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第二章三節 作戦会議

「勝手に居候しようとしてッ! 気に障るような起こし方しようとしてッ! すみませんでしたッ!」


 あれから無事に元の世界へ帰ってこれた自分たちだったが、正直に言って最後まで覚えていない。魔法陣を追い越したところで手を離してしまって……。目を覚ました時にはもう自分の家だった。


 自分でも手を離した時に流石に死んだと思った。しかし、目を覚ましたということはポニーテールの少女がどうにかしてまた手を取ったということなのだろう。


 ポニーテールの少女のこと少し見直したかもしれない。


 そんなポニーテールの少女は自分の目の前で土下座している。朝のことで申し訳なさそうに謝ってきているのだ。土下座で。


 傍から見たら自分が女性に土下座させたと思われるかもしれない。隣に住むおばあちゃんにはポニーテールの少女のことで変な誤解を与えたくないから、迅速に自分も彼女に謝る必要があると感じる。


 そうだ。朝、感じた気持ちを自分なりにポニーテールの少女を伝えればいいだけの話なのだ。


 逃げるな、自分。逃げちゃダメだ。そう思った時、


「陽彩様がお家を出られた後の主様はほんっとに丸まってはギャンギャン泣いていましたから! 次、主様を泣かせたら、私が許しても、バックアップ用の私が許しませんよ!」


 M.A.N.A.が横から自分を説教するかのように口を挟んでくると、M.A.N.A.の隣に丸まっているポニーテールの少女の映像が再生される。


『うっ……、うぅっ……、ごめぇんなぁさぁぁぁぁぁあああああいぃ……陽彩ぉさぁぁぁぁぁぁぁあああああああん……。おっ……、ごほっ……。おえェッ……』


 ポニーテールの少女はリビングでうずくまりながら、今でも吐きそうな声で泣きながら謝っている映像を自分は見せられている。


「ちょっ! いつの間に撮ってんのよっ! 今すぐ消してっ!」

「消しませんよっ! 私の中の主様ファイルに大切に大切に消さないように保存しますからっ!」

 ポニーテールの少女はM.A.N.A.が撮影したと思われる映像データを消そうと必至だ。顔が訴えかけている。それに対し、M.A.N.A.は撮った映像を消されないようにあっちへ行ったりこっちへ行ったりで飛び回っている。


 せっかく自分の言葉でポニーテールの少女に伝えようと思ったのにタイミングが悪くなってしまった。

 さて、どうしようかと考えながら、目の前でおきているわちゃわちゃを見ている自分。


「陽彩様っ! 主様を止めてくださいよっ! アイウィンドウの充電の減りがなくなってしまいますっ! イヤァァアー! 主様のエッチ!」

「昨日、私が作ったばかりなのに口が達者すぎるのよっ! この変態人工知能ナビ!  あぁ、二〇三〇年の技術でプログラミングするべきだった! 今の時代に二〇七〇年の技術は早かった! 今からでも遅くない! いっそのことデリートしたら楽ね! そうしましょう!」

「ひぃ~、デリートだけはやめてください~! イヤァー!」


 うるさい。家の中がものすごくうるさい。


「ねェ! うるさいんだけどっ!」


 やっとの思いで声を出すと、ポニーテールの少女とM.A.N.A.のわちゃわちゃが止まってこちらを見てくる。


「せっかく朝御飯作ってくれたのに食べずに出て行ってごめん……」

 やっとの思いをポニーテールの少女に話す。


 「ほら、主様が謝ってますよ」

 M.A.N.A.が横から口を出すと、ポニーテールの少女は悲しそうな表情になる。


 「しょうがないよ……、ビンタされて起こされたら私だって怒るもの……。昔の私は怒っていた……」


 悲しそうな声でポニーテールの少女はそう答えると、

「ねぇ! 朝御飯まだ食べてないよね! 私も食べてないから一緒に食べようっ!」

 続けざまに明るく希望を持つように答えた。

「一緒に食べよう! って、まだ朝御飯食べていなかったの!?」

 ポニーテールの少女のまさかの発言に驚いてしまう。朝御飯食べてないのによく助けに来れたなと。


 「さっきの映像を見られなかったのですか? 陽彩様。ほら。」

 M.A.N.A.がポニーテールの少女が丸まって泣きながら謝っている映像をもう一度再生する。

 『うっ……、うぅっ……、ごめぇんなぁさぁぁぁぁぁあああああいぃ……陽彩ぉさぁぁぁぁぁぁぁあああああああん……。おっ……、ごほっ……。おえェッ……』

 「いい加減に消しなさいよォ! クソナビィ!」


 どうしてポニーテールの少女が朝御飯食べずに助けに来たか分かった気がする。大体。



「手を合わせて~いただきます!」

 ポニーテールの少女が元気よく手を合わせながらそう言うと、

「いただきます」

 自分はポニーテールの少女よりも元気がないような雰囲気で『いただきます』と言う。

 作ってくれたことに感謝して『いただきます』と言うのだが、明らかに自分が普段食べているトーストとおかしい。

 トーストの中央にHAAGEN DAZEのバニラアイスが丸ごとちょこんと乗っており、蜂蜜がそこらじゅうにかけられていた。


 これがアイストーストというものか……?


 「ねぇ? もしかして冷蔵庫に入っていたHAAGEN DAZEのアイス使った?」

 恐る恐るポニーテールの少女に聞いてみる。


 「うん! 使ったよ! 私と陽彩で二個!」


 はぁ……と溜息を吐くと、その場で崩れ落ちる。このHAAGEN DAZEのアイスは親友の龍騎夜明が来た時に備えて冷蔵庫に入れて置いたものだ。


 親友が自分の家に遊びに来た時にHAAGEN DAZEのアイスを渡して食べさせておけば、

子猫のように大人しくなる。

 しかし、もしHAAGEN DAZEのアイスがなければ子猫は人食い獅子のように狂暴化し、たちまち自分を食らってしまうだろう。


 恐怖心、親友はいつ退院するのだろうか分からなくて不安になってくる。落ち着いたら大人しくHAAGEN DAZEのアイスを買いに行こう。そのほうがいい。


「ねぇ? アイス溶けて食パンがべちょべちょになっちゃうよ~! う~ん! 美味しい~! 生きて帰って来れてよかった!」

 ポニーテールの少女は自分のことを気にしつつもアイストーストを食べている。


「気にしていてもしょうがないか!」

 自分はそう言うと、アイストーストを一口パクっと食べた。


「冷たい!」

 歯の神経にバニラアイスの冷たさがダイレクトに伝わってくる。

 しかし、冷たさを我慢しているとバニラアイスと蜂蜜の甘みが仲良しこよししていて、食パンが仲良しコンビを包もうとしている。


 これは冷たいという暴力を包もうとしている優しさの味だ。


 「陽彩、どう? 美味しい?」


 ポニーテールの少女は心配そうに聞いてくる。


 「美味しいよ! 美味しい!」

 「やったー! 私、二〇三〇年に来たら絶対にアイストーストを作りたくて! 今日、作れてよかった~!」


 ポニーテールの少女は嬉しそうな顔で喜ぶ。本当に二〇三〇年来たらやりたかったんだろうなと思うとこちらまでニヤニヤとしてしまう。

 しかし、何故、この時代に来てアイストーストを作ろうと思ったのか? 未来に食パンはないのか? どうしてか気になってしまった。

 

「確か二〇七〇年? 二〇七〇年に食パンはないの?」

 ポニーテールの少女に聞いてしまう。


「あるよ。あるけど贅沢品になって金持ちの食べ物になっちゃった……」

 ポニーテールの少女は悲しそうな表情で下へ俯く。二〇七〇年――自分から見たら未来に不満があるかのように。


 「だからっ! 二〇七〇年に来たら御飯やパンをお腹いっぱいに食べられるって楽しみにして来たの!」

 ポニーテールの少女は興奮してポニーテールを揺らして自分の方に身を乗り出してくる。


 突然、自分の方に来たのだから、ちょっと身を引いてしまう。


 「ごめん、興奮しすぎたよね……」

 そう言いながら、ポニーテールの少女は身を元の椅子の場所まで戻り、再びアイストーストを食べ始めた。


 自分はアイスの冷たさに警戒しながら二口目、三口目と食べ進める。


 食事の時間――静かなる時が流れていく中で、朝の電車の中でのことを思い出す。


 幼女はととちゃん人形を抱えながらお母さんに合えることを楽しみにしていた。なのに、巻き込まれてしまって……。


 自分の心が痛い。のんきに朝御飯なんて食べていていいのかって……。


「陽彩、なんだか顔が暗いよ? やっぱ不味かったのかな……?」

「さっきの電車を襲ってきた木の幹って昨日の化け物と一緒なんじゃないのか? って考えてしまって……」

 ポニーテールの少女が心配そうに聞いてくると、自分が今朝の電車での話を切り出していく。

「あぁ~、あれは猿のエマの仕業ね。猿のエマの能力は大樹を作り出す力。今頃、電車に乗ってた人達は猿のエマが作り出した大樹の養分になっているわね」


「えっ……?」


 ポニーテールの少女から衝撃的なことを言われて、驚きが隠せない。それはまるで、ポニーテールの少女に心臓を掴まれたかのような感じで。さっきまでトクントクンと鳴っていた心臓の音がショックでかき消されてしまった。


「巻き込まれた人たちは助けられないのか?」


 自分の正義感がそう答えるように言う。


 ポニーテールの少女は沈黙する。何も答えられないような言葉が詰まって出てこない表情だった。


 しばらくの沈黙を壊したのはポニーテールの少女から。

「助けられない。これ以上、犠牲者が出ないように私たちは動くだけ。だから、陽彩にも手伝ってほしい」

「えっ……自分も……!?」


 ポニーテールの少女の発言に驚いてしまう。どうやら今回も自分は巻き込まれるらしい。


「そうよ。スタンドメインは陽彩にしか動かせないんだから。その前に陽彩の筋肉痛を午後八時までには治すわよ!」

 ポニーテールの少女は手から魔法陣を浮かべると、今の世の中でいう湿布みたいなもの取り出す。

「筋肉痛で痛むときは勝手にハッテリン! このハッテリンXを使うわよ!」

「未来だとXってついているのにそのキャッチコピーか……」


 ポニーテールの少女が真剣にキャッチコピーを言う姿にクスリと笑ってしまう。


「陽彩っ! 今日、初めて笑ってくれたっ! 筋肉痛で痛むときは勝手にハッテリン!」

「二度も笑わないぞ! 早く貼ってくれ!」


 はぁ……と二人同時に溜息を吐く。今の時間を二人同じ場所にいるからこそ被ってしまったのだろう。


 ポニーテールの少女は自分の方を見てニッコリと微笑む。


「絶対! 絶対に次の被害を食い止めに行こう! 私達なら止められるよっ!」


 この瞬間に自分はポニーテールの少女を信用してみたくなった。


「名前は? 流石にポ二子じゃないよな……?」


 目の前のポニーテールの少女を信用したいからこそ名前を知りたい。


「ポニーテールだからポ二子ってしつれーい! 私の名前のアサヒノミライ! ミライって呼んで! っていうか、朝、自己紹介したはずよ!」


 ミライのことをポ二子って呼んだから怒ってくる。自己紹介なんて怒り狂って聞けてないんだからしょうがないじゃないかと自分も言いたいが、気持ちを抑える。


「ミライ! よろしく頼む!」


 信用したからこそ自分は目の前のポニーテールの少女を名前で呼んだ。

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