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せっかく時を遡ったので、今回の人生は負けません!

作者: 浅村鈴

「苦しい…。辛い…。どうして私だけ?

何故私が苦しむ姿を見るのが楽しいって言えるの?

私の存在が許せないって…。生まれたのが間違いだって…。死ねって…。死んだら楽になるの?

この地獄から解放されるの?楽になりたい…。もう何も考えたくない…。

お父様、お母様、お兄様達ごめんなさい……」



私は湖に一歩ずつ進み、沈んでいった。

今の苦しみより、いままでの苦しみから解放される喜びが大きかった。

水面に映る満月が綺麗だと意識がなくなる瞬間まで思っていた。





♢♢♢♢♢♢♢♢







「う…ん?ここは?」


見覚えのある部屋だった。


私は死ねなかったのか……。また苦しみの日々が続くのね…。

そう思うと涙が止まらなかった。

ふと鏡を見ると鏡の中の私が、私に話しかけていた。


「貴方はだれ?」


「私?私は貴方よ。

貴方であり、貴方の前世の記憶も持つ貴方。私達は時を遡ったのよ。

きっとあの時見た月の魔力のせいね。私が貴方の力になるわ。

だって貴方は私で私は貴方だもの。一人じゃないわ」


「一人じゃない」


その言葉に救われ、いつしかまた眠りについていた。





もう一度目が覚めた時、侍女のニーナが声をかけてきた。


「お目覚めですか?シャロンお嬢様」


「おはようニーナ。今日は何月何日かしら?私は今何歳かしら?」


「どうされたんですか?今日は6月8日でお嬢様は来月12歳になられますよ」


「ごめんなさい。大丈夫よ」


12歳、あの日から4年遡ったのね……。

私はシャロン・ストリーム。ストリーム侯爵の末娘で、その前の人生はシャロン・ファーガソンだった。

今世のシャロンは高位貴族の生まれなのに、大人しくて、人に言い返すことも出来ない虐められっ子だった。

前世のシャロンは生まれは下級貴族の娘だったけど、自分の実力で皇女付き聖騎士団長にまで、のし上がった人生だった。

前世を思い出し、今世は遡った。

傷つくだけの人生はやめる!私の新しい人生を全力で、生きると決めた瞬間だった。

この国の貴族の子供達は15歳になると必ず王立学園に通わなければならない。私は学園に入学してから虐めにあった。誰にも言えず、死を選んだが、これからは負けるつもりはない!

私は一人じゃないんだから。

学園入学まで3年ある。それまでに考えられる全ての事をやってやる!

あら、言葉遣いまで前世のシャロンになってるかも。気をつけなければ…。



ストリーム侯爵家の末娘の私は両親と4人の兄達に溺愛されていた。

12歳の誕生日プレゼントは事前にそれぞれにお願いをした。

両親には領地内に小さくても良いので、誰でも無償で通える学校と診療所を建てて欲しいとお願いした。その願いは叶い学校も診療所もシャロンの名前が付いた。正直恥ずかしかったです。


四男のフランシス兄様には学校で教えてくれる先生を見つけて欲しいと。学園に通う前に私も通って勉強するからと言うと素晴らしい先生達を見つけると約束してくれた。


三男のリチャード兄様には診療所で診てくれるお医者様を見つけて欲しいと。領民もだけど、近くに素晴らしいお医者様が居たら調子が悪くなる前に見てもらえると日々安心して暮らせると言うと、名医を連れて来ようと約束してくれた。


次男のマルティス兄様には3年後に入学する学園に信頼出来る先生を派遣して欲しいと。学園に入学して誰にも相談出来ないと怖いのだと涙を浮かべたら信頼出来る者をすぐ手配してくれた。


長男のキルシュ兄様には私の護衛兼侍女になってくれる年齢が近い者が居ないか聞いた。最近誰かの目線が気になり怖いのだと。

すぐに我が家の暗部から人を回すと言ってくれた。

そしてキルシュ兄様に直接自分の身を守る為の技を教えて下さいと伝えた。2人だけの秘密だと言ったら快く了承してくれた。


学校が完成してからは午前中は学校に通い、午後からキルシュ兄様が手が空いてる時は手解きを受けた。

キルシュ兄様が付けてくれた侍女は私より2歳上のエリカと1歳上のセリカ姉妹だった。

2人は暗部に席を置く両親から小さな時から訓練を受けていた為、若くても暗部のトップクラスの実力を持っている。

学校には勉強以外に就職に役立つ様に専門職を教えてくれる学科もあった。

デザイン科では領内のトップデザイナー、サラエナが教えてくれた。

元々デザインを考えるのが好きだった私は先生にデザイン画を見せると、先生は興奮しながら、素晴らしいと絶賛してくれて、直ぐに販売まですると爆発的に売れていった。

未成年の私の保護の為、「リネージュ」と言う名の架空のデザイナーの作品だと発表した。

その後は服だけでなく、バック、靴、宝飾まで発表し、リネージュの名は一大ブームとなった。

リネージュの売り上げ金は、領内の孤児院への寄付と地方貴族が学園入学に必要なお金の貸し付け基金財団を設立した。窓口はストリーム家がしてくれたので、貸し付けを頼む貴族達も安心して貸し付けをお願いしに来た。地方貴族は子供達を学園に入学させ、卒業するまで大変な思いをしているのを時を遡る前の私は両親から聞いていたのだ。

貧富の差や身分の差で優秀な者が辛い思いをするより思いっきり学園を楽しんで欲しい。

週に一度マナー教室も開催した。

入学前にマナーを学びたい地方貴族の子供達が通っていた。

講師はお母様とお母様の友人達がやってくれた。

社交界の華と呼ばれている方々の豪華な顔ぶれだった。

ストリーム侯爵家の評判は益々高まっていった。




♢♢♢♢♢♢





あっという間に3年が経ち入学式もとうとう明日だ。

学園は全寮制の為領地から離れないといけない。

入学式前夜エリカとセリカが相談があると部屋に来た。


「シャロン様、私達はシャロン様と終身誓約をしたいと思います」


「私達の希望を叶えて頂けますか?」


「わ、私で良いの?私なんてまだまだなのに……」


「3年間シャロン様の侍女としてお側にいて、これからは唯一の主人と呼びたいと思いました。ぜひ私達と誓約を……」


「ありがとう。貴方達に恥ずかしくない主人になる様にもっともっと努力します!」


シャロンはエリカとセリカ姉妹と終身誓約をした。





学園入学日、今日から戦いが始まる。



「お父様、お母様、お兄様達、行って参ります。休日には帰ってきますね」


シャロンはエリカとセリカと共に笑顔で馬車に乗り込んだ。






♢♢♢♢♢♢






時間を遡る前の入学式でも学園でも友人と呼べる人は居ずいつもひとりだったが、今は違う。マナー教室や訪れた領地で知り合った子息や子女達が声を掛けてくれた。

嬉しい!楽しい!心から思った。

そんな笑顔に囲まれたシャロンを見て面白く無いのが地位の高い公爵令嬢のカレン・ラーモンドだった。遡る前の学園でシャロン虐めを指揮していた張本人だ。

カレンは王太子妃候補の1人で家柄など含め最有力候補でもある。


「なんであんな子の周りに人が囲んでるのよ!今日からこの学園の主役は、ヒロインは、私なのよ!」


そう言いながら爪を噛んでいると。


「カレン様より素晴らしい令嬢はいませんわ」


「そうですわ。気にされずに。だってあそこに居るのは低い地位の貴族の者ばかりですもの」


カレンの取り巻きの2人が声を上げた。


「そうね。あんなマナーも知らなそうな野蛮な者達は気にする必要ないわね」


2人に言われた言葉に簡単に機嫌が治るカレン……。公爵令嬢の割に単純な性格。




とうとうマナーの授業が始まった。

高位貴族を親に持つ者は下位貴族の子供達を見下し、マナー教育など知らないだろうと卑下していた。そんな下位貴族の者達がマナー教育を含む学年テストで上位に名を連ねていた。

シャロンは学年首位。下位貴族を馬鹿にしていたカレンは16位だった。


「一体どんな手を使って不正したのよ!」


貼られた成績表を見て納得がいかないとばかりに、カレンが声を上げた。


「誰も不正などしていませんわ。彼らの常日頃の努力の賜物です」


「不正じゃなければ、この成績はおかしいじゃない!」



「カレン・ラーモンドさん。一体何の騒ぎですか?」


ダニエラ先生が騒ぎを聞きつけて声を掛けてきた。


「先生!テストの成績表を見ました!あんな結果おかしいと思います!私達高位貴族に生まれた者は幼い頃からマナーや勉強に励んできました!それなのに、ろくな教育も受けれない下位貴族の者達が成績上位なんて納得できませんわ!何か不正したに決まってます!調べて下さい!!」


「試験中には不正が出来ないように教室内には沢山の監視官が居ます。不正など不可能です。それに貴方は高位貴族だからとか下位貴族だからとか言われていますが、学園では貴族籍の上下関係はありません。生徒は皆同じ立場と入学時に習ったはずです!」


「そ、それは……」


「先程カレンさんは下位貴族の方はろくな教育を受けていないと言われていましたが、最近の新入生達はそれぞれが出来る勉強を努力されて入学されています。成績も驚くほど向上しています。特にストリーム侯爵領では希望されるお子様達にマナー学や勉強を侯爵夫人や夫人のお友達方が直接教えていらっしゃるそうです。社交界の華である方々からの教えを貴方は疑うのですか?」


「し、失礼します」


カレンは一言だけ言ってその場を走り去った。取り巻き達はカレンの後を追った。


皆さん、この成績に不正は一切ありません。素晴らしい成績です。これからも自信を持って頑張って下さいね


「「「はい!!」」」




♢♢♢♢♢♢♢



時を遡る前と同じようにカレンのイジメはあった。教科書を破り、机に死ねと書いたり、ドレスを汚したり、前世と違うのはシャロンがそのイジメに事ごとく対処できていた事だった。

カレンはシャロンの辛い顔、悲しむ顔が見たかったのに事ごとく失敗し、悔しくて仕方なった。





学園生活は2年間、あっという間に卒業の日を迎えた。卒業式を終え、慰労と旅立ちの卒業パーティー。会場は華やかだった。


「やっぱり貧乏人達はろくなドレスも用意できない様ね。卒業パーティーで恥ずかしく無いのかしら?」


「カレン様のドレスはリネージュの物ですよね?素敵ですわ」



カレンの取り巻きの1人が声高々に言った。


「一年前から注文して今日の日の為に作らせていたのよ」


カレンは高級なドレスを着て澄ましていた。


「素晴らしいですわ」


取り巻き2の令嬢も褒める。


カレンのドレスはレースやリボン、宝飾などを沢山使った豪華なドレスだった。

それに引き換えカレンが嫌っている下位貴族の令嬢達はレースはふんだんに使われているがシンプルなドレスだった。


「カレン様、失礼を承知で申し上げますが、私達のドレスも小物も靴もリネージュ作でございます。シャロン様が卒業祝いに私達にプレゼントしてくださったんです」


「そ、そんな訳ないじゃない!嘘はみっともなくてよ。大体それだけの人数のドレスを注文出来る訳ないじゃない!」


自分のドレスと同じデザイナー作だと言われカレンは苛立った。


「嘘じゃありませんよ」


そう言って声を掛けたのは王都のトップデザイナーでありリネージュを抱えるブティックの経営者のサラエナだった。


「カレン様が一年前にご注文されたドレスは間違いなくリネージュに依頼された物です。ですが、デザイン画はラーモンド公爵夫人が直接描かれたドレスを元に製作させて頂いております。ご依頼の通りに。

ちなみにあちらのお嬢様方のドレスはデザイナーのリネージュ自らが其々に似合うドレスをデザインし、作った物です。オートクチュールですわね。シンプルなのは後に娘や嫁に譲る事が出来る様にですわ。それに使われている生地はシルクと言う東の国の貴重な生地ですし、レースは其々の領民の女性達が代々伝わる模様を編んだ物を使われています。

この一年リネージュはこちらのお嬢様方のドレス以外は作っていませんから、付加価値は凄い事になるでしょうね」



「そ、そんな…」


カレンはドレスを握りしめていた。


「パーティー後に発表致しますが、リネージュ本人はシャロン様でございます」




「「「「えー!?」」」」


サラエナの言葉に流石に会場がどよめいた。


「……」


カレン1人を除いて……。カレンは言葉を失い立ち尽くしていた。

そんなカレンの前にシャロンが歩み寄った。



「カレン様、実はカレン様にもドレスなど一式を用意していますの。もしお嫌でなければ、少し見てもらえませんか?」


「どうして私のドレスまで……?」


「だってカレン様も同級生ですもの」


「でも私は貴方に色んな意地悪をしたのに……」


「そうですね。でもそのおかげで私も強くなりましたし、カレン様ご自身も学園生活で負けたくなくて努力されたのは知っています」


シャロンの言葉通り入学後すぐの試験で下位貴族に成績で負けてから、カレンは寝る間も惜しみ密かに努力して成績上位にいるようにしていた。その事が自身を変えていたのか、前世の時のように辛辣な虐めは今世ではなかったのだった。


「……さい。いままでごめんなさい。皆さんにも嫌な思いをさせて、ごめんなさい」


カレンはシャロンの懐の広さを感じ、頭を下げて謝った。


「はい!カレン様のお気持ち受け取りました。それではご一緒に来てください」


そう言って着替え室に誘った。


カレンのドレスは薄紫のマーメイドドレスで、胸と裾にカレンの侍女が作ったレースが使われていた。


「こちらのレースはカレン様の侍女の方々が家紋を編んで下さった物を使用しました。カレン様は愛されているのですね。サイズの相談も快く聞いてくださいました」


カレンは侍女達に感謝していた。


「いつもの巻毛も素敵ですが折角なので、雰囲気を変えてストレートにセットしましょう」


シャロンはエリカとセリカと共にカレンを仕上げていった。

会場入りした二人を卒業生達は温かく迎えてくれた。


卒業生達で楽しんだ後は親や親族、そしてお祝いの為に国王陛下夫妻と王太子、宰相が会場入りした。

国王陛下からお祝いの挨拶と王太子の婚約者が決まった事が発表された。

王太子はシャロンとカレンの前に立った。カレンは やはり と思った。婚約者に選ばれたのはシャロンだと。いまでは、それも納得できていた。シャロンに祝いの言葉を贈ろうとした時、王太子が手を差し伸べ声を掛けのはカレンにだった。


「カレン・ラーモンド嬢、私の手を取り今後私を支えてください」


「え?私?何故?」


カレンは驚いていた。


「正直、婚約者候補にはシャロン嬢の名前も上がっていました。でも私は人間味溢れ、なお向上心を持つ貴方に隣にいて欲しいと思いました。もちろん反対意見もありましたが、シャロン嬢がカレン嬢は王太子妃に相応しく、なにより王太子を慕っているのだと話してくださり、決まりました。これからよろしく頼む」


カレンは隣にいたシャロンを見つめ涙が溢れていた。


「カレン様、私も精一杯お手伝い致しますので王太子様と共にこの国を良い方向に導いてくださいね」



「はい!精一杯精進致します!この場の皆様に約束致します」


この言葉通りカレンは王妃になっても国の事、国民の事を考え、麗しの国母と呼ばれた。その側には相談役としてデザイナーであり、宰相の妻となったシャロンの笑顔があった。

もちろん学園での同級生達も今は其々役職についたり、その夫人になったりで皆で良い国作りに貢献していた。

どこを見ても笑顔が溢れる国になっていた。



沢山の作品の中からこちらを読んで頂き感謝します

活力になるので評価お願い致します

これからも読んでくださる方の笑顔や力になれる作品作り頑張ります

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― 新着の感想 ―
[良い点] 物語ですから、これくらい皆が幸せになれるのもいいですよね。 逆行前は自殺までしたのに、前世の価値観が入って、子供のいじめなんかは余裕で捌ける強さと、懐の深さが身についたんですかね。 悪役令…
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