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第二章四節 夜間襲撃

 時刻は午後七時五十五分。


 自分とミライは¨緑¨の世界が発生した現実の元の場所に戻って、川原に立っていた。

 今の時間帯なら誰もが晩御飯を楽しんでいる時間帯だろうか。それとも、丁度食べ終わった時間帯だろうか。

 家庭によって食べる時間帯は様々だから考えるだけ無駄なのだが、ちゃんと生きて帰ってきたら晩御飯が食べられることを考えていた――何時に食べられるか分からないが。

 マンションや外灯、夜空の星々の光がキラキラと夜を輝かせて変わらない町を照らし、照らされている。


 夜は静かだ――だからこそ、集中して剣を想像することが出来る。



 時刻は午後十五時。


 ハッテリンXを貼り終えた後、『おやつ食べながら作戦会議しないっ? しようっ!』とミライが言ってきて――半ば強制的に作戦会議(おやつ)が始まった。

 パリッとポテチを咀嚼する音がミライから聞こえてくる。


「M.A.N.A.! 机にホログラムで地図を映し出して!」

「かしこまりっ! M.A.N.A.ホログライゼーション! 回転っ!」

 ミライはM.A.N.A.に命令をすると、即座に反応してアイウィンドウの中で自分自身を回転する。すると、机の上にホログラムで作戦領域の地図を映し出した。


 ミライはまた一枚、また一枚と食べながら、自身の拳を顎に乗せて考え始める。


「先に大樹を斬ってしまいたいわね……」

「スタンドメインなら斬れるのか……?」

 唐突にミライが斬ろうとする考えが出てきたので質問してしまう。

「斬れるわよっ! スタンドメインならっ!」

 ミライの自慢のポニーテールが主張するかのようにふわりと浮く。


「どうやって?」

「陽彩に斬りたいという想像力次第ね」

「想像力で斬れるもんなのっ!?」


 ふんっ! と鼻息で言わんばかりのミライはなんとしてでも自分に気持ちで大樹を斬らせたいようだ。


「あのなぁ……、もっと説明という説明はないの? 昨日の想像力で必殺技を撃てっていう話も分からなかった」

「でも、出来てたじゃない? 大丈夫! 考えるな! 感じろ! なんの映像資料名だったかなぁ……? まっ、いいかっ! 作戦は午後八時から。¨緑¨の世界に巻き込まれたら、陽彩は即、スタンドメインに装着して、木を斬り倒す。欲を言うと、猿のエマも一緒に狙ってバサァっと斬ってほしいところ! 斬ったのを確認したら私が電車を元の世界に戻す。これでおしまいつ!」


 ミライのおしまいという言葉と共にM.A.N.A.が映していたホログラムの作戦領域の地図が消える。


「とにかくっ! 陽彩のことを信じる私を信じなさぁーい!」


 自分の口からぐぬぬという言葉が溢れ出そうになるが、我慢して袋に入っていた残りのポテチと一緒に飲み込んだ。


「ちょっとっ! 私のポテチがっ!」



 ミライに無茶振りをされて――自分はただひたすらに剣を想像することに集中していた。


 自分にとって剣とはなんだろうかと想像していた時、『対面セイバー』の一話を思い出す。

 『対面セイバー』の一話――剣の使い手を目指す青年が、ある日空から降ってきた聖剣エクスセイバーを引き抜き、対面セイバーに変身して世界を救うために剣をふるう物語。

 だから、『対面セイバー』を参考にして剣を想像しようとしていた。現実だから剣は降ってこないけど。


 では、『対面セイバー』の二話で見せた聖剣エクスセイバーで敵を居合切りするシーンはどうだろうか?


 これなら剣を想像すると同時に引き抜いて――


「主様っ! 陽彩様っ! 作戦開始十秒前です! 準備をお願いします!」

 M.A.N.A.がアイウィンドウ越しに耳元で叫んでくる。自分はもうこれでいくしかないようだった。


 上空にはミライがスタンバイしている。目で電車の全体像を捉えることが出来ないとワープさせることが出来ないかららしい。


 とにかく、ミライが信じてくれた自分を信じよう!


「五、四、三、二、一、作戦開始ですっ!」



 自分の意識が眠気に襲われ目を閉じてしまう。



 自分の眠気を払いのけるかのように目を開ける。


 朝見ていたはずの¨緑¨の世界ではない。夜の暗闇に落とされた¨緑¨の世界はあちらこちらに人だったものが、川の中には人間だった骨が浮かんでいて、遠くの川の中央には猿のエマが生み出した大樹が生えていた。


 見上げれば、朝乗っていた電車の残骸が乗っかっていて……。


『ま……ア……ぱ……バ……だっ……ゴしデ……』


 壊れかけた人形の電子音声が耳に聞こえ、驚いて足を動かしてしまうと、カランコロンと人形の生首が転がっていく。


『……アた……ジ……ザビしい……の……』


 転がった先に綿と配線が飛び出た首のないととちゃん人形だったものが力がもうないかのように横たわっていて……。

 でも、ととちゃん人形の生首は身体にたどり着くことはなかった。耳が確かにポチャンと聴き取ったからだ。


『電車がトンネルを突き抜けるまで三十秒。装着開始(ヴェーラーオン)お願いします!』

『陽彩っ! やるよっ!』


 M.A.N.A.とミライの声がアイウィンドウ越しに聞こえて自分を思い出す。


「そうだよな……。そうだ! 次の犠牲者が出ないように自分たちは戦うんだよな!」


 アイウィンドウに自分の右の手の平を置くと、ミライも左の手の平を重ねてくる。


「私達でこの世界を破壊しよう!」

 ミライは杖を上空に掲げると、自分の真上と真下に魔法陣が浮かび上がる。


「魔導装着者! 起動せよっ! スタンドメイン!」

 ミライがそう叫ぶと自分の真上から、真下から光が降り注ぐかのように自分の体にくっついてくる。目の前にスタンドメインと呼ばれる鎧が見えた時、自分の身体から心が離れていった。

 すぐに気がつくと身体はもう人間のものではない。スタンドメインという鎧のものに変わっていると実感が出来る。


『聞こえていますかっ? 陽彩様っ! スタンドメインに直接、音声データを送っています』

 M.A.N.A.からスタンドメインにインカムのように通信が入ってくる。

「あぁ! 聞こえているよ!」

『この熱源体こそ猿のエマです! 今、熱源体データを送りました!』

 自分の目――スタンドメインの目と思われる位置に猿のエマが作り出した大樹の映像が送られてくる。


 赤い点が一つ――おそらくそこに猿のエマがいるのだろう。


 早速、自分が想像していたように居合斬りの構えをとると、右腕から力が溜まって、左腕から変形しそうな感じがする。


 ん? 変形しそうな感じ?


 ――目の前に猿のエマが生み出した大樹の根みたいなものが触手かのようにうねうねと現れ、自分のほうに向かってくる。

 やるしかないと思った時、右前腕部分の装甲パーツが剣の柄になり、手の甲のところまで変形したところを自分は引き抜いた。


 シャキィーンという何かが斬れた音が上空で鳴り響く。


 今、自分が襲い掛かろうとしてきた大樹の根を光の衝撃波で斬り裂いたんだと理解する。


『電車がトンネルを過ぎるまで後、十秒! 陽彩様、時間がありませんっ!』

「M.A.N.A.! すぐに決着をつけるよっ!」


 引き抜いた剣の柄を元の場所へセットして、もう一度、居合斬りの構えをとる。


「はあぁぁぁぁぁぁぁ……」


 自分の焦ろうとする心を落ち着けると、装甲の隙間から赤い粒子が溢れ出てくる。


「――行けるっ!」


 そう叫んで剣の柄に力を込めると、左腕の前腕に粒子が一気に集まり、

「ハァッ!」

 ――粒子を解放するかのように引き抜いた。


 剣身は光の矢印――自分の心――のように真っ直ぐで、自分から大樹の距離なんて分からない。それでも、遥か向こうの先へ、先へと向かうかのように大樹をバッサリと斬り裂いた。


『電車がトンネルを通過します!』


 電車の轟音が右側で鳴り響く。


「――捕えたっ! 魔導式陣っ! ワープリアーションっ!」

 上空からミライの声が聞こえると、走っている電車の先に魔法陣が通せんぼするかのように浮かび上がり、飲み込んでしまうと跡形もなく消えていった。


 きっと元の世界に還ったのだろう。


「はぁ~、無事に終わった~!」


 ミライの安堵した叫びが上空に響く。


 今、自分の目には倒れてくる大樹とその反動で落ちてくる上半身だけの猿のエマが見える。


「……フクブゴ……オツエ……。スケノカネ……タマドテタメタミロリトコット……ドキノナネ……」


 自分の耳に猿のエマの声が聴こえてくる。その声はどこか悲しくて、誰かを求めているような声だった。


 ¨緑¨の世界が徐々に崩れていく。この世界が無くなる前に自分はやりたいことがある。


 自分の足元に横たわっている綿と配線が飛び出た首のないととちゃん人形を拾い上げて、やさしく抱きしめた。


『あッ……たガ……い……』


 ととちゃん人形がそう言った時、自分は気を失った。



 寒い。肌が寒い。


 冬の寒さではない激しい風に当たっているかのような肌の寒さを感じる。

 激しい風に当たっているかのような肌の寒さ……?

 頭の中で疑問に思う。何故だと自分に問いかけても答えは出てこない。さっきまで猿のエマと戦って倒して……。


 ハッとして目を覚ますと、縄に縛られてミライの箒に吊るされた状態で空をゆらりゆらゆらと飛んでいた――つまり、縄が解けてしまったら自分は急降下。死だ。


「やっと目を覚ましてくれたっ! 陽彩、元気?」

 アイウィンドウからミライの声が聴こえてくる。


「もっとまともな乗せ方はなかった?」


 スタンドメインによる疲れからか声が張れない。心底呆れたような声色だったと思う。


「なかった! だって、陽彩、気を失っているから重たかったんだよ! もしかして、亀甲縛りのほうがよかった?」

「縛り方の問題じゃないっ!」

 出ない声で怒ろうとすると咳き込んでしまう。ひとまず、落ち着こうと浅く息を吸って吐く。


「ねぇ? 陽彩?」


「――なんだよ」


 ミライが間を壊そうと話をかけてくる。


「私、陽彩の友達になれるかな?」

「――なれるか、なれないかの前に、友達になりたいと言うヤツは空中で宙吊りにしないからっ!」


 さっき、息を吸って吐いたお陰からか喉から声が出るようになった気がする。だから、声は大きかったと思う。


「分かったっ! 分かったから陽彩っ! 次からは宙吊りにしないからっ!」

 アイウィンドウ越しに慌てるかのような表情でミライはそう言ってくる。


 はぁ……と、偶然にも自分とミライの溜息が被る。どうしてミライはそこまで溜息を被せてくるのが上手なんだと思いたくなるくらい。


 それはいい。それはいいのだけど、一つ解決しなければいけない問題があった。


「しばらくの間、居候するのはいいけど、自分は男だからミライに何をしでかすか分からないからな?」


 ミライが居候したいという問題――多分、これからエマと呼ばれる怪物が自らの世界を生み出し、それに巻き込まれる犠牲者が続々と現れるだろう――を解決しなければいけなかった。今、ミライを不利な状況にしてしまったらまずいことになるはず。


 だから、居候することに対して許そうと今日の一件で思った。


「陽彩はやさしいから私に野蛮なことなんて出来ないよ」

 明るい表情で微笑んでくるミライ。


「――とにかくありがとう。絶対に明るい未来するから」


 ミライはそういうと真剣な表所になる――まるで、勝つための方程式が整ったかのように。


 夜はまだまだ深い。月光の煌めきを背に帰路へゆらりゆらゆらと向かっていた。


ここまで頂きありがとうございました!

当初、PILOT版として書いていたもので、どんな反応がもらえるか気になったのでこちらに置きました!

人気が出たら続きを書くかも!

現在、なろう様のほうで「異世界ノ境界線 ~「陰」キャ暗殺者が最強魔術師「陽」キャ幼女がいるギルドに入れさせられたのだが!?~」を投稿中です!

https://ncode.syosetu.com/n7733hl/

こちらを読んで応援して頂けると嬉しいです。

ありがとうございました!

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