってきたお弁当、あっため始めてもいい?」


「お願いします。って、朝からありがとな」


「いえいえ!」


 慌ただしく部屋を出ていくカナの後ろ姿を見ながら、指でふたつのベッドの隙間をなぞる。

 所詮、親への言い訳。仮初の同棲生活。


 だけど、俺は本気。ここを経て、交際に漕ぎ着けたい。


 勿論、絶対難しい。

 これまでの関係や諸々を考えれば、安易に手なんて出せず。

 昨日の夜だって、雰囲気は完全修学旅行。

 なんならウノまでした。

 楽しい。だけど、そこで止まってちゃダメだって心臓が煩く主張する。


「っし、頑張るそ」


 小さく決意を固め、ベッドから身体を下ろす。

 キッチンから漂い始めたコンビニ弁当の匂いに、戻れない日常を感じる。


 もう、変わり始めた。

 動き始めた。


「やっぱ、朝食はカルボナーラ一択よ!」


「知らない文化ですなぁ」


 幼馴染。だけど、家が隣同士だったことはない。

 幼馴染。だけど、恋人だったことはない。


 もちろん、夫婦だったことも。


 今までと役者は一緒だ。でも、配役が違う。

 今日からは、偽物の夫で。

 今日からは、偽物の妻で。


 そしていずれ…


「この味初めてなんだよね! 味見、して?」


「えっ!? あっ!? う、美味いよ。カナでも食える辛さ」


 出されたフォークの先にはヤンニョムな唐揚げ。これは、アーンの姿勢。知らないふりして食べたけど、身体は正直だ。

 ピリ辛で美味しい。なんて感想を絞り出してみたものの、そんなの考えてられない。

 幼馴染が、いつの間にか恋愛マスターになっていた。

 いや、俺がクソ雑魚になってるのか。カナの前では。


「やばい、決める前に俺、入院しちゃう!?」


 心臓がうるさい。多分きっと、これから死ぬまでずっと。





大変お待たせしました。

これから改めて、投稿頑張っていきます。

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