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第二話二節 現実乖離

 ガタンゴトンと揺れながら人を運ぶ電車内の中、午前八時頃なのに人はそれほどいない。そんな中、ととちゃん人形で遊ぶ幼女とそれを見守る父を羨ましそうに見ていた。


「わたし、おうちにかえったらととちゃんといっしょにだっこしてもらうの!」

『まま~! ぱぱ~! だっこして~!』


 電車内に幼女とととちゃん人形の声が響く。


「そうか! そうか! でも、電車の中は静かにしような?」

 父親が幼女を静かにさせようとする。


「でも、きょうはままにあえるんだよ! ね~! ととちゃん!」

『わたし、さびしいの』

 幼女は悪びれない顔で父に答えると、それに反応するかのようにととちゃん人形が答える。


 ぐぅ~というお腹の音が鳴る。


 微笑ましい光景だと思ってたら、自分のお腹の音が豪快に電車内に鳴り響いたらしい。静かにしなければいけないのは自分だったということだ。


 隣に座っているおばあさんが優しく微笑んでくる。

 それはもう、おばあさんは自分に『あら、貴方がお腹の音を鳴らしたのかしら。朝御飯ちゃんと食べてないのが想像出来ちゃいますわよ! おほほほほほほ!』とでも言いたそうな顔だ。


 はい、朝御飯食べてません……。


 せめて朝御飯だけはいじっぱらずに食べるべきだったと後悔する自分が、お腹をすかせて電車内に立っているのだ。しかも、全身筋肉痛というダブルパンチ。

 ポニーテールの少女が例え二〇七〇年からやってきたヤベーヤツだとしても、朝御飯を自分の為に作ってくれたのだとしたら、それは彼女なりの優しさだ。その優しさを自分は嘘つき呼ばわりしたのだから、最悪だ。流石におばあちゃんに嘘をついたのは許せないけど。

 はぁ……とため息を吐いて、今日も幸運が逃げる。せめて、今日、ポニーテールの少女が未来に帰る時に今日の朝のことを謝ろう。酷いこと言ってすまなかったとちゃんと伝えよう。ちゃんと伝えることができなかったら、多分、自分は一生後悔する。


 そう思いながら、電車のトレインチャンネル片目にアイウィンドウを見ようとしていた。もちろん、空腹を紛らわすためだ。

 すると、一件の見慣れないアプリから通知があった。通知といってもどういった内容かは書かれてないから一切分からない。

 こんなアプリダウンロードした覚えないのになと思いながらアンインストールしようと試みる。


 しかし、アプリにはアンインストールの項目が一切ない。


 いや、自分は見忘れてないはずだと考えた上でもう一度確認するが、やはりというべきかアンインストールの項目はない。


 ――絶対、おかしい。


 いいや。深く考えたら余計にお腹がすいてしまった。空腹をなんとしてでも防ぐためにトレインチャンネルを集中して見よう。


 見慣れないアプリのことは一旦、置いといて、諦めてアイウィンドウを消す。


 すると、見慣れないアプリからまた通知が来て、アイウィンドウがまた開いてしまった。今度は『いいから開けて』との文言だ。

 しかし、自分はもうトレインチャンネルを見ていたいのだ。トレインチャンネルを見たいという気持ちをアプリごときに絶対に邪魔されたくないのだ。

 そう思うとまたアイウィンドウ消し、今度こそトレインチャンネルを集中して見る気持ちになる。なんとしてでも『明日使える無駄無駄雑学』を見たいのだ。


 やっぱりと言うべきか、またまた見慣れないアプリから通知が来た。今度は口調が荒く『いいから見ろ!』と。丁寧に怒っている絵文字までついている。


 そこまで通知をよこすのなら……と渋々見慣れないアプリを開けると、

 「初めまして! 陽彩様をお世話することになった対エマサポート人工知能ナビ、M.A.N.A.です! どうしてアンインストールしようとしたんですかァ!?」


 自分のアイウィンドウには人工知能ナビを入れてなかったはずなのに、どういう訳か入っていて……、マナーモードにしていたはずなのにそれはそれはもう大きい音で怒鳴ってきて……、脳が理解する処理速度が追いつかない。


 周りを見れば乗客が自分を睨んできているじゃないか。ととちゃん人形で遊んでいる幼女も自分を見ながら首を傾げている。とにかく視線が刺さるように痛い。痛すぎる。


「お願いだからチャットで会話出来るかな?」

 自分は小声でM.A.N.A.に話しかける。すると、声を聞いて判断したのかM.A.N.A.は頷き、チャットで返してくる。


『そうでした。ここ電車でしたね。申し訳ございませんでした。』

 アイウィンドウ越しに人工知能ナビは深々と頭を下げてくる。


 頭を上げたら顔色を変えて、

『一回目の通知でどうして開けてくれなかったんですか!?』『どうしてアンインストールしようとしたんですか!?』『M.A.N.A.、アンインストールされそうになったことが悲しくて……悲しくて大泣きですよ~!』


 M.A.N.Aは怒り心頭で立て続けにチャットを続け、三文目が送り終わるとウェンウェン泣いてしまった。


 それはもう、アイウィンドウの場面が涙で溜まるくらいに。


 泣いている以上は謝るしかない。泣く人工知能ナビなんて聞いたことがないけど……。


 とりあえず指に誠意を込めて動かし、チャットを送る。

『開けずにアンインストールしたことは謝るから』『ごめんなさい』


 M.A.N.A.はこれを見ると少し泣き止み、上目で自分を見てきては新しいチャットが続々と送られてくる。

『本当ですよ……本当にショックでしたから……』『M.A.N.A.、今日の五時に生まれたばかりです……』『まだ、〇歳……』


 続々と送られてくるチャットに衝撃を受ける。まさか今日の今日作られたのかと考えた上で次のチャットを送る。

『M.A.N.A.って呼んでもいい?』『誰に作られたの?』


 M.A.N.A.は表情が明るくなり、目をキラキラと輝かせると、

「はい! アサヒノミライ様に作られました。ですので、私の主様はアサヒノミライ様です! 主様は『陽彩様の世話をしろ!』とおっしゃられ、陽彩様のアイウィンドウに入れられました!」


 M.A.N.A.の横でアサヒノミライのイェイってピースしている写真がアイウィンドウに映る。


 それはいいのだが、M.A.N.A.の声が電車内に響いてるのだ。


 周りの乗客がもう一度こちらをギロッと睨んでくる。流石に今度は憎しみが込められているようで、自分はなんにも言えない顔ですみませんとM.A.N.A.に変わって自分が謝る。


『M.A.N.A.、興奮しすぎて喋ってしまいました……』『ごめんなさい……』


 しゅんとするM.A.N.A.に向かって自分はもう一度、チャットを送る。

 『頼まれたのが嬉しかったんだよね!』『これからよろしくね!』


 M.A.N.A.が笑顔になったと思ったら、真剣な表情になる。


『エマ反応アリ! 急いでこの車両から離れてください!』『至急、主様に連絡を取ってます!』

 自分は歩きながらエマのチャットを返していく。突然、次の車両にびっこを引くように焦って移動しようとするのだが、周りの乗客はそもそも気にしていない。


『電車内に化物が発生したの?』


 自分のチャットにM.A.N.A.は反応する。

『肯定』『しかし、地下から接近してくるのです!』


 五両目の入口に近づいた時、突如、電車内のトレインチャンネルや照明が消え、眠気に襲われてしまった。


 電車の車窓から一面の¨緑¨の世界が広がる。いつも川は青く照らしているのに、この世界では¨緑¨を照らしている気持ち悪さ。


 乗客たちはこの¨緑¨の世界の気持ち悪さを感じずにスマホで写真を撮りだしている。


「陽彩様、立ち止まらないでください! 今すぐ、五両目に!」

 M.A.N.A.の声で自分を思い出す。何がこれから起きるかは分からないけど、昨日はエマと呼ばれる化物に身が震えるほどの思いをした。


 ならば、答えは一つ。


 ポニーテールの少女が作った人工知能ナビの命令通りに自分の体を動かせるしかない。

 もしかしたら、今朝の夢は電車に乗るなっていう暗示だったかもしれない。思ってしまうと後悔の海で泳ぐしかない。


 自分は四両目から五両目に移動している際、窓の隙間から幼女の声が、

「おにいちゃんにもようせいさんがみえ――」


 突如、背後で鉄でも貫いたかのような轟音が鳴る。

 後ろを振り返ると、ついさっきまで幼女がいた位置と天井がぽっかりと穴が開いてしまっているのだ。


 あの轟音は一体、なんだったんだ――。


「見て! あんなデカい木なんてあったっけ?」

 乗客が興奮して木の写真を撮りだす。


 すると、目の前のガラスを生えてきた木の枝がいともたやすく割ってしまい、スマホで写真を撮っていた女性の腹部を掴む。


「キャァァアーー! 助けて! 助けてェエ! たすけ……て……」


 写真を撮っていた女性はみるみるうちに老けてよぼよぼになっていく。


「……たす……け……て……た……す……け…………」


 あっという間に、骨と変わらない存在になってしまった。


「嫌だっ……! 私、まだ死にたくないっ!」

 思わぬ光景を目撃してしまい、乗客たちはパニックになってしまう。


 自分もこの場にいたらさっきの女性と一緒になってしまう。


 どうすれば……いい……?


『陽彩! 今、何両目にいるの? 答えて! 陽彩っ!』

 アイウィンドウからミライの声がして、はっと自分を思い出す。


「今っ! 五両目っ! 自分は五両目にいるっ!」


 ――窓がパリンッと割れる。今度は箒みたいなマシンに乗っているミライが目を燃やすように真っ赤に光らせて電車の窓を颯爽と突き抜けてきた。


「私の手、捕まっていなさいよ!」

 ポニーテールの少女が自分の手を掴むと目の前の窓を突き破ってしまい、気がつけば足が宙ぶらりんと浮いてしまっている。


 もしかして、もしかしなくても、手を離してしまったら死!? デスか!?

 下見たら木の幹が触手のようにうねうねと自分たちを捕えようと追いかけてきてるし!?

 ってか、全身が筋肉痛で痛いっ!


「ぽ、ポ二子っ! 木の幹が追いかけているっ!」

 痛い叫びをポニーテールの少女に伝える。


「分かっているからァ!」


 触手のようにうねうねと動く木の幹に捕まらないよう、ただひたすら前へ全速前進する。


 ポニーテールの少女は顔の隣に鏡面を魔法で浮かばせる。


「間合いがっ……悪いっ……! 曲がれェっ……!」

 ポニーテールの少女は勇ましい声を出して弧を描くように急上昇するが、絶対に誰かの手を握っていることを忘れている。


 絶対に忘れているでしょォォォォォオオオオオ!


 自分の声がついに枯れたと感じた時、

 「魔導式陣っ! ワープスタァッ!」

 ポニーテールの少女の叫び声が聞こえ、真上に魔法陣が浮かび上がる。


「上へェェェエエエ! 上がれェェェェェエエエエエ!」


 ポニーテールの少女の叫び声がより強くより激しくなると、箒みたいなマシンが今でも風を追い越せそうなくらいに速くなる。


 ――そして、風と共に魔法陣を追い越したと同時に手を離した。

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