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第一話四節 軌道! スタンドメイン


 今だからこそ考えてしまう小さい頃の自分のことを。


 自分が十歳の時、新型接触ウイルス『タッチ』が流行り、日本人のほとんどは『タッチ』を予防するためにワクチン摂取を行った。

 もちろん、自分もしようとしたが、注射器を右腕に打とうとした時に肌が痙攣して蕁麻疹が出てしまった。注射することによるストレスが肌に現れたのだろう。


 結果として、ワクチン接種は一切出来ず、薬での毎日の予防となった。


 ある日のことだろうか。先生がワクチン接種を話題にする。どうやらクラスのみんなはワクチン接種をやっていたらしい。その話題には自分はついてこれず、一切関わらないようにした。しかし、どっかのバカが隠し持っていたスマホのワクチン接種アプリでみんながワクチン接種しているかどうか検査し始めてしまった。


 見事に自分が引っかかる。


 結果として、ワクチン接種してないことで自分をウイルス呼ばわれ始め、『汚いウイルスが教室にあると気持ち悪い』と言っては筆箱を盗んで外に捨てられて、『お前はウイルスだから何をしてもいいんだ』と言っては蹴って殴られて……。

 いつの日か、自分がだんだん誰を信じればいいのか分からなくなってしまった。それ程、自分の心がボロボロにされていたのだろう。


 ある日、自分の心に光が差し込みだした。『対面ブレイカーWクリエイター』をレンタルで借りて見始めた頃だった。後からネットで調べて分かったが、当時の対面ファイターシリーズとしてはとてつもなく斬新だったらしくて、破壊者と創造者が手を組み、狂った人間に憑依した悪魔アクマントを破壊して、願うべき世界を創造する物語だそうだ。その中でも特に心に響いた第40Wの『心は負けるな』で描いてきたいじめられっ子がひょんなことから破壊者と創造者に出会い、いじめられっ子が自分の心だけはいじめっ子に負けないように戦い始める話は感動的で、いつの日かあの話のようにいじめっ子達に立ち向かって心だけは絶対に負けないようにしないとって思えることが出来た。そして、そのメッセージを今いじめで苦しんでいる人達へ届けることをしなければいけない。


 ――だから、今、死ぬわけにはいかなかった。


 ただひたすらに自分には未来でやらなければいけないことがあるから生きたいという感情だけで足を動かしていた。それがどんな結果になるかどうか分からないとしても、自分には未来を生きていかなければならない理由があった。

 ¨赤¨の世界に広がる田んぼ道を自分はただひたすらに走っていた――無我夢中だったからか、隠れる場所が多い業無北小学校を目指して足を動かしていた。

 学校なら校舎も硬いし安全だろう。ベンチよりやわじゃないはずだと考えた上だった。


 学校に着いたら隠れてその場を過ごそう。走り続けるのは正直、きついから足を休ませながら状況を整理して気持ちを落ち着かせよう。


 目の前に業無北小学校があると確認した時――一つの火球が学校に向かい、爆破させた。


「嘘だろ……!」

 自分の目にメラメラと燃え盛る業無北小学校が映ることに思わず立ちすくんでしまう。自分の最後の希望を打ち砕かれたことに衝撃が大きいどころじゃない。自分の逃げ場がなくなってしまった絶望感の方がデカい。


「ウロムノロアモイヲウロミ! カラス!」


 ハッとして後ろを振り返ると、異形の犬耳化物が公園のベンチを破壊した右腕で自分にお手をしてくる寸前だった。


 何もない無の空間から魔法陣みたいなものが現れ、光の線状になったものが異形の犬耳化物を正確に貫いた。

 光の線上になったものは、いかにもSF映画で見ている感じの光――ビームなのだろうか。

 ビームをまともに受けて苦しむ異形の犬耳化物を自分は見ているしかなかった。


「後を追いかけて良かったわね! 君、大丈夫?」

 横から少女がヒョイと姿を表して、自分に声をかけてくる。

 ――その姿は今朝の夢から出ている少女の雰囲気にそっくりで、ポニーテールに杖、服装も共通していた。だからといって同じ人物とは限らない。せめて、夢でどんな声をしているか分かったらよかったのだが。


「ねぇ? もしもぉ~し? 大丈夫?」

 ポニーテールの少女は自分の目の前で左手を左右に振ってくる。


「大丈夫……だけど……、後を追いかけたァ!?」

 ふと、さっきポニーテールの少女が発した言葉を思い出して驚いてしまう。すると、ポニーテールの少女は得意げに杖を右手で回転させながら、左手に魔法陣みたいなものを浮かべた。


「そうよ! 地球の未来(みらい)を救うためにね!」

 ポニーテールの少女はウインクしながら自信満々に答えると、姿勢を異形の犬耳化物に向いた。


 ――ポニーテールの少女の目つきは真剣だ。


「アモイマゼヨモスルノロカラス!」

 異形の犬耳化物が今度こそ殺そうとばかりの言葉を発しながら熱光源を溜めだした。火球を自分達に向かって吐き出すつもりなのだろう。


「ねぇ? もし、あなたに未来を変える覚悟があるなら力を貸してくれる?」

 ポニーテールの少女は声を自分に向けて話す。


 ――その言葉、声には熱があって、どこか震えていた。でも、その言葉、声を信じざるを得ない。


「あぁ! 貸すよ!」

魔導装着者(マジックヴェーラー)! 軌道せよっ! スタンドメインッ!」

 ――その時、ポニーテールの少女の声に反応して、自分のアイウィンドウから町の外灯からありとあらゆる電子機器が光りだす。異形の犬耳化物が火球を吐き出した時、周りの光が一瞬で矢印みたいな形になって自分達を守るかのように包み込んだ。




 果たして、自分は死んだのだろうか。




 周りを見渡しても景色は変わらない。目の前で異形の犬耳化物が首をかしげているっていうことは、さっきの熱光源は防げたみたいだ。じゃあ、どうやって防いだ。


「さぁ、ボサってしてないで戦ってくる!」

 ポニーテールの少女におもいっきり肩を叩かれる。しかし、不思議なことに痛くともビクともしなかった。


 ポニーテールの少女は鋼鉄を叩いたかのように手を痛そうにうずくまった。

「いったぁ~、自分の姿をよく見なさいよ!」

 ポニーテールの少女は手を抱えてうずくまりながらも、杖で円を描くように空中になぞる。すると、鏡面が浮かび上がる。


 ――自分の顔ではない何者かが目の前に映る。装甲と思われるものは鉄のように鈍く光り、その隙間からは赤いラインが走っているかのように発光していた。色こそ違うが自分の今朝の夢で見た光を纏いし鎧の英雄に似ている姿だった。思わず声に出してしまう。


「夢じゃない!?」

「分かった? あなた自身が盾になったのよぉ!」

 ポニーテールの少女は痛々しい顔で自分に向けて声を発した。


「フゾキルナマトエゴエネセラ!」

 異形の犬耳化物は挑発されたかのようにこちらへ向かってくる。相変わらず何の言葉を発しているか分からないが、今の自分には戦えるだけの力があるってことは身に染めて分かる。ならば、やることは一つ。あの異形の犬耳化物を戦ってみるということだ。


「ハァッ!」

 試しに真正面の異形の犬耳化物を目掛けて右の拳を突き出す。すると、周りの空気が衝撃

波に変わったかのように発生し、見事に異形の犬耳化物に当たって後ろによろける。

 次に、異形の犬耳化物が後ろによろけたので、体をひねるかのように回転して右足で異形の犬耳化物を蹴り飛ばした。


「エオエ!」

 異形の犬耳化物は痛みを耐えるかのように叫ぶ。顔の透明に見える部分、右肩、左肩の目のレリーフ部分がキラリと光る。――痛みに対する涙なのだろうか。それはまるで何かを悲しんでいる様子だった。


「トドメをさすなら今よ! 必殺技みたいなの!」

 ポニーテールの少女はトドメをさせと言ってくるが、流石に初めての戦闘で何もわからないのにそれは無茶なのだろうかと自分は思う。


「必殺技みたいなのってどうやってやればいいの?」


 分からないからポニーテールの少女に聞いてみたが、

「想像力よ! 想像力! 腕にありったけの力を溜めなさい! そして、解放するの!」

 少女はひたすら手に力を溜めてから腕を開く動作をしていた。


 ――次の瞬間、異形の犬耳化物は火球を吐き出してきた。防御が分からない以上は今の自分は丸腰に近い。まともに直撃するだろうと思った時――。


魔導式陣(マジックヴェール)! リフレクション――」

 ポニーテールの少女が叫ぶと自分の目の前に魔法陣みたいなのが円形に広がり、異形の犬耳化物が発射した熱光源を何事もなかったかのように吸収した。


 円形の魔法陣みたいなのが菱形に変わる。そして、

「――ジャガァァァアアアノーテッドォ!」

 吸収した熱光源を一気に跳ね返し、見事に異形の犬耳化物に命中して、爆風が巻き起こった。


「今度こそキメて!」

 ――ポニーテールの少女が叫んだ時、爆風の黒煙から異形の犬耳化物が飛びつくように現れる。自分は右手の拳に力を込める。すると、確かに力みたいなのが溜まっている感じがし

た。これなら行ける――。


「この拳でぶっ飛んでいけェェェエエエ!」

 右手の拳が異形の犬耳化物の頭にめり込むように直撃し、燃えている業無北小学校の方へ飛んでいく。

 これでもかっていう気持ちで両腕に力を込める。そして、目を閉じて、――今朝の夢で見た光を纏いし鎧の英雄が異形の化物達に放った技をイメージする。


 「見えたっ!」


 溜めた力を矢のように射出するイメージで、手を垂直に伸ばして一気に開く。

 「《直矢の道通》アロォォオド! スルゥゥゥウウウ!」

 貯めた力が光の矢印となって相手を貫く。それはまるで、自分のこれからの心のようで、誰にも邪魔させない止めさせない気持ちで放った必殺技だからだろう。


 「スビチアモイナシエ……」


 異形の犬耳化物は光の矢印と一緒に業無北小学校の校舎の壁に突き刺さる。すると、作られた¨赤¨の世界の空に光の矢印がキラキラと浮かび上がり、異形の犬耳化物は爆発した。

 ――その刹那、作られた¨赤¨の世界が崩れさり、自分の目で見ている映像がカットアウトされたかのように気を失ってしまった。


 気がつくと、さっき戦っていた業無北小学校の校門前に立っていた。自分の手を急いで見てみると、そこにはいつもと変わらない手のひらが広がる。


 「夢……だったのか……」


 でも、夢だとしたら、何故、業無北小学校前に立っているのか? ということになる。さっきまで、業無総合病院前の小さい公園にいたはずなのに、歩いて四十分かかるだろう業無北小学校の前にいるのはおかしく感じてしまう。しかも、業無北小学校はどこも燃えていない。


 時刻が十八時を指すとき、どこか懐かしく感じてしまう『夕焼け小焼け』が町内で鳴りだす。良い子はもう帰らなきゃいけない時間なのだろう。


 「協力ありがとう! 君にはこれから起こる様々な怪事件に協力してもらうから」


 声に気づいてハッと振り返る。そこには、夕焼けに照らし出されたポニーテールの少女がポツンと立っていたのだ。


 少女は逆光で黒く見えても、自然本来の赤い夕焼けはどこか感傷的で、自分の世界に帰ってきた実感があった。


第一話、無事に投稿終わりました!

もし、気に入って頂けたら広告下のいいねや感想をもらえるととても嬉しいです!


読んでいただきありがとうございました!

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